Laura day romance、『合歓る - walls』リリースインタビュー「今回は振り幅がすごいので、その分一曲一曲のパワーがある」

――アルバムを初めて聴いたときに映像的というより映画的なアルバムだと思いました。構成もアルバムの全体像も振り切った方向に行くんだとすごくアガったんですよ。

鈴木迅（g）　（笑）。一番いいっすね、アガってもらえるの。

――まず、どういう認識のもとで始まったのかをお伺いしたいのですが。

鈴木　そもそもアルバムを出してインタビューをしてもらうときに、「短編集的な」みたいに表現をされることが多くて。ストーリーテリングっぽい歌詞を書いて、かつそれぞれが並んでいると否が応でも短編集っぽくなるっていうのは思っていて、それに対して特別うれしいっていう感じはないというか、新しいことをやってるような感じも別になかった。ファースト、セカンドのサウンド面ではいろいろ挑戦していましたけど、統一感だけはキープしつつ1曲1曲を並べていくという作業だったので、そこからもうちょっと踏み込みたいというか。自分が日常で長いものを読むようになって、長編の本だったり何シーズンも続くドラマシリーズだったりを観るようになって、それは音楽も同じだと思っていて。例えば、有名なものだとケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』とか、そういう長編じゃないとできないことをやりたいなというのがスタートにあって。それに取り組むためにという感じで、今回は前編って感じですね。

――構造ありきなんですね。

鈴木　そうですね。流れありきというか、曲を並べる前の最初の段階で、ちゃんとストーリーを意識して作るみたいなのは今回初めてやってみた感じですね。

――世の中だんだん60分あったら何ができるかなみたいな考え方で、短い尺の映画が出てきたりしていますが、鈴木さんとしてはそことは逆でいこうと？

鈴木　というよりも、人気なアーティストや自分が見てるアーティストが、いわゆるサブスクやTikTok等も含めてインスタントなものばっかりうまくなっていって、聴き手側の体力がなくなってくるのはあると思っていたんです。長い映画が観られないとか、このアルバムは長すぎて聴けないとか、聴き手側の体力がなくなっていくのは分かるけど、それに対して作り手側も体力がなくなっているような気もして。それが僕的にはあんまり面白くないなと思っていて、自分は、そういう体力のあるというか、チャレンジングな作家が好きだったので、そこにいくためにって感じですかね。

――じゃあバンドにとってのサードアルバムというイメージはあまりなかった？

礒本雄太（ds）　サードアルバムという感じはそんなにしてない。だってまだここから続くし（笑）。そういう意味では今まで出したファーストとかセカンドと横並びになるような作品ではまずないなと思っていて。この後編にどうつながっていくのかっていうところがすごく楽しみだったので、ただのサードアルバムという感じはまずなかったですね。

――大きな物語として、作る上でどういう人が出てくるイメージがありましたか？ 主に何を軸に据えるというか。

鈴木　どの程度まで喋るのかすごく悩んでいて。でもこのアルバムを書き出したときに一個あったのが、ボーカルのかっちゃんと話していたときに、昔すごい仲良い女友達がいて、という......。

井上花月（vo）　今も仲良いけどね。

鈴木　今も仲良い女友達がいて、それは友達としていいと思ってたけど・・みたいな話だよね？ 振り返ってみればもはや恋愛的に好きっていうような感覚だとも思えるぐらいだったみたいな。

井上　うん、普通にその子の顔が好きすぎて。めっちゃかわいい子がいるなと思って。私、学級委員長やっていたんですけど、学級委員長たちって整列させなきゃいけないから朝礼のときに一番前に行くんですよ。その子も隣のクラスの学級委員だったので、学級委員同士で背が全然違うのに隣合えたんですよね。そのときに本当にキモいんですけど「今日は天気がいいですね」みたいなことを私が話しかけて（笑）。

鈴木・礒本　ははは。

井上　意味分からん挨拶をしたのに向こうも普通に応えてくれて。そこから一年ぐらい経って、塾が一緒になったことで急に仲良くなって、高校で一緒にバンドを組んで、その後もオリジナルバンド＝Laura day romanceの前のバンドをその子とやることになるんです。高校生のときも別にそんな意識はしてなかったけど、あれは普通の友達になる感じというよりはもう完全に好きな人に話しかける感じだったなという気がしていて。という話を迅くんにしていました。

