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『石門』監督インタビュー 「“不安定さ”を映画の中に取り入れていきたい」

映画

インタビュー

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映画『石門(せきもん)』は、望まない妊娠をした女性リンの物語だ。彼女は診療所を営む両親が死産の責任を追求されて賠償金を迫られていることを知り、死産させてしまったという母の訴訟相手に、自分の子供を提供し“賠償金の代わり”にすることを思いつく。

先の読めない物語と、主人公の身体の変化、その痛みを描いた本作は、世界の映画祭を席巻し高評価を獲得している。監督を務めたホアン・ジーと大塚竜治は創作の過程で何を考えたのだろうか?

ー『石門』では、経済的な繁栄やテクノロジーの発展が背景に描かれ、主人公の周囲の大人たちは“安定した結果が望める取引”や"予測を裏切ることのない数値をベースにした行為”を求めては裏切られる様子が描かれます。一方、主人公はいつも不安定で、先の見えない状況に置かれています。

大塚監督 そのことは常に意識しています。中国では変化があまりにも早いので、安定というものが存在しないんです。テクノロジーの点でいうと、中国は各家庭に固定電話が普及するよりも先に、携帯電話が普及してしまった。

ー日本であれば固定電話が普及し、ある程度状況が“安定”した後に、携帯電話が個人に普及しました。

大塚監督 中国では一度も安定した状況がないままに携帯電話がやってきたわけですから、それは不安定ですよね。何かしらの答えが生まれるよりも先に前提となる状況が変わってしまうわけですから。日本だとそんなことは起こらないですけど、中国にいるとその状況が目に見えてわかるので、可能な限り、その“不安定さ”は映画の中に取り入れていきたいと思っています。

ーヤオ・ホングイを主演に迎えた『卵と石』『フーリッシュ・バード』そして『石門』は彼女の孤独感や、それを見つめる距離など共通するものを感じます。

ホアン監督 そうですね。ヤン・ホングイという俳優の向かっていく世界を同じ視点から見つめ続ける。それがこの3作品の変わらない姿勢だと思います。2012年に『卵と石』を発表し、2022年に『石門』を作り上げるまで10年かかりました。この10年というのは、オリンピック(2008年の北京五輪)を経験した中国に急激な変化が起こった時代です。そして、私たちはヤン・ホングイが12歳の時に最初の映画を撮影し、続いて彼女が17歳の時に2本目を、そして22歳の時に『石門』を撮影しました。この10年はヤン・ホングイが急激に成長し、変化していく時代でもあったわけです。

私は北京電影学院で映画を学んだのですが、そこでは“テーマがあるから映画をつくる”と教えられてきました。でも、私はテーマというのは、どこか説教くさいし、宗教の教えのようなイメージを抱いています。私はテーマよりも、日本語でいう……ソンザイ? 合ってる?

大塚監督 そう。「存在」

ホアン監督 「存在」という言葉が好きなんです。誰にも知られていない存在や、誰にも知られていなかった人、誰にも思われることのなかった感情、そういうものを発見することに興味があるんです。

大塚監督 それはふたりに共通する考えですね。

映画『石門』は苦境に立たされても何とか生きようと懸命に生きている女性の姿を丁寧に描いている。小さく、しかし力強い主人公の“存在”は多くの観客を魅了することになるだろう。

『石門』
2月28日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
https://stonewalling.jp
©YGP-FILM

撮影:杉映貴子

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