中島健人&桐谷健太が考える幸せのバランス「幸せのあとの困難はでかくなれる起爆剤」
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左から)桐谷健太、中島健人 (撮影:杉映貴子)
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2月28日公開の映画『知らないカノジョ』。
大学時代に出会い、結婚したリクとミナミ。8年後、ベストセラー小説家となり、全てを手に入れたかのように見えたリクだったが、ある日突然、愛する人と出会っていない、夢も叶えることができなかった「もうひとつの世界」に放り出されてしまう――。
主人公リクを中島健人、そして、リクの親友で良き理解者の梶原を桐谷健太が演じる。
映画『ラーゲリより愛を込めて』で初共演を果たし、それ以来、プライベートでも親交を深めてきたふたりが作中でどのように「親友」を演じたのか、ふたりの関係性についても聞いた。
「全てを一旦お見せしますけど、いかがですか?」
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――本作では「あり得ないこと」を次第に受け入れつつ、変化していく気持ちがグラデーションのように表現されていたように思います。演じる際はどんなことを意識されていましたか?
中島健人(以下、中島) 本当に微調整の連続だったように思います。
最初は嫌な人間っぽく演じて、世界が変わってから全てがうまくいかなくなり、やがて優しさを取り戻していく、というようにわかりやすく記号的に演じていこうと思っていました。ン
でも、そんなに嫌なやつにならなくていい、もう少し自然体の会話の中で、恋人同士、夫婦同士で起きてしまう摩擦を表現する、という監督の微調整が入って、そこで答えがわからなくなったんです。ただ、ある意味、その答えがわかることがこの映画では正解じゃないのかもしれないと思って。もう監督を信じて、自然体でそのまま演じさせていただきました。
世界が転じてからも、「大人になったのび太くんみたいな感覚で演じてほしい」と言われて最初はどうしていいのかわからなかったんですけど、きっとそれっていろんなことがめまぐるしく変わることで奔走してしまい、かつ、それに対して順応できないけれど徐々に周りの力を借りて、自分自身がその世界で生き抜く力を身につけていくっていうところが肝なんだろうな、と。
あまり全体でグラデーションを把握はしていなくて、ワンシーンワンシーンで感じたことをそのまま抽出していきました。細かなところは監督だけではなくて、キリケンさんともいろんな話をしました。それこそ撮影が終わってから深夜に電話で役について打ち合わせしたり。自分がわからないところは話し合いで軌道修正ができましたね。
ただ、気づいたらそうなっていた。それが今回の一番理想の形なのかな、と思っています。
――完成作で見たときはどんな感情が湧きましたか?
中島 いい意味で、あまりにもナチュラルな部分が切り取られているので、恥ずかしいです(笑)。
全てさらけ出した気持ちというか。本当に裸になれた作品だと思っているので「全てを一旦お見せしますけど、いかがですか?」という気持ちです。
――リクの話は普通に聞いたら受け入れられないものだと思うんですが、梶原はどこか最初から受け入れてるようにも見えました。桐谷さん自身はそのあたりの点についてはどういうふうに受け止めていらっしゃいますか。
桐谷健太(以下、桐谷) 梶原って一見、何を考えているかわからないんですよね。でもリクのために本当に一生懸命、寄り添って。リクが言ってるからそうなんだろう、という思いもあるし、梶原自身も世界がもし他にもあって、その世界に行けたら、という思いもあるんですよね。リクが言ってることを信じる梶原もいるし、どっかで「何を言ってんの、この子は」みたいな部分もあるけど、本当にそうだったらいいな」という希望も感じているのかもしれません。その理由は後半で描かれるんですけど、そこは1本筋が通る感じがあります。この映画はラブストーリーなんですけど、友情の部分もあって、全く違う世界でも変わってる部分と変わらない部分があるというその感覚が僕は好きだなって思いました。
リクと梶原はどの世界に行っても親友になる
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――おふたりはプライベートでも仲が良いとのことですが、今回のキャラクターの関係性と重なる部分はありましたか?
