タカハ劇団『他者の国』インタビュー:西尾友樹×本折最強さとし――「重いテーマをエンタメに昇華する」
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タカハ劇団『他者の国』
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すべて見る旗揚げ20年を迎えたタカハ劇団の新作公演『他者の国』が2月20日(木) より東京・本多劇場にて上演される。舞台は日本が大正デモクラシーから戦争へと突き進む時代。ある死刑囚の遺体を解剖するため、大学の解剖学教室に集められた6人の医者。彼らは思いがけず自分たちの倫理観と向き合うことに──。今作でともに医師を演じる劇団チョコレートケーキの西尾友樹とゴジゲンの本折最強さとしのふたりに話を聞いた。
「どう伝えるか」の高い山を登っている最中
──まず、『他者の国』の脚本を読んでの感想から聞かせてください。
西尾 「命の選別」という重たいテーマがどーんとあって、最初は「怖いな」と思いました。でも読み進めると要所要所で高羽(「タカハ劇団」脚本・演出・主宰)さんらしいエンターテインメントというか、笑えるところが挟まれていて。
本折 とにかく個々のセリフ量がすごいので、自分の中で消化するだけでも大変で。さらにお客さまにどう伝えるかという高い壁を、今少しずつ登っているのが楽しいところです。テーマが重たい分、稽古ではちょっとでも面白いところをどんどん広げています(笑)。
西尾 よく行き過ぎちゃうんですが、そこは高羽さんが修正してくれるので(笑)。

──それぞれの役柄を教えてください。
西尾 僕が演じる神原という医師は「患者第一」という、現代の医者にも通じるような倫理観を持っています。ただ、本折さん演じる尾白と対話する中で過去のトラウマや矛盾が出てきているので、ただのいい人ではない部分も感じますね。
本折 尾白は、出世欲もずるさも真面目さも人並みにある、普通に生きていれば順風満帆の人生を送れる人という印象です。でもタイミングを間違えたり、歯車が噛み合わなかったりという歪みを重ねて、大きくズレてしまった人。客観的に観ると「あーあ、哀れだなあ」と思います。
西尾 尾白は本折さんがやってくれるから面白い。稽古場がすごくハネるんです。普通に友達になりたい(笑)。
──劇団チョコレートケーキの西尾さんとゴジゲンの本折さん、お互いの印象は?
西尾 この前話して知ったんですけど、同い年でもあるんですよ。
本折 劇団の色もあるから、勝手に西尾さんはすごく真面目な方なのかと思っていました。
西尾 いつもそれで損をするんですよ(笑)。本折さんはやっぱりうまいから、面白いところはもちろん得意ですし、一方で医療について話すときはすごくクレバーに見えるんです。僕は彼よりエリートなポジションにいなきゃいけない役柄だから、難しいなと思います。
本折 稽古をやっていても、西尾さんのアイディアはすごく参考になります。どうやってお芝居やってるの!? と思いますよ。
個人技が光る人たちがきれいにまとまる稽古場

──稽古場の雰囲気はどうですか?
西尾 いろんな出自の方が集まっているから、最初は緊張感がありました。でもいまは稽古に入って2週間くらいで、各々のキャラクターも立ってきて、いろんなテンポやリズムが生まれているタイミングです。でもそれが、破綻しない。これはけっこうすごいことで、いい作品の証拠じゃないかと思って昨日ひとりで興奮していました。個人技が光る人たちが集まって、団体がきれいにまとまっている、「かっこいいな、この人たち」と。
本折 すごくメリハリがありますね。10分休憩があればゲームをやったりしてリラックスするけど、再開したらぐっと集中する。ダレない。
──稽古をしていく中で、特に注目しているキャストはいますか?
西尾 みなさん魅力的でひとりを選ぶのは難しいですが……。医師たちは基本病院内にいるんです。その中で、丸山港都さん演じる野口は外も知っている役柄なんです。丸山さんのキャラクターもあいまって、登場するたびに違う風をビューンと吹かせてくれるのがいいですね。
本折 同じように違う空気を持ってくるという面で、教授の奥様を演じる柿丸美智恵さん。医者たちの意見のぶつかりあいが白熱する中に全然違う話題で入っていく姿を見ると笑っちゃうんです。だから見ないようにしているのに、柿丸さんって声がもう面白くて。しかも毎回違う発声だから結局笑ってしまう。困ったもんです(笑)。
西尾 僕、柿丸さんと以前も共演したことがあるんですけど、稽古で何回やっても笑っちゃうシーン、本番はさすがに大丈夫かなと思ったら、本番でも笑っちゃった。だからもうしょうがない(笑)。
魅力的なキャラクターと時間を共有する経験

