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新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」上演。新制作含む20世紀の珠玉の3作品の魅力

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『火の鳥』より (撮影:鹿摩隆司)

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開幕まで約1カ月となった新国立劇場のバレエ公演「バレエ・コフレ」は、ふたつの新制作を含む意欲的なトリプル・ビルとして注目されている。「コフレ」とはフランス語で宝石箱という意味。色とりどりの宝石が放つ光が詰まった、魅力的なプログラムだ。今回上演される3作品はいずれも20世紀のヨーロッパで誕生した傑作だが、その趣、煌めきはそれぞれ相異なり、バレエの魅力、醍醐味はこれほどに多彩かと実感させてくれるだろう。

『火の鳥』は、20世紀初頭にヨーロッパで一世を風靡したバレエ・リュス初期の代表作のひとつ。セルゲイ・ディアギレフが率いたバレエ・リュスは、1909年にパリで旗揚げ公演を行い、センセーションを巻き起こす。ロシアのスターダンサーたちが登場、またピカソやマティス、コクトー、シャネルなど気鋭のアーティストたちを次々と巻き込んで現代的で斬新な作品を次々と上演すると、パリの観客は熱狂。その活動は約20年という短い期間ながら、後のバレエ界、芸術に大きな影響を与えた。その2年目のパリ公演で初演された『火の鳥』は、『瀕死の白鳥』で知られる振付家ミハイル・フォーキンと、若き作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーによる作品。『火の鳥』は、『ペトルーシュカ』、『春の祭典』とともにストラヴィンスキーの三大バレエに数えられる傑作で、彼の出世作だ。

『火の鳥』より(撮影:鹿摩隆司)

色彩豊かで神秘的、勇壮で躍動感にあふれる彼独特の音楽とともに繰り広げられるのは、ロシアの民話に基づく物語。魔王カスチェイの庭に迷い込んだイワン王子が火の鳥と出会い、その魔力に助けられ、カスチェイの魔法で囚われの身となっていた王女と結ばれるという、不思議な力がたっぷり詰まったおとぎ話だ。パリの初演で伝説的バレリーナ、カルサヴィナが踊った火の鳥は、どれほど気高く美しかったか、パリの人々をどれだけ圧倒したか、思いを巡らせる。新国立劇場では12年ぶりの上演だが、火の鳥を踊る小野絢子とイワン王子の奥村康祐というプリンシパル組、ファースト・ソリスト池田理沙子とファースト・アーティスト渡邊拓朗のフレッシュなコンビの二組が回替わりで競演、ファンの期待を集めている。

『精確さによる目眩くスリル』より(Photo by Mitsunori Shitara)

新制作の『精確さによる目眩くスリル』は、20世紀も終わりが近づく1996年に初演された作品。鬼才ウィリアム・フォーサイスが、自身が率いていたフランクフルト・バレエで振付けた。その後パリ・オペラ座バレエ、英国ロイヤル・バレエをはじめ世界の名だたるカンパニーで上演されてきた人気作が、ついに新国立劇場に登場。当初は2022年2月の上演の予定だったが、コロナ禍で延期、ファン待望の新国立劇場バレエ団のダンサーによるフォーサイス作品が、ようやく実現する。

『精確さによる目眩くスリル』より(Photo by Mitsunori Shitara)

クラシック・バレエへのオマージュがこめられているというこの作品。伝統的なバレエの枠組みを軽々と飛び越え、拡張させていくウィリアム・フォーサイスの振付は、優雅で柔らかな伝統的なバレエの動きからは想像もつかないほどのスピード感、力強さ、鋭さに満ち、すこぶる刺激的だ。黄緑の真っ平なチュチュをまとった女性ダンサーの姿が目を引くこの作品も、核にあるのはバレエのステップだが、より鋭く、よりパワフルに、よりスピーディーに躍動するダンサーたちの姿が強い印象を残す。しばしばオフ・バランスが取り入れられたり、目を見張るような回転が登場したりで、瞬きするのも惜しくなるだろう。シューベルトのシンフォニーの美しい調べとの絶妙な調和も見逃せない。バレエの革命児と称されるフォーサイス、2024年第39回京都賞受賞のニュースも記憶に新しい。新国立劇場のダンサーたちが彼のスリリングな振付に果敢に挑み、自身の可能性をどこまでも追い求める姿を、しかと目に焼き付けたい。

『エチュード』より © Yonathan KELLERMAN / OnP Courtesy of The Paris Opera Ballet

『エチュード』は、デンマークの振付家ハラルド・ランダーの作品。20 世紀半ば、1948年にデンマーク王立バレエで初演された。まず目に飛び込んでくるのは、チュチュをまとったダンサーたちがバーにつかまり、バレエの基礎的な動きを繰り返す場面。照明の下で音楽に合わせ、一糸乱れずにステップを追っていく姿はそれだけでもう美しい。バレエのレッスンへのオマージュとして創作されたこの作品には、バレエの様々なステップ、表現が詰まっていて、ダンサーたちの日々の弛まぬ努力に思いを馳せる。

『エチュード』より Guillaume Diop, Valentine Colasante and Paul Marque in Etudes, by Harald Lander
© Yonathan KELLERMAN / OnP Courtesy of The Paris Opera Ballet

ごくシンプルな衣裳をまとったダンサーたちが次々と繰り出すのは、パ・ド・ドゥの細やかな身のこなしからダイナミックな連続ジャンプまでさまざま。息つく暇もないだろう。音楽は、ピアノを習った人であれば必ず通る道といってもいい、チェルニー。ひたすら地道に取り組むエチュード(練習曲)は挫折した身にとってはあまりいい思い出ではないけれど、リーサゲルによる編曲が施された楽曲は限りなく軽やかで流麗に響いて心地よい。とかく女性が主役になりがちなバレエだが、男性陣も大いに活躍、クライマックスに近づくにつれて、ダイナミックな跳躍をのびやかに決めていく姿も記憶にとどめたい。メインとなる三人のダンサーは、プリンシパルの木村優里、井澤駿、福岡雄大の組、プリンシパルの柴山紗帆と李明賢、山田悠貴ら今後がますます楽しみなダンサーたちの二組が競演。粒揃いの新国立劇場バレエ団のダンサーたちだからこその、精緻で濃密な『エチュード』に期待を。

公演は3月14日(金)から16日(日)まで、東京、初台の新国立劇場 オペラパレスにて。

文:加藤智子

<公演情報>
新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」

『火の鳥』
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
美術:ディック・バード
衣裳:ナターリヤ・ゴンチャローワ
照明:沢田祐二

『精確さによる目眩くスリル』
振付:ウィリアム・フォーサイス
音楽:フランツ・シューベルト
美術・照明:ウィリアム・フォーサイス
衣裳:ステファン・ギャロウェイ

『エチュード』
振付:ハラルド・ランダー
音楽:カール・チェルニー/クヌドーゲ・リーサゲル編曲
ステージング:ジョニー・エリアセン
アーティスティック・アドヴァイザー:リズ・ランダー
照明:ハラルド・ランダー

芸術監督:吉田都
出演:新国立劇場バレエ団
指揮:マーティン・イェーツ
管弦楽:東京交響楽団

日程:2025年3月14日(金) 〜16日(日)
会場:東京・新国立劇場 オペラパレス

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557342

公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/triplebill/

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