『野生の島のロズ』監督インタビュー。“機械的な親切”がもたらす奇跡
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すべて見るドリームワークス・アニメーションの最新作『野生の島のロズ』が7日(金)から公開になる。本作は無人島に漂着したロボットがさまざまな動物たちと出会い、共に暮らす中で変化を遂げていく物語が描かれる。
監督を務めたのは、名作『ヒックとドラゴン』や『リロ&スティッチ』を手がけた才人クリス・サンダース。彼はキャラクターと物語を丁寧に紡いでおり、創作する上でのキーワードは、意外にも“別れ”と、日本公開題にも原題(WILD ROBOT)にも登場する“野生=WILD”だったようだ。
本作の主人公ロズは、人間の暮らしを手助けするために生まれたロボットだ。しかし、ロズは運搬中に無人島に漂着してしまい、動物しかいない島でプログラム通りに“お手伝い”をする過程で、ひな鳥のキラリ(オリジナルはBrightbill)を育てることになる。本作の原作はピーター・ブラウンの小説『野生のロボット』。娘を通じてこの本を知ったサンダース監督は、読んですぐにこの物語のユニークさに魅了されたと振り返る。
「ロボットを描いた物語がずっと大好きだったから、まさか自分にロボットものを監督できるチャンスがめぐってくるなんて考えもしなかったし、決まったときは本当にうれしかった! 本作がユニークなのは、まずはロボットがひな鳥の母親になるという展開ですよね。それに僕はロズがずっと“迷子”であるという設定もすごく大事だと思った。彼女は、人間のいない島に放り込まれて、自分がいるべき場所がどこなのかわかっていないから、とりあえず周囲にサービスしようとする。この段階で、観客にいろんな感情を喚起させることができるんじゃないかと思いました」

映画の前半部分ではロボットのロズは心が芽生えているわけでも、母の自覚があるわけでもない。彼女はプログラムされた通りに周囲に手伝いが必要か聞き、それが野生の動物であってもお構いなしにサービスし、サポートし、お手伝いしようとする。ハッキリ言うとそこには愛情はない。プログラムされた行動だけがある。しかし、相手がどう思うかまったく気にしない“空気を読まない機械的な親切”が結果的に、動物たちから受け入れられ、怪物扱いされていたロズは仲間になり、争い合っていた動物たちは団結することになる。ここが前半のポイントだ。
「人間だと相手のことを気にしたり、手伝うことで相手を不快にさせたらどうしよう? 自分は出て行かない方がいいんじゃないかな? なんて想像するわけだけど、ロズはロボットだから、そんなことは考えずに手伝う。それでも彼女はシカに蹴られたりして拒絶されてしまうんだ(笑)」
蹴られても、拒否されてもロズは手伝いを続け、ひな鳥を育て、変化を遂げていく。何がロズを変えたのか? 母の愛が芽生えるきっかけになったひな鳥の存在? それもある。でも最も重要なのはロズが放り込まれた“野生”の環境だ。
「その点はすごく重要でした。この映画の冒頭でロズは“親切というのはサバイバルのためのスキルではない”とハッキリ言われます。このフレーズは、原作者のピーター・ブラウンが小説を執筆する際にずっと頭の片隅に置いていたガイドのようなフレーズだったそうです。小説の中にはこの言葉は出てこないんだけど、僕は絶対、映画の中に入れたいと思いました。
ロズの周囲の自然や動物たちはみんな利己的なわけではなくて、普通に生きていくため、この環境でサバイバルするためにそうしているだけなんです。その結果、彼らは“誰かと助け合う”なんて考えたこともなかった。ところが“機械的に親切にする”ロズが登場したことで、彼らはロズを見本にして行動を変え、ひとつに団結していく。そこがこの物語の面白いところなんですよね」
物語をラストまで引っ張っていく“重要なカギ”とは?