──高羽さんの演出はどうですか?
西尾 僕は前作がかなり久しぶりのタカハ劇団だったんですが、以前よりも軽やかさ、しなやかさが増したなと感じました。ひとりでも多くの人を楽しませたいという意思が感じられる。やわらかな……フェザーな感じ。
本折 レザーからフェザーに?(笑)。僕は今回初めてですが、お客さまが観て初めて完成するという目線を持っている演出家だなと思います。いい芝居をしていても伝わらないと意味がないから、伝えるために動きを整理してくれる。それと、幅広い世代のキャストに対して、差をつけることなく同じ温度感で接するのがすごく信頼できるなと思います。あと、照れ屋さんなのかなと思います。自分の作品に対してしっかり伝えつつも照れている感じ(笑)。
西尾 自分の生み出した登場人物に対してすごく愛がある人だなと感じます。社会派作品って、登場人物がテーマや作家のメッセージに埋もれて「このセリフは言わされているな」と感じることがあります。でも高羽さんの作品はまず人間があって、そこから出てくる言葉や会話で物語が紡がれる。稽古場でも僕ら俳優の持ってくる演技と自分のイメージをすりあわせて、まず人間を作ろうとしているのがいいなと思います。高羽さんが全キャラクターに「この人はこういうところがいい」という実感を持っているから、演じる上ですごく参考になりますし。
──最後に、改めて『他者の国』の魅力を教えてください。
本折 演劇は時間を自在に動かせるけれど、この作品では僕らと観客がずっと同じ空間と時間を共有するんです。ですから、観客のみなさんはこの世界観により引き込まれるのではないかと思います。
西尾 戦前が舞台だから、登場するのは自分とは違う昔の人と思うかもしれない。でも、誰かしら共感できる魅力的なキャラクターが見つかると思うので、観ながらお気に入りの人を見つけてほしいです。
本折 このテーマを扱うに際しての、高羽さんの勉強量が半端ないんです。舞台となる大正から昭和初期の時代について、優生学について、福祉の歴史について……。情報を膨大に集めると、ともすれば散漫なものになってしまうところを、高羽さんは凝縮したものをちゃんと提示している。作品として誠実だから、僕らも安心してちゃんとエンターテインメントができるなと思います。
西尾 タカハ劇団って初期の頃、「たくさん笑ってほんのり切ない劇団」を名乗っていたんですが、本当にその通りの団体で。今回も優生学という重たいテーマをエンタメに昇華しつつ、観終わった後に心にぐっとフックがかかるようなものを作ろうとしている。これってすごく難しいことだと思うので、うまくいったら他では観られないような作品になると思います。

取材・文/釣木文恵
写真/塚田史香
<公演情報>
『他者の国』
2025年2月20日(木)~23日(日・祝)
本多劇場
チケット料金:一般 6,000円/当日 6,500円/25歳以下 3,500円/18歳以下 1,000円/障がい者割引 5,400円(介助者1名まで無料。UDCastサポートセンターよりお申込みください。)/世田谷区民割引 5,000円
※各種割引は入場時要証明書
公式サイト:
http://takaha-gekidan.net/
脚本・演出:高羽彩
出演:平埜生成 小西成弥 野添義弘 土屋佑壱 西尾友樹 本折最強さとし 近藤強 田中真弓 柿丸美智恵 平井珠生 丸山港都 高羽彩
【鑑賞サポート情報】
2月22日(土) 13:00/2月23日(日・祝) 12:00
内容:舞台手話通訳、バリアフリー字幕タブレット貸出、音声ガイド、事前舞台説明会、終演後ロビーにて感想会、下北沢駅からの移動サポート
鑑賞サポート付きチケットのお問い合わせ・ご予約:UDCastサポートセンター(平日10時~17時)
https://udcast.net/workslist/takaha19/
TEL 0120-291-088 FAX 03-5937-2233 Mail info@udcast.net
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/takaha/
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