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注目の演出家イリーナ・ブルック、二期会《カルメン》新制作初演

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イリーナ・ブルック (撮影:寺司正彦)

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2月に東京二期会オペラ劇場が上演するビゼー《カルメン》は、注目の演出家イリーナ・ブルックが手がける新制作の世界初演。これが日本でのオペラ演出デビューとなる。1月下旬、都内の稽古場で記者会見に臨んだ。

イリーナ・ブルックは俳優としての活動を経て1996年に演出デビュー。1999年に《魔笛》でオペラを初演出し(ネーデルランド・ライスオペラ)、2014年から21年まではニース国立劇場の監督を務めた。近年はウィーン国立歌劇場の《ドン・パスクワーレ》、ミラノ・スカラ座の《つばめ》など世界の主要劇場にたびたび登場し、大胆で革新的な演出が高い評価を得ている。

「《カルメン》を日本で上演することは、私にとって最大のチャレンジです。たくさんの要素が混在しているからです。フランスの小説を原作に、フランス人が作ったオペラ。物語の舞台はスペイン。それを日本の歌手たちと日本で上演するのですから。
私にとってオペラ演出の最大の使命は物語を伝えること。オペラはシンプルに、“歌われる物語”です。物語を伝えるうえで、何が助けになって、何が邪魔になるかを探求しなければなりません」

という彼女。今回はまず、衣裳や舞台美術をスペイン風にはしない。「スペイン」という西洋の要素が、日本での上演では少し邪魔になるからだという。また、現代社会においては、いわゆるジプシーをどのように描写するかは大きな課題で、まして日常的にその存在に接することのない日本では難題だとも。

「“スペイン”や“ジプシー”を色濃く描くのではなく、近未来の、想像上の世界が舞台です。“ノーマンズランド”(主のいない、誰にも支配されていない土地)。映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』からもインスピレーションを得ています」

イリーナ・ブルック

たとえば第1幕(たばこ工場)のビジュアル・イメージは、「きれいなゴミの山(pretty mountain of garbage)」だそう。

「カルメンが自由であることを表現するために、世界観をかっちりと決めるのでなく、自由な世界を描きたいと思います」

《カルメン》の音楽について

全体にとても劇的だが、なかにはオペレッタのように軽い部分もあるため、ドキュメンタリーのように完全にリアルに描くと、その音楽と合わないという。

「“カワイイ”(←と日本語で)音楽を悪い盗賊が歌ったりするので、そこをどう描くか。バランスをとりながら描きたいと思います」

《カルメン》には、歌の間を台詞でつなぐオペラ・コミック版と、それをレチタティーヴォにして改作したグランド・オペラ版があるが、今回は台詞もレチタティーヴォも大胆にカットされるようだ。

「指揮の沖澤のどかさんと相談して、長くなりがちなレチタティーヴォや台詞をカットしています。私が演劇も手がける演出家なので、東京二期会の方は最初、台詞が増えるのではないかと心配したようです。でも、まったく逆です。どんなに素晴らしい歌手でも、台詞では歌と同じエネルギーになりませんから。
本来は台詞で説明しているような部分も、動きなどで表現して、非常にテンポの良いものになっています。オペラのエキスパートの方も、『ここにはあの台詞が入るはずだ』などと考えず、ぜひ新しい目で見てください」

彼女の父親である演出家ピーター・ブルックについても質問が飛んだ。2022年に97歳の長寿をまっとうして他界したが、今年は彼の生誕100年でもある。1987年に銀座セゾン劇場のオープニングでロングラン上演された《カルメンの悲劇》が大きな話題となったのを記憶しているベテラン・ファンも多いだろう。本物の砂を入れた砂漠の舞台。彼の著書名でもある“なにもない空間”に、演じる人と観る人さえいれば、それで芝居が成立する、というのが彼の演出理論だった。

「私にとってはまず第一に父親ですので、その仕事面だけを分けて語るのは難しいです。でも良き父であると同時に偉大な演出家でもあったのは、彼が素晴らしい人間だったからだと思います。私と父とでは演出スタイルがまったく違います。父はミニマリストでしたが、私は小道具をたくさん使うのが好き。でも演者を素晴らしく見せるというという目的は同じです。
父は『退屈は悪魔だ』と言っていました。お客さんの2パーセントぐらいは、初めてオペラを観る人だと思います。その人たちが退屈しないで観てくれたら成功です」

左から)カルメン役の和田朝妃、イリーナ・ブルック。衣裳は会見用で、公演ではスペイン風にはしないという

東京二期会オペラ劇場の《カルメン》は2月20日(火) から24日(月) まで4公演。東京文化会館大ホールで。出演はWキャストで、カルメンに加藤のぞみ/和田朝妃、ドン・ホセに城宏憲/古橋郷平、エスカミーリョに今井俊輔/与那城敬、ミカエラに宮地江奈/七澤結。原語フランス語上演、日本語・英語字幕付き。

取材・文/宮本明
写真提供:公益財団法人東京ニ期会
撮影/寺司正彦

<公演情報>
東京二期会オペラ劇場「カルメン」

2025年2月20日(木)〜24日(月・休)
東京文化会館大ホール

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2454804

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