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注目の新星・砂田愛梨が新国立劇場《ジャンニ・スキッキ》に登場!

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「《連隊の娘》を見たか?」「砂田愛梨がすごかった!」

昨年の秋、東京界隈のオペラ好きたちのあいだでは、そんな会話が挨拶代わりになった。けっして大袈裟でなく、本当の話。

ソプラノの砂田愛梨。日本での本格的デビューとなった昨年11月の日生劇場のドニゼッティ《連隊の娘》の題名役マリーで、まれに見るセンセーショナルな成功を飾った。次は新国立劇場デビュー。2月上演の《ジャンニ・スキッキ》(プッチーニ)に、有名な〈私のお父さん〉を歌うラウレッタ役で出演する。年末年始を自宅のあるイタリア・ミラノで過ごし、2日前に東京に到着したばかりの彼女に聞いた。

「おかげさまで《連隊の娘》は周囲の反応もよかったです。プロダクション自体が素晴らしかったんです。プロダクションにこたえるだけで、もう作品の世界が見えてくるという感じで。私はお互いの理解度を深めるために、コミュニケーションを大事にしました。コミュニケーションをナチュラルにしておくことがいかに大事かというのは、イタリアで学んだことです。とくに喜劇の場合は、それが結果に直結すると思います」

東京音楽大学卒業・同大学院修了。新国立劇場オペラ研修所修了。2018年末からミラノを拠点に活動している。2月の新国立劇場ラウレッタ役は昨年末に急きょ決まった。

「新国立劇場の研修所の出身ですが、自分が大きくならないとここには戻ってこられないと思っていました。まだこれからですけれども、今は自信を持って歌えるレパートリーも増えてきた段階です。ラウレッタも、そのレベルでいけるという自信がある役なので、この役で機会をいただけたのは運が良かったと思います」

《ジャンニ・スキッキ》の登場人物たちの中で、ラウレッタはやや特異な立ち位置の役柄だと考えているそう。

「大富豪の遺産のことしか頭にない人たちのなかで、唯一ピュアな役ですよね。リヌッチョとの結婚を意識している恋する女の子。プッチーニがラウレッタのラブストーリーを入れたのは、それが“希望”だからだと思うんです。欲望や憎しみと、機転の利くずる賢い男だけでなく、そこに希望を入れることで、気が休まって喜劇が成立する。プロダクションの良いエッセンスになったらいいなと思っています」

ラウレッタ役ならベルカントの延長で歌うことができる

ジャンニ・スキッキ 稽古場

声楽的には、彼女が最も得意としているのはドニゼッティやベッリーニ、ロッシーニなどの「ベルカント・オペラ」の、リリコ・レッジェーロのレパートリー。《ジャンニ・スキッキ》は喜劇だが、音楽的にはより劇的な表現で書かれた「ヴェリズモ・オペラ」の系列に属し、ラウレッタは一般的にはリリコ・ソプラノが歌う役だ。

「でもラウレッタなら、私はベルカント様式の歌い方から延長させてよいのではないかと思っています。有名なアリア〈私のお父さん〉も、ベルカントの技術を持って歌えば、書いてあるまま、言葉と一緒に歌うだけで、無駄なくその役に見えるはずです。繊細な、心の奥底に語りかける言葉のフレージング。ベルカントの手法だと思うのです。

昨日の稽古でジャンニ・スキッキ役のピエトロ・スパニョーリさんもおっしゃっていたのですけど、プッチーニがロジックを書いているから、それをやるだけで表現になる。芝居になる。でもその世界に入り込むまで体に入れないとならないから、表出するまでにちょっと時間がかかるよねと」

発声は良い声を聴かせるためではなく、“言葉”とともにあるのだということだろう。ミラノで師事するルチアーナ・セッラ女史からもそれを叩き込まれている。世界屈指のコロラトゥーラ・ソプラノとして1980~90年代を中心に大活躍した名歌手だ。

「ヴェリズモだからといきなり声を張るのではなく、大切なのは言葉の表現。まず何を言っているのかがわかる発声の技術が必要です。言葉の響きが、美しい声・美しい歌に、呼吸を伴ってつながっているのがベルカントというものだと、厳しく言われました。

セッラ先生は、ドニゼッティを歌いなさい。歌えるように保っていなさいとおっしゃいます。あなたは絶対にリリコ・レッジェーロの声だから、今はリリコは置いておきなさい。それは歳を取ってから、いくらでも歌えるからと」

たとえ師と言い争っても信念を押し通す頑固さも

ジャンニ・スキッキ 稽古場

ちょっと“やんちゃ”なエピソードも教えてくれた。

「先生の言うことを聞かずに、いろんなことをやってみたり……。たとえば去年の3月には、イタリアの中規模な劇場で、蝶々夫人をやってみたんですね。蝶々夫人がベルカントとは言いませんけど、プッチーニはすごく繊細な書き方をしていると思うんです。でもやってみて、今の自分はその声ではないと自覚しました。1回なら歌えるかもしれないけれど、それが4公演、5公演となった時にはできないと思って、そこで線を引きました。本格的にやってみないとそれがわからない。不器用なんだと思います」

ときにはそれで師と喧嘩になることもあるそうだが、自分に必要だと思うことを押し通す頑固さも持ち合わせているのだ。自分の声を見極めようとする強い信念が彼女を導いているのだろう。

《ジャンニ・スキッキ》の直後に待っている「五島記念文化賞オペラ新人賞研修記念リサイタル」も楽しみだ。得意のドニゼッティを中心に「ベルカント」のレパートリーをたっぷり聴かせる[2月19日(水)紀尾井ホール]。

日本での活躍はまだ始まったばかり。輝く新星から目が離せない。

新国立劇場の《ジャンニ・スキッキ》は、ツェムリンスキー《フィレンツェの悲劇》とのダブルビル(二本立て上演)。2月2日(日)、4日(火)、6日(木)、8日(土)、東京・初台の新国立劇場オペラパレスで。

取材・文:宮本明

ブスト・アルシーツィオ劇場にて蝶々夫人役、2024年3月

アレクサンダー・ツェムリンスキー
フィレンツェの悲劇

ジャコモ・プッチーニ
ジャンニ・スキッキ

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2454663

2月2日(日)~2月8日(土)
新国立劇場 オペラパレス

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