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ぴあ 総合TOP > 松尾スズキ×杉原邦生「この“いい機会”を覗きに来て」コクーン アクターズ スタジオ第1期生発表公演の新作ミュージカル『アンサンブルデイズ』上演に向けて

松尾スズキ×杉原邦生「この“いい機会”を覗きに来て」コクーン アクターズ スタジオ第1期生発表公演の新作ミュージカル『アンサンブルデイズ』上演に向けて

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松尾スズキ(右)と杉原邦生 (撮影:You Ishii)

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Bunkamuraシアターコクーン芸術監督の松尾スズキが主任を務め、“演劇の未来を拓く若者たちの学び場”として昨春に始動したコクーン アクターズ スタジオ(CAS)。1年間のカリキュラムを終えた第1期生の発表公演が、3月、休館中のシアターコクーンを特別に復活させて登場する。作品は、松尾が書き下ろした新作ミュージカル『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』。松尾独特のシニカルな笑いの中に熱き演劇愛がほとばしる青春群像劇だ。演出を手掛けるのはCASの常任講師であり、古典をも現代の息吹あふれる劇空間へと仕立て上げる名手、杉原邦生。講師として若者たちと向き合ったふたりが、CASのこの一年、その成果となる発表公演について語り合った。

熱量の高い生徒が集まった第1期を振り返って

――2024年春にスタートしたコクーン アクターズ スタジオ(CAS)で、まずは次世代の俳優を育成して来られたこの一年間の手応え、実感についてお伺いしたいと思います。

松尾 実感は……どうですか?

杉原 昨年4月からレッスンをやってきて、受講生の皆の顔つきが変わってきたなとは思っています。いろんなワークやレッスンを受けるなかで、たぶんそれぞれ自分に足りないものや、ここは得意かも……といったものを見つけていって、俳優としての覚悟、自覚のようなものが芽生えて来たのかなと。

松尾 皆で刺激し合っている感じはすごくあるよね。僕も過去に何回か、素人の方を対象にワークショップのようなことをする機会がありましたけど、CASはダントツで集中力が高いというか。ちゃんと課題をやってくるし。

杉原 ああ、予習や準備ですね。

松尾 やっぱり現役で活躍している講師が多いから、そういう人たちの作品に触れる機会もあるわけじゃないですか。「この人が教えてくれるんだ。じゃあ、どういうことをやっているんだろう」と思って観に行ったら、「結構レベルの高いことをやっているな」とか思っているのではないかなと。あと、「ここでダメだったらお終いだ」みたいな危機感を感じるのよ(笑)。

杉原 ああ〜なるほど(笑)。

松尾 瀬戸際感ね(笑)。そこは、今まで出会って来た若い人たちと違うなと思いますね。

杉原 最初に選考した時は、「途中で脱落しちゃう人もいるかもね」なんて話していましたけど、今年度はいなかったですね。

松尾 皆、食らいついて来たね。僕も最後のレッスンをやった日は、もうこれでお終いか、物足りないなと思っちゃって、寂しくなりましたよ。

――一年間のカリキュラムの中で見えてきた課題などはいかがでしょうか。

松尾 課題はいろいろありますけど、演技の講師陣に演出家が4人(松尾、杉原、オクイシュージ、ノゾエ征爾)もいるから……ワークショップをやたらやった(笑)。ちょっと大盤振る舞いが過ぎたのかなと。ま、一年目ですもんね。景気のいいところを見せたい。

杉原 ハハハ! そうですよ、一番初めですから。物足りないという感覚は僕もありました。始まった時は、結構レッスン数が多いな〜、あれもこれも出来そうだなとか思っていましたけど、意外と時間が足りなくて。もうちょっと深いところまでやれたら良かったかな、という反省もありつつ、これくらいいろいろ詰め込んだほうが良かったのかもな、という思いもあります。どちらがいいのかまだ答えはわかりませんが、それも探りながらやっている感じはありますよね。あと、他の先生のレッスンを見るのもすごく面白くて。松尾さんの最後のレッスン、日本舞踊・所作指導の藤間貴雅さんのレッスンなどに加えて、特別ワークショップもいくつか見させていただいたんですが、自分のレッスンとはちょっと違う受講生たちの顔が見られると思いませんか?