中島 現場での立ち振る舞いや、空気感の作り方だったり、キリケンさんの年齢になったときにこういうかっこいい男になっていたいな、ということはお伝えしたことがあるんです。
だから、仲良くさせていただいているというのはおこがましいんですけど、たくさん甘えさせていただいているな、と。僕の人生の中で、いろんなターニングポイントで考えていること、悩んでいること、前向きになりたいこと、いろいろ共有させてもらっています。僕にとって、リスペクトしている先輩です。
桐谷 そういうことを本人を目の前に言えるのが、健人の素直さと言うか、真っすぐさというか(笑)。
初めて会ったのは『ラーゲリより愛を込めて』という作品だったんですけど、そのときから笑いながら話していたのを覚えていて。
中島 していましたね。
桐谷 違う作品の話なんですけど(笑)、めちゃくちゃ寒い中、ふたりで笑って話すことで体を温めていました。
そんなふうに話せたのも、お互いに開いている感じがあったからなんですよね。それは変わらない。いまみたいにすごく嬉しい言葉を言ってもらえて本当に光栄ですし、健人はちゃんと温度のある言葉を常に言ってくれるから嬉しいですね。
――今回は親友という間柄です。
桐谷 脚本を読んだときに、ほんまにどの世界に行ってもこのふたりは出会えば親友になるんやろな、と思えたんです。その間柄が好きで。でもその関係性に自然と入れたのは健人とのもともとの繋がりがあったからですね。
――先輩後輩でありながら、親友という関係ですけど、おふたりの関係は先輩後輩なのか、友だちなのか親友なのか……。
桐谷 そういう意味では、梶原とリクの関係と似ていますよね。だから敬語も使うけど、ため口のときもあるし。でも、僕はそのほうが嬉しいというか。もうツレみたいな感覚ですし。
中島 最初はめっちゃ怖かったんですけどね。ラーゲリの衣装合わせのときとか。眼圧が強いじゃないですか。
桐谷 眼圧じゃない。目力な。眼圧は眼科でやるやつやから(笑)
中島 はははっ! ラーゲリの衣装合わせでは、遠くから鋭い目で僕を見てくるから、「やばい、怖い」「恐ろしい3ヶ月が始まるわ」って怖かったんですけど、話してみたらすごく優しいお兄さんだったから驚きました。
そこからプライベートのこともいろいろと話し始めて、本当に良き理解者、良き兄貴になってくださって。プライベートでも食事に行くんですよ。偶然会う機会が本当に多かったんですけど、それがだんだん偶然ではなくなって、「会おうよ」「ごはん食べようよ」って必然性に変わっていって……本当にリクと梶原の関係値を作るためのプロセスでもあったのかな、と今は思います。ある種、ふたりでリクと梶原ができたことで、よりこの映画で自分の素直な瞬間を見せることができました。こんなに安心できる方はいないです。
このふたりだからできた関係性がある
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――中島さんから見た梶原、桐谷さんから見たリクの魅力はどういったところだと思われますか?
