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山田和樹&バーミンガム響が6月来日。《展覧会の絵》のレア版も

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(C)松尾淳一郎

「いろいろ新しいアイディアがあって、僕だけがやっているのでは(手が足りなくて)ダメ。パーマンのコピー・ロボットがほしくなってきました」

登壇していきなり、藤子不二雄の少年マンガに登場するアイテムの名を持ち出して、意表をつく“つかみ”で話し始めた指揮者・山田和樹。

昨年5月に英国・バーミンガム市交響楽団(CBSO=City of Birmingham Symphony Orchestra)の音楽監督に就任。6月末に同楽団を率いて来日、全国で8公演を行なう。1月、都内で記者会見に臨んだ。

“元祖“の《展覧会の絵》。勇気をもってチャイコフスキー

(C)松尾淳一郎

来日プログラムは、ムソルグスキー《展覧会の絵》のヘンリー・ウッド編曲版がメインのものと、チャイコフスキーの交響曲第5番がメインのもの。

ヘンリー・ウッド版の《展覧会の絵》なんて、めったに聴けないレア曲だ。ラヴェル編曲が圧倒的に有名で、通常演奏されるのはほぼラヴェルだが、じつは山田はラヴェル版をまだ一度も取り上げたことがないというから意外。

ロンドンの夏の音楽祭プロムスの初代指揮者でもあるヘンリー・ウッドによる《展覧会の絵》の管弦楽編曲はラヴェルより先に作られている。

「僕からすると、ラヴェルはこれを聴いて真似したところがいっぱいあって、これが元祖と言えると思います。編成がものすごく大きいのですが、舞台裏で演奏する鐘だけはどうしても日本に持ってこられない。どうするか考え中です。マニアックなお客さんに、『鐘がなきゃ、ヘンリー・ウッド版じゃないだろ!』と怒られたりするので先に言っておきます。必ず書いておいてください」

めったに聴けないといえば、もう一方のチャイコフスキーの交響曲第5番も。山田はこの曲を日本ではもう7~8年は指揮していないというから、今回の機会は貴重。

「理由は単純で、わが師匠・小林研一郎先生の大得意のレパートリーですから、不肖わたくしが指揮するわけにはいかないんですね。指揮するなと言われているわけじゃないけど、先生のやり方を見ていると、とても追いつかないと思えて。でもCBSOとだったらいけるんじゃないかと、勇気をもって選曲した次第です」

豪華な3人のソリストたち

(C)松尾淳一郎

協奏曲のソリストとして、シェク・カネー=メイソン(チェロ)、イム・ユンチャン(ピアノ)、河村尚子(ピアノ)の三人が同行する。

1999年生まれのイギリスのチェロ奏者シェク・カネー=メイソンはエルガーのチェロ協奏曲を弾く。2018年のヘンリー王子夫妻のロイヤル・ウェディングでの演奏を世界で20億人が視聴したことで注目を集めた。山田は、「いちばんいいなと思うのは彼の素直さ。素直に音楽と向き合っていて、そこにチェロで音を出す喜びがある。心がオープンで、音楽も角角しくなく、やわらかい響きの、えも言われぬ音をもっている」と評した。

2022年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで史上最年少の優勝者となった韓国のイム・ユンチャンはまだ20歳。昨年11月の山田のニューヨーク・フィル・デビューで初共演した(ショパン:ピアノ協奏曲第2番)。「素晴らしい才能!」と山田。ラフマニノフのピアノ協奏曲第4番を弾く。彼らは夏のロンドンのBBCプロムスでも同曲で再共演する。

河村尚子は山田が最初にCBSOとともに来日した2016年の公演でも共演して、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の熱演で聴衆を沸かせた。今回は同じラフマニノフの第2番。山田は彼女との関係を、「音楽を超えてソウル・メイトのような感じ」と語った。