松尾 そうだね。

杉原 それも面白いんですよね。意外とこの子、こういうところが得意なんだ〜とか、意外とこっちは苦手なんだ〜といった発見がありました。

松尾 先生によって生徒の見方も違うね。オクイシュージ君の採点表を見せてもらったんだけど、すっげえ辛口だなって。(一同笑)そこが、先生がひとりじゃないことのいいところだよね。俺たちも多少の色眼鏡はあるわけで、その4人の色眼鏡を合わせればフルカラーで見られる。

杉原 ハハハ! 確かに。

発表公演は、演劇界への思いが詰まった青春群像ミュージカル

――そして3月には、第1期生の発表公演のために松尾さんが書き下ろした『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』が、杉原さんの演出で上演されます。舞台芸術の世界を目指す若者たちを描いた、まさしく受講生の皆さんの等身大の物語。上演台本を拝読したら恐ろしいほど面白くて(笑)、もう松尾さんノリノリで書かれたのでは?

松尾 いや、最初はノリノリだったんですけど、途中でやっぱり出演場面とか台詞の量とか、配役のバランスが悪くなると可哀想だなと思い始めて……。劇団じゃなく、一応レッスンの一環ですから、あまり差がついてしまってはいけないなと。そのペース配分がものすごく大変でしたね。作品性を優先するべきか、公平性を優先するべきか、その戦い(笑)。全員に均等に台詞を割ろうとすると、どうしても長くなっちゃう。それはミュージカルにしちゃったせいもあるんだけど(笑)。真っ当にやろうとすると3時間になるけど、新人たちがやる3時間の公演、観たいか?という問題が。(一同笑)やっぱり2時間くらいが観に来やすいですよね。でもまあ、悩んだのはそこだけ。若者たちの話はあまり書いたことがなかったから、そのへんは楽しんで書きましたね。

杉原 僕は最初、ミュージカルになると聞いた時点で、えっ!?と驚いたんですけど(笑)、台本を読んで松尾さんのいろんな愛情を感じました。生徒への愛情もそうだし、これまで関わっていらっしゃったいろんな俳優さんたちへの思い、演劇やミュージカル、あと劇場とか、舞台業界全体に対する思いがめちゃくちゃ詰まっていて、すごい!と感動しました。発表公演だから全員を出さなきゃいけないとか、いろんなルールも全部ひっくるめて、この一本にギュッとまとめられたことも単純にすごいなと思いましたし、それですごく面白いんですから。これをきちんと立ち上げれば必ず面白くなる!と思えて、ワクワクしました。演出するのが楽しみになりましたね。

――いわゆる業界のシビアな現実といいますか、そのへんを容赦なく描く松尾さんならではのシニカルな面白さが炸裂していると感じましたが、そこは……愛のムチでしょうか。

杉原 ハハハ!

松尾 何でしょうね。これを新人の俳優たちにやらせるという残酷さも含めて(笑)、イベントとしての面白さがあるような気もして。青春って、やっぱり最終的には苦いものという思いがあって。僕も初老という域に入って、青春のことを書けるのは幸せだなと思うと同時に、その残酷さを書いておかないと逆に若者たちに失礼かなと思うんですね。あと、「ここには阿部サダヲも、皆川猿時もいないんだ」ってことを肝に銘じて書きました。(一同笑)自分のホンを人に演出してもらうのもほとんど初めてなので、そこはすごく楽しみですね。

杉原 そうですよね。とても貴重な体験をさせてもらえているなと思っています。松尾さんのホンはストーリーとしてはいわゆるハッピーエンドではないですけど、必ず最後に温かい気持ちになるんですよね。今回もまさにそうで、そこがすごく魅力的だなと感じます。

松尾 杉原君は、密度の濃い演出をしているなといつも思っていますね。美術もやっているからなのかな、役者のレイアウトとかちゃんと考えられていて、勢いでやっていないのがわかる。木ノ下歌舞伎『勧進帳』での音や照明の使い方とか、メリハリが効いていてすごくカッコ良かったからね。今回もそういうところに期待しますね。