中島 いやもう、カジさんずるいですよね。こういう人、絶対にいてほしい。こういう親友がそばにいたら、人生幸せなんだろうな、と思います。人のことを尊重するし、尽くしてくれる部分もあって。
本当に生き方がかっこいいんですよ。またパーソナルな話になるんですけど、演じる人によって多分、カジさんは変わったと思います。違う人がカジさんを演じても、僕は感動しなかったかもしれません。キリケンさんがカジさんを演じていたからより人柄が増したんだと思います。僕自身としても、リクとしても、こんなに寛容で心が豊かで、自分の悲しみも見せずにたくましく前に進んでいる人間っていないんじゃないかな。とてもステキなパーソナリティを持っている役柄だと思います。
桐谷 いろんな見方ができる映画だと思うんですけど、僕の感覚では、どんな自分になりたいか選べるということも伝えている映画だなと思っていて。
どんな自分でもなれる、自分が変われば世界も変わる。自分が大好きな自分になれば、大好きな人とも出会えるだろうし、大好きな出来事も増えるだろうし。
でもたとえ、「こんな自分は嫌いだ」と思って生きていても、そばで支えてくれている人間がいるよ、と気づいてほしい映画でもあるんですよね。リクはそれを体現している人物だな、と思っていました。さっきも言いましたけど、どの世界でもきっとリクと梶原は親友だったんだろうな、って。でも、そう思えたのは、やっぱり健人だから、というのは大きいです。もちろん、役者なので、「よーいスタート」からカットまで、その世界観に没入していくのは大切なんですけど、やっぱり関係性ができているからこそ出せる温かさというか。
中島 ありますね。
桐谷 そこもまた役者の素敵なところだと思っているんですよ。「よーいスタート」から「カット」までの世界じゃない何かが、またその世界を支えてくれている、みたいな。それを改めて身をもって分からせてもらえました。それは健人と一緒だからやれた部分はあると思います。
映画は心を裸にする場所
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――中島さんは今回、三木監督とご一緒されていかがでしたか。
中島 本当に僕のナチュラルな部分を全て引き出してくださったな、と思っています。
それは僕へのディレクションだけではなくて、三木監督がしてくださったキャスティングだったりとか、監督が決めた世界観だったり、そのトータルの中で、僕自身も俳優として赤裸々になれたというか。僕は、映画は心を裸にする場所だと思っているんですけど、音楽活動は飾ること、自分をよく見せないといけないことも多いんですよ。音楽活動と並行して映画を作る作業となると、その外連味みたいなものが不必要なときがやっぱりあるんです。今回、三木監督は僕のそういう飾る気持ちだったり、外連味だったりを全部取り除いてくれて、心の中にある素直な感情を映画の中にちゃんと残してくれたな、と思いました。
――どういう方法で引き出されたんでしょう?
中島 とても繊細なディレクションだと思うんですけど、僕はわりと考えやすい性格なので、むしろ何も考えない方がいい、とアドバイスをくださったり。
あと、「数日後にこのシーンがあるけど一番大切なシーンだから、気負わずにリクと一緒にその日までに心の理解を深めておいて」だとか、優しく言ってくださったり。いつもは数日後に緊張したシーンがあると、その日に向けて体がこわばってしまうときがあるんですよ。不安だな、って。でもこの現場ではあんまりなかったんです。
それこそカジさんと一緒のシーンで偶発性がある感情が急に出てきたりしたのはキリケンさんとの関係値もそうだし、三木監督がそういうシチュエーションを用意してくださったから生まれたものでもあると思います。ちゃんと引き出していただけたことは本当に感謝ですし、この10年間、三木監督のいろんな作品を見てきて、ずっと出たいという気持ちが強かったので、この新たなスタートを迎えるタイミングに出られたことは、すごく心が充実しました。
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――桐谷さんは三木監督と3回目ですね。
桐谷 『ソラニン』があって、『くちびるに歌を』ですね。わりと、同じ監督さんに呼んでいただいて、ということはデビュー当時から経験させていただいているので、そこに対しての気負いは特にありませんね。成長を見せたい、だとかは別にないんですけど、なんとなく三木さんが欲しい「ちょっとここ痒いんやろ」みたいなところに手を伸ばせる感覚は分かっているつもりではありました。
衣装合わせのときにお話もできて、僕が梶原を演じる上での一人称の部分と、客観的な「こうあってほしい」という部分をミックスさせながらっていう感じですかね。
――阿吽の呼吸で、という感じで。