ポジティブでパワフルなオーケストラ

(C)松尾淳一郎

山田は2023年4月にCBSOの首席指揮者に就任、昨年5月に音楽監督に“昇格”した。

「首席指揮者から音楽監督。何が変わったのかわからないと言ったら、メンバーの答えは簡単です。『More party ! 』。もっと奢れということなんですね。それならわかりやすい。今回の日本ツアー中も盛大なパーティができればと思います」

そんなCBSOを、「とてもポジティブなオーケストラ」だと紹介。

「イギリス人らしいポジティブさというかパワフルさというか。たとえうまくいかないことがあっても、バーミンガムでは、そんなのは『うまくいかない』の分類に入らない。夢のような時間が続いています。世界一しあわせな指揮者はこの僕だと思います。

バーミンガム市が財政破綻してしまって、現在、市からの助成金はゼロ。火の車です。なんですけど、どうしましょう?という空気がまったく漂っていない。頑張って、さらに良いことをやっていこうという、あのポジティブさはどこから来るのか。とても不思議なんです」

「そのポジティブさを世界に伝えたい。あの明るさを持っている人が集ったら、世界は平和になるんですよ。これはほんとの話。オーケストラは社会の縮図ですから」

会見中、山田和樹&CBSOの待望のCD録音が進行中だという未公開情報も明かされた。レーベルは名門ドイツ・グラモフォン。現在ウィリアム・ウォルトンの作品を録音中とのこと。うまくいけば、いずれ日本人作品も録音したいと、うれしい未来図も示した。

今回の来日8公演のうち東京と京都での4公演は、「RMF&山田和樹 グローバルプロジェクト」の一環として行われる。これは、音楽家の育成事業に注力する「ローム ミュージック ファンデーション」と山田が昨年立ち上げたプロジェクト。山田自身もロームの音楽在外研究生として渡欧した経歴を持つが、若い音楽家たちがより広く世界で活躍できるようにするために、日本の音楽の力を世界へ発信する新しいプラットフォームを目指す。

今回は具体的には、安価な学生席(S席4,000円)の設置や、若手日本人演奏家の公演参加(ヴァイオリンの福田麻子)、山田和樹による指揮セミナーなどが予定されている。

山田は自分の学生時代に開設された故小澤征爾氏によるロームの指揮セミナーの思い出を振り返った。

「小澤征爾さんとロームさんの音楽セミナー(指揮者クラス)。いいな、と横目で見ながら、僕は小林研一郎先生の門下だから、とてもそんなことは言えない。コバケン門下が小澤さんのアカデミーに行くなんて考えられないと思って、行かなかったんです。そんな徒弟制の最後の時代でした。今は時代も違いますから、多くの方に参加していただけたらと思っています」

6月12~14日にはベルリン・フィル・デビューも決まっている。その直後のCBSOとの来日公演とあって、

「ベルリン・フィルがうまくいかなかったら、どういう顔でツアーをすればいいんだろうか。そういうプレッシャーもあります」と冗談ぽく語った。

(C)松尾淳一郎

取材・文:宮本明

RMF&山田和樹 グローバル プロジェクト
山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=29140008

6月30日(月) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 イ長調 Op.96
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85[チェロ:シェク・カネー=メイソン]
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲《展覧会の絵》

7月1日(火)19:00 サントリーホール
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18[ピアノ:河村尚子]
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op.64

7月2日(水)19:00 サントリーホール
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 イ長調 Op.96
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番 ト短調 Op.40 [ピアノ:イム・ユンチャン]
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲《展覧会の絵》

7月5日(土) 15:00 ロームシアター京都 メインホール
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 イ長調 Op.96
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85 [チェロ:シェク・カネー=メイソン]
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲《展覧会の絵》

[その他の日程]
6月28日(土) 愛知県芸術劇場コンサートホール
6月29日(日) 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO
7月4日(金) アクロス福岡シンフォニーホール
7月6日(日) 横浜みなとみらいホール

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