芝居の醍醐味を堪能できる『ナイト・ウィズ・キャバレット』が開幕
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左から剣幸、小林タカ鹿
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すべて見る第2回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞(2014年)するも、今回が初めての上演となる『ナイト・ウィズ・キャバレット』(西史夏作)が、2月13日、東京・シアターグリーン BOX in BOX THEATERで幕を開けた。この“幻の名作”で俳人の五所踏子役に挑むのは、宝塚歌劇団という出自を持つ一方、地に足のついた深みのある演技でストレートプレイにも定評のある剣幸。踏子の俳句の師・鏡千里には、小劇場からミュージカルまで幅広く活動する小林タカ鹿が配された。歌舞伎など古典芸能をモチーフに現代劇も手掛ける堀越涼(あやめ十八番)ならではの演出が、本戯曲と役者ふたりの魅力を存分に伝えている。
舞台は大正14年から昭和16年までの東京・浅草。近江に住む21歳の踏子は、師と仰ぐ人気俳人の千里に会うため、彼が住まいにしている東京浅草アサヒホテルの501号室を訪れる。踏子の熱意に驚きながらも遠路をねぎらう千里。それぞれに家庭を持つふたりだが、師弟関係が恋人関係へと形を変えるのに時間はかからなかった。その後も期待通り才能を発揮する踏子に千里は喜ぶが、俳句の近代化を目指す千里と、台所で過ごす日常に意義を見出す踏子とは次第にぶつかり合うように。それでも“あること”から体調を崩した千里を気に掛ける踏子。そして戦争の軍靴が聞こえてくるなか、キャバレー「黒猫」で事件が起こり……。
冒頭、501号室に飛び込んでくる踏子は、未知の世界に胸を弾ませる若い娘の表情だ。千里に窓外の浅草の景色を見せられ瞳をきらめかせる様子が、小さい劇場ならではの臨場感で間近に伝わってくる。剣はそんな初々しい娘から、数年おきに描かれる千里との関係によって変化してゆく大人の女性までを的確に表現。句作を巡ってさまざまな表情を見せる踏子だが、終盤、千里に向ける深い情愛の眼差しが印象的だ。一方の小林も、人気俳人として颯爽と踏子の前に立っていた冒頭から、創作活動に真摯に取り組むゆえに苦悩に陥ってゆく姿までを、当時の社会状況を内在させて丁寧に見せる。

ふたりが16年間を通して師弟関係から恋人関係、さらに人間同士の愛へと変化してゆく様子を縦糸に、俳人としての生きざまや誇り、創作への熱情を横糸にして織りなす物語。堀越の演出は戯曲の本筋を外れることなく、随所に歌舞伎の演出技法を溶け込ませながら、時代の空気感を立ち昇らせることに成功している。後半、浅草のキャバレー「黒猫」でのショーシーンも楽しく、当時のキャバレー音楽に乗せた剣と小林の歌も見どころだ。冒頭から最後まで舞台上のピアノで劇伴を弾いているのは吉田能(あやめ十八番)。音楽の良さも本作の魅力のひとつと感じられた。
その楽しいキャバレーシーンも、戦前の暗い空気を反映する展開に。脚本の西は「ナチスが台頭する前のパリの雰囲気を、浅草に置き換えてみたらどうだろう」というところから始まり、昭和15年から18年に起きた新興俳句弾圧事件もモチーフに本作を執筆したという。芸術への弾圧はまさに、いま劇場で観ている私たちが遭遇するかもしれない未来でもある。そのことに気づいた時、“今”上演される巡り合わせを改めて感じた。

さて、本作は剣の芸能生活50周年を記念する公演でもあり、アフタートークショーは毎回豪華なゲストが! 初日は剣が宝塚時代、異例のロングランを打ち立てた『ME AND MY GIRL』の新人公演で同じ主人公のビルを演じた天海祐希がゲスト。天海にとって「大きいおねえちゃん」であり、芸道の師でもあるという剣とのトークで盛り上がった。ゲストは今後も角野卓造や東山義久、石井一孝、大沢健、彩輝なお、原田優一、森公美子、良知真次と続く。芝居の醍醐味を堪能できる本編と併せて、こちらもぜひ。2月23日(日) まで。
取材・文/藤野さくら
<公演情報>
『ナイト・ウィズ・キャバレット』
2025年2月13日(木)〜23日(日・祝)
シアターグリーン BOX in BOX THEATER
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/nwc/
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