鈴木　好きなアルバムとかでクィアというか、同性を好きになるテーマのものがあって、それこそフランク・オーシャンの『チャンネル・オレンジ』はそういうアルバムですけど、そういうものを自分は対岸の話だと思って聴いていたんです。ロマンチックだなと思いつつ、自分には当てはまる話ではないと思って聴いていたようなところがかなりあった。でもかっちゃんのその話を聞いたときに、育っていく中で勝手に、作られている型とかそういったルールを自分の中にスッと入れちゃうだけで、意外に誰にでもある感情かもみたいな。自分も男友達に対して「こいつ面白いな」とか「こいつカッコいいな」みたいなのはやっぱあるし、自分は違うって割り切れるもんじゃないなって初めて思ったんですよ。で、そこを中心に置きたいなというのは思っていました。その生まれた意識を起点にアルバムをを前編・後編で書こうというのを一個思ってましたね。

井上　迅くんは、生まれながらに決められた社会のルールがしっかり中にある人だなって大学生のときに思っていて、これはいい意味でも悪い意味でもなく単純にそう思って。だから逆に、次の作品のテーマにしてしまうぐらい、自分の中に起きた驚きと新発見という意味で、わたしの話を捉えた柔軟さにびっくりして。でも同性だから異性だからっていうのはこの曲たちからはあんまり感じないから、そこは迅くんの、自由度に結びつけるうまさだなと思いました。

――さっきの『チャンネル・オレンジ』の話じゃないけど、日本でそういう作品はあまり思い当たらないし、ひとつアルバムとして物語が広がっていくというのはすごくいいなと思いました。

鈴木　日本語でやるとなるとそこが難しいんですよね。どの程度開示するかというのが難しくて。そのバランスはずっと迷いながら作っているんですけど、そういう風に読み解くと、そう聴こえてくる感じの曲もたくさんあるだろうし、そこのすれ違いとかそこで生まれるもどかしさみたいなものがちゃんと書けたらいいなというのは思っていましたし、後編もその感じでまとめていくかなという感じですね。

――その軸みたいなものがあるからか音楽的に面白いことをやっていても、実験のためにやっている感じはしないんですよね。

鈴木　うん、なるほど。

――鈴木さんとしては、いくつかの場面やふたりの年齢とかを想定して一曲ずつ書いていったんですか？

鈴木　ストーリーを書いていく中で思い返すのもそうですし、例えば「転校生｜a new life!」は物語の中で割と時間を遡った想定の曲なんですけど、そういうピュアな面を見せることで、現在の時間の「smoking room｜喫煙室」とかが効いてくるというか、人間の中にある二面性とかちょっと身勝手なところとか、そういうものも書かないとピュアな感じが際立ってこないというのがあって。それは、場面の振り幅と同時にその人間性の振り幅みたいなものをアルバムの中でたくさん書こうと意識的に思っていて、それが軸になっているというか、いろいろな曲の選考の理由になっているような感じがしますね。

――その曲で描きたい時間軸の点みたいなものがあったとして、曲は歌詞がない段階からアイデアとしてはあるんですよね？

鈴木　うん。

――描きたいことと曲のアイデアはどう出会っていったんですか？

鈴木　基本的には弾き語りで今回も作って行ったんですけど、例えば、割とヘヴィな感情とかそういうものはヘヴィなギターに置き換えていったり、心情みたいなものが曲のテンポ感だったり、曖昧な部分をメロディとかに託してみたりっていうのはかなりあります。弾き語りの曲をアレンジしていくにあたって、どうやったら一番伝わりやすい形になるかな？ と考えていく過程で自然に選ばれていく音やフレーズがあって、それが最後まで残ったものがアルバムになるので、自分がその世界観に潜ってという繰り返しですね、基本的に。

――曲を作る人冥利に尽きる感じがします。

鈴木　（笑）、どうでしょうね、大変ですけど。

井上　でもめっちゃ楽しそう。

鈴木　楽しくないことはないけど、しんどい......ははは。

井上　確かに、過去も一個もしんどくないことはやってない（笑）。

――なかったものを作るってそうなりますよね。

井上　でも、以前のアルバムより本作のほうが、ある意味より多くの人に届くような気がしていて。

鈴木　今回、一曲一曲の力はかなりあって。以前のアルバムは統一感という点で場面転換みたいなものをバン！ と打ち出さなくて、グラデーションが徐々にクライマックスに向かっていく感じにしていたんですけど、今回は振り幅がすごいので、その分一曲一曲のパワーがあるというか、その場面はその一曲で描き切らなきゃという意識があるので、それがどう捉えられるかは分からないですけど（笑）、そう思いますね。一曲一曲が今作のほうが強い。