監督の考える“野生”には動物だけでなく風、雨、平坦ではない地面などの自然も含まれている。
「そう! このことについて話す機会がなかったからうれしいよ! 僕は映画の中でキャラクターが感じている感情と、その時の天気をあえて“ミスマッチ”にするのが大好きなんです。この映画の中でも天気はいつも崩れていて、快晴! というような日はないんです。僕はカリフォルニアのモントレーという場所で生まれたのですが、そこの天気もこんなグレーな感じなんです。そういう天気だと観客はそこで起こるドラマをリアルに感じてくれるし、そこに降り注ぐ光も面白いものになるんです」
本作の天候や光の表現は本当に繊細で美しい。サンダース監督は前作『野性の呼び声』で実写映画の監督を手がけ、スピルバーグ作品で知られる名撮影監督ヤヌス・カミンスキーとタッグを組んだが、その影響もあるのだろうか?
「ヤヌスと仕事ができて本当に運がよかったと今でも思っています。彼の光の作り方、使い方は感動的です。彼のつくりだす画は、私が観て育ってきた70年代の壮大な映画やアニメーション映画に通ずるものがあります。大きな影響を受けました。
それから彼がどのようにして撮影部を率いているのか知ることができたのも大きかったです。撮影中、どうやって焦る気持ちをマネージメントするのか? 厳しい条件でも絶対に撮りたいと思う画が出てきた時に、プロデューサーたちを前にどう振る舞うのか? そういうことも彼と仕事をすることで学ぶことができたわけです。
私は実写映画では不可能なカメラワークはアニメーションでもしないと決めています。ですから、実写映画におけるクレーンやドリー(水平移動する台車)のようなショットは描きますが、すごい狭い隙間を通り抜けるような物理的にはできないカメラワークはしません。理由は、実写のカメラワークというのは映画的言語として観客がその働きをちゃんと理解できるものになっているからです。その動きが観客の脳が自然と理解できる、コネクトできるものになっていると思うからです。今回の撮影はクリス・ストーバーが手がけてくれましたが、まるで“そこに誰かがいて撮影している”ようにカメラを動かしてくれました。固定カメラだと思ってもよく観ると“少しだけ”カメラが揺らいだりするんです。本当に素晴らしかった!」

ロズは相手に何を思われても親切を続け、ひな鳥に愛情を注ぐ。やがて野生の島の動物たちはひとつのコミュニティになり、ロボットのロズとひな鳥は母子になっていく。興味深いのは、本作における感動シーンや愛情表現は抱き合ったり、何か具体的なセリフを言うのではなく“相手がいない”シーンで表現されることだ。成長したひな鳥は、渡り鳥として島を空け、ロズもまた、ある事情から島からいなくなる。“ここにいない誰か”を想う。それこそが本作の最大の感動ポイントだ。
「まさにその通りだと思います! この映画では“別れ”が幾度も描かれ、重要な役割を果たします。キラリが島を飛び立ち、ロズと別れる場面ではふたりは大事なことをちゃんと語らないまま、キラリが旅立ってしまう。このシーンが物語をラストまで引っ張っていく重要なカギとなるんですよね。
実は最初、あのシーンでキラリが少しだけ笑顔を見せるカットがあったのですが、ストーリー部門のヘッドを務めてくれたハイディ・ジョー・ギルバートさんがその一瞬に気づいてくれて“この表情だとキラリとロズは別れて暮らしても大丈夫、という印象を与えてしまいます”と指摘してくれたんです。もちろん、慌てて修正しましたよ(笑)」

映画『野生の島のロズ』には不思議な出会い、別れ、いない誰かを想う時間……心を揺さぶる瞬間が幾度も描かれる。
「島の夏が終わり、秋が来て、冬の訪れと共に“別れ”を感じる。誰もが経験したことのある感覚が本作にも描かれています。僕はあのシーンが本当に大好きなんです!」
『野生の島のロズ』
2月7日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(C)2024 DREAMWORKS ANIMATION LLC.
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