桐谷 そうかもしれないですね。でも三木さんは撮りたい絵がはっきりしていらっしゃって、ちゃんと言ってくださるので、それを現場でやりながら、ですね。でも一応「このときはこうしたい」というような伝える部分は伝えて、そこはセッションしながら、やれたと思います。
幸せだと思ったら、もうガンガン幸せになっていった方がいい
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――リクを見ていると、仕事の成功とプライベートは反比例していくのだということを感じますが、おふたりはリアリティラインを持って、演じられたんでしょうか。
中島 器用な方は反比例させずに普通に相乗させていくと思うんですけど、僕もそれはわかる気がして。どちらかがうまくいくと、どちらかはうまくいかないなって。神様はやっぱりバランスを取っているな、と感じます。だから、「今幸せすぎるな」と感じたときは怖いです。
もしかしたらこのあとに何かあるな、って。だからいつも満たされないくらいが一番幸せなのかな。それが最近の僕の幸せの定義なので、そこはリアリティを持って演じられたと思います。本当に全てが、適度がいいんだろうなと思いながら。何かが良くなってそこに集中すると、別の何かがおざなりになるんですよね。
でも器用な方はきっとそうじゃないんだろうな。いつも器用な方に憧れを持ってますね。
桐谷 これに関しては、俺は健人とは違って。いろんな考え方があっていいと思うんですけど……そんなこと思わんでええよ。幸せだと思ったら、もうガンガン幸せになっていった方がいい。
何かを犠牲にしないと、何かを得られないっていうのは、誰かが言い出した言葉ですけど、そんな素直に聞かなくていいと思っていて。確かに悩みや辛いことっていうのは来る。それはもう多分一生あると思うんやけど、それはまた自分をでかくしてくれる起爆剤だと思っているんです。
幸せの中に、そういう黒い点がちょっとある、ぐらいにしておけばいいというか。その黒い点を自分ででかくしすぎている部分があると思うのよ。僕の考えやけど。幸せやなって思ったら、「またしんどいのが来るんかな」じゃなくて、「来たらさらにでかくなってやろう!」っていうぐらいの健人で俺はいてほしいな、と思う。
だから、そこそこ満たされてないぐらいが、なんて言ったらあかんよ!
中島 ははは!
桐谷 憧れられて、すごくハッピー、健人かっこいい! でええやんって思う。いろんな考えがあっていいんですけどね。
中島 こういうことをいつも食事会のときに言ってくれるんですよ。だから、「はい!」って(笑)。
桐谷 じゃないと、永遠に満たされないまま終わっちゃうよ?
中島 まあね。
桐谷 次に何かが来るのが怖い、ということはあるよ。あるけど、満足しながら、次行くぜ、さらに満足を目指すぜ、ってなってる方がいいかなって思う。
でも、まだまだ健人は伸びしろが本当にあるんで、そこは楽しみです。
中島 でも本当にそうですよね。2人で話していてもやっぱリーダー力みたいなものを感じているから、そこがやっぱりカジさんに反映されてましたし。カジさんに対して頼れるのは普段がこういう関係だったからこそ出た表情もいっぱいあると思います。それはご縁に感謝しているし、神様が作ってくれたキャスティングというか、本当に僕は感謝していますね。すごく幸せです、今。
桐谷 その気持ちでガンガンいっちゃって!
取材・文:ふくだりょう 撮影:杉映貴子
<作品情報>
『知らないカノジョ』
2月28日(金) より全国公開
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出演:中島健人 milet 桐谷健太 中村ゆりか 八嶋智人 円井わん / 眞島秀和 風吹ジュン
監督:三木孝浩(『今夜、世界からこの恋が消えても』『きみの瞳が問いかけている』)
原作:『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』(原題:Mon Inconnue)(ユーゴ・ジェラン監督/2021年)
配給:ギャガ
【STORY】
大学時代に出会い、お互い一目惚れして結婚した<リク>と<ミナミ>。それから8年、小説家を目指していたリクは、ミュージシャンの夢を諦めたミナミのサポートのかいもあり、一気に人気のベストセラー作家となった。全てがうまくいっている、そう思っていた。
ところが、ある朝リクが目を覚ますとミナミの姿はなく、出版社に打ち合わせに行くも出会う人々と全く話がかみ合わないことに戸惑いを覚える。なんと人気作家だったはずの自分は文芸誌の一編集部員になっており、街には天才ミュージシャンとして活躍する、自分とは知り合ってもいない“前園ミナミ”の姿と曲が溢れていた――。
公式サイト:
https://gaga.ne.jp/shiranaikanojo/
(C)2025『知らないカノジョ』製作委員会
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