――井上さんは、歌うときに飲み込みやすかった曲と飲み込みにくかった曲はありますか？

井上　最初の曲「5-10-15 I swallowed｜夢みる手前」は、なんて言うんだろう？ しゃくりを入れる感じの歌い方をあえてしてほしいと言われたんですが、いつもあえて消しているから難しくて。この録音が一番手間取ったのは覚えていますね。「Sleeping pills｜眠り薬」は、サクッと録れたような気がするし歌いやすかった思い出があります。あと「mr.ambulance driver｜ミスターアンビュランスドライバー」は、私が小学生のときに聴いていた木村カエラさんのアルバムのイメージがわきあがって、よくカラオケで歌っていたから、その気持ちをちょっと持ちながら歌ったりしました。でも全部いつもより歌いやすかったかも。

――鈴木さんの中でストーリーになったものを歌う感覚としてはどうでしたか？

井上　一曲一曲が全く別の人たちの話のように違って感じるけど、「あ、でもこの複雑さが人間だよな」というか、そういう全部の面がひとりの人から生まれるのは当たり前だよねという前提があるのがすごくいいなと思って。だから、あるふたりの関係性を描いている物語中の一場面、みたいな気持ちで歌っていたような気がします。統一感もなくならないように気をつけました。

――そして、アレンジがすべて面白くて。礒本さんは、曲に対するアプローチという感じでやってらっしゃるんだと思うんですけど、自分のエゴとは全然違うみたいな曲はありますか？

礒本　ほぼ全部なんですけど。

鈴木・井上　ははは。

礒本　まあでも、その中でしいて言うのであればやっぱ「転校生｜a new life!」か。結構フレーズの指定も多かったり、逆に割と丸投げされた部分もあったりして。歌詞について聴きながら考えていたときに、二面性だとかもう二面性どころじゃないような曲もいっぱいあるとは思うんですけど、これまでの作品、それこそ「Young life / brighter brighter」のときとかは二曲で裏腹の部分を表したりする意思は感じていたんです。でも今回は、それを一曲にぐっとまとめてやってきたなという印象がすごく強くて。だから、一曲の中で演奏していて、苦しいところの後にすぐ開放的みたいな、聴いていてもやっていても抑揚がすごいというか、そういう曲は本作の中だと「転校生｜a new life!」が圧倒的でしたね。まあ、曲の展開が多いというのもひとつあると思うんですけど、苦しいところがより強調されたような気はしていて。ただそれも曲や作品の良さだよねと解釈しているので、全体的に本当に変なことをやっていると思います（笑）。プレーヤーだったら分かると思うんですけど、体の自然な動きから外れるというか、自分はそこにいきたくないんだけど曲がこのセクションで求めているのはこういうフレーズだ、というのは全体を通していっぱいありますね。

――何がリファレンスなのかもますます分からなくなってきていて。

鈴木　他人の曲でリファレンスを出すのはやめてますね、リファレンスの曲が100点になっちゃうので。

礒本　ふたりともまだ何も考えていないみたいな状態で（笑）、スタジオに入って「一発ずつ叩いていって欲しい」みたいな。「Sleeping pills｜眠り薬」の最後のフレーズとか、「今これ何の作業をしているんだろう？」っていうぐらい。「じゃバスドラいって、次はスネアにいって」みたいなことをやって、「いや、なんか違うから逆にしてみて」とか、「できるのか？」ってことを結構やっていましたね。

井上　決して手ぐせがないよね。

礒本　そうですね。自分の手ぐせみたいなのは確かにないかもしれない。

――だからと言って、全然違うものを接合させることが目的なわけでもなく？

鈴木　そうですね。本当に曲とか物語が求める......最初に映画と言っていただけましたけど、それを表現するものというか、その舞台装置を作るためのアレンジが頭の中にはあって。だから、例えばその意識で行くと単純に8ビートで行きましょうというわけにはいかなくなるときもあるというか、もっと近づく方法があるんじゃないかというので、そこを分解してみるみたいなアプローチは今までもやってきましたけど、今回もそういう感じかなと。

――気が遠くなりそうな作業ですけど、確かに曲と曲が作用してるからこそ映画的なんだと思います。

鈴木　自分の好きな物語でも、なんかこれって因果関係なのか？ みたいな種（タネ）がある物語はすごい好きで。だからそれは「smoking room｜喫煙室」で居合わせたふたりもそうだし、「転校生｜a new life!」で会ったふたりもそうだしという、いろんなところに「もしかしたら」が派生していく話が好きなので、それをアルバムの中でもやっているのかもなと思います。本作と次作は、そういう「これって、もしかしてあのふたりなのかな？」みたいな想像が膨らむように作っているので。だから、大筋の解釈は一個作りたいんですけど、併せてそういうことも意図的にやっているつもりではありますね。