杉原 さっきも言ったように、松尾さんのホンをきちんと立ち上げれば絶対に面白くなるという確信がありつつ、せっかく演出させてもらうんだから、僕が演出したからこうなった、という部分も滲み出るようにしたいなと思っています。今回は“空っぽのシアターコクーンに若手俳優たちを放り出す”というのが大枠の基本プランで。ずっとコクーンの舞台でレッスンをしてきたので、俳優たちは、空間自体は身体に馴染んでいるはず。その強みを出せるような作品になったらいいなと思います。空っぽのコクーンで大いに暴れてもらう、みたいなイメージですね。

“面白”を意識してやるスクール

――今春から第2期がスタートしますが、コクーン アクターズ スタジオが気になっている人、学びたいと思っている人に向けて一言お願いします。

松尾 講師に現役の演出家が4人もいるスクールはなかなかないと思います。オクイ君なんてどちらかと言うと俳優モードで、かなり現役感のある先生です(笑)。そういう人たちがとても新鮮味を持って教えているので、覇気がある。私個人に関して言えば、どんどんこれから体力がなくなっていくので、今がピークぐらいです(笑)。そこに立ち会わないか?って感じですね。僕、理論がないからどうしてもフィジカルな感じじゃないと教えられないんですよ。ついいろいろ動いちゃうんだけど、限界はいつか来るよなと思いつつやっているから。まあ、そういう焦りもあってスクールをやっているんですけどね。あと、演技の基礎というのは各々やってきた場所で中身が違うと思うんですが、“面白”を意識してやろうとしているところも少ないのではないかなと。舞台って、やっぱり面白い俳優が残るじゃないですか。そこを意識的に教えようとするところは、あんまりないような気がしていて。だから面白いことをやりたい人、もっと集まってほしいなと思います。

杉原 松尾さんがおっしゃったように生徒だけでなく講師陣もモチベーションが高いので、とても高い水準の学びの場になっています。そこはぜひ期待してほしいですし、たくさんの新しい俳優たちと出会っていけるといいなと思いますね。また、今いる生徒たちは、ここで学んだことをどんどん広げていってほしい。出し惜しみせず(笑)、学んだことをいい形で伝染させていってくれると、舞台業界全体がさらに豊かなものになっていくのではないかなと。そこは彼らに期待しています。

松尾 若い時期に志を同じくする仲間を得られるのは、今後の大きな糧になるんじゃないかな。そんな気がする。本当に羨ましいですよ、僕なんてひとりぼっちだったんだから。(一同笑)仲間感があるよね。

杉原 うん、間違いなくありますね。

――久しぶりにシアターコクーンで観劇出来ることも嬉しいです。そこで若い俳優たちがどんなエネルギッシュな舞台を立ち上げてくれるのか、楽しみにしています。

松尾 僕がこんなに本格的に若者たちに書き下ろすのは、後にもないかもしれません。それを今活躍中の杉原君が演出する、これはなかなかない機会だと思います。この“いい機会”というものを覗きに来てください。

杉原 舞台芸術界の“アンサンブル”と呼ばれる俳優たちがメインになっているお話です。生きていく中でこういうことをしてみたい、こういうふうになりたい……といった夢や希望を一度でも持つ人であれば、共感する部分がたくさんあると思いますので、ぜひ劇場に飛び込んでみてほしいですね。

取材・文:上野紀子 撮影:You Ishii

「ぴあ」アプリでは、本公演の先着先行受付を実施します。 ぜひこの機会にぴあ(アプリ)をダウンロードしてご確認ください。(※アプリ先着先行受付は「チケットぴあ」アプリではなく「ぴあ」アプリとなりますのでご注意下さい)

<公演情報>
COCOON PRODUCTION 2025
Bunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル
『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』

作・音楽:松尾スズキ
演出・美術:杉原邦生
音楽:杉田未央

出演:コクーン アクターズ スタジオ第1期生
生田有我 石川なつ美 石田とねり 伊島青 羽衣 大嵜逸生 岡田絆奈 川﨑志馬
小林宏樹 佐織祥伍 雜喉侑大 嶋村連太郎 芹なずな 高橋卓臣 田尻祥子 等々力静香
富田康聖 中野亜美 新関峻 原マリコ 宮城優都 村井友映 森本彩日 吉田ヤギ

2025年3月20日(木・祝)~23日(日)
会場:東京・Bunkamuraシアターコクーン

公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_ensembledays.html

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