井上　大筋の解釈は、後編が出たときに明らかになる？

鈴木　分かんない。明らかにするか迷ってる。しなくてもいいと思う。

――そしてこのタイトルですね。これを“ねむる”って読めたのは「合歓の郷」っていうのが実在するからなんですけど（笑）。

鈴木　なんでしょう、“合歓る”ってね。でもこれ、合歓（ねむ）って読むんだ！って俺も思ったんですよ、本を読んでいて。それがメモに残っていてアルバムのタイトルにしました。
自分の中では色々なイメージを込めていて、どこまでお伝えするかは迷うんですけど、、

――みんな調べるでしょ（笑）。

鈴木　（笑）。眠ることって一般的に個人的な営みでもあるし、他人と分かち合うことが出来ないことの一つだと自分は思っているんですが、それに“合い歓ぶ”という字を当てることでその認識から解放されるような気もして。分かち合えるものと分かち合えないものを同じ音で表現しているこのタイトルが物語にぴったりだなと思いました。

井上　ふーん、全然違う解釈してたわ。

鈴木　まあ、それでもいいんじゃない？

――井上さんの解釈は？

井上　合歓の木のイメージが迅くんの中にあって、その花の香りが漂っている中で、全曲いろんなシーンが描かれているから......これ言葉にするのは難しいですけど、いろんな場面を見ているのだけど共通して同じ匂いの中にいて、眠るということで一個一個の場面が転換するじゃないけど、振り幅を戻らせるのに一旦寝るという行為がリセットのように作用するから次の場面にいくよみたいな、そういうイメージをこのタイトルに勝手に思っていました。

鈴木　いいじゃん。それもいいじゃん（笑）。

――聴く人が自分の想像として何が浮かぶかっていうのが大事なような。

鈴木　うん、確かに。いや、そうなんですよね。ヒップホップの長いアルバムとか基本的に自伝的というか、幼少期はこういうことがあって、僕は今こういうトラウマを抱えていて、こういうふうに生きていくというラストがすごく多いんですよ。本作はそういうものではないのでどういう距離感で書こうというのは本当に最後まで迷っているし、それを後編でどういう結末に持っていくのかも僕はまだ迷っているんですけど（笑）。でも、そういうやりがいのある作業というか、本当にギリギリまで迷って、常に勝つか負けるか分からない賭けはしていたいですよ、作る人間として。で、負けたときは「まあ負けたか」ってなるだけなんで（笑）。今回もそういう賭けをできたアルバムだなとすごく思っていて。それに文句を言わずについて来ていただいた（笑）、みなさんには......。

井上・礒本　（笑）。

――そして、アルバムが出てから過去最大キャパシティのライブがありますが、ホールがすごく似合いそうですね。

井上　普通に座って聴きたいですもんね。

鈴木　座ったほうがいいよね。

井上　私たちの音楽は特にそうなんじゃないかなと思っていて。もう、ずっと座って見て欲しかったから、とてもいいタイミングだなとは思います。

鈴木　なんか難しいっすよね。ストーリーの流れがあるだけに。

――曲順を変えるのとか？

鈴木　そうそう。どうやってやろうかなとか。まあでも、それはそれで別だと思うし、物語を読むようにライブを聴いてほしいとはそんなに思わないというか。そこでは純粋に大きな音の音楽っていうふうに聴いてもらいたい。その場にそれを演奏する人がいるからというのが一番にあるので、そういうライブになったらいいなって思いますね。

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＜配信情報＞
『合歓る - walls』

2025年2月5日(水) 配信リリース

配信リンク：
https://lauradayromance.lnk.to/Nemuru-walls

【収録曲】
01. 5-10-15 I swallowed｜夢みる手前
02.Sleeping pills｜眠り薬
03.Amber blue｜アンバーブルー
04.深呼吸=time machine
05.転校生｜a new life!
06.mr.ambulance driver｜ミスターアンビュランスドライバー
07.subtle scent｜微香性
08.プラットフォーム｜platform
09.smoking room｜喫煙室
10.渚で会いましょう｜on the beach

＜ライブ情報＞
『Laura day romance oneman live 2025 wonderwall』

4月26日(土) 大阪・大阪城音楽堂
4月29日(火) 東京・東京国際フォーラム ホールC
開場 16:30 / 開演 17:30

【チケット情報】
一般：5,800円
U-22割：5,000円
※全席指定
※U-22割は2003年4月2日以後に生まれた方対象、枚数限定。

◾️ファミリーマート先行：2月11日(火・祝)23:59まで
https://w.pia.jp/t/lauradayromance-25/

Laura day romance 公式サイト：
https://lauradayromance.com/