舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』寺島しのぶインタビュー 「“家族とは?”を問う舞台。自分のための挑戦でもありますね」
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寺島しのぶ
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すべて見る弁護士というキャリアと家庭、そして女性という枠組みのはざまで苦悩する母親。摂食障害を患い、家族からの愛情に苦しむ娘。不器用な優しさによって逆に家族を傷つけてしまう父親。家族に対してコンプレックスを抱く息子。時代や国を越えて、どの家族にも起こり得る問題を鮮烈に描いた舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』(ドミニカ・フェロー脚本、浦辺千鶴翻訳)が日本で初上演される。読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞した精鋭、稲葉賀恵の演出のもと、母親、ジョーンを演じる寺島しのぶが、母から娘へ受け継がれる愛と痛みの物語に挑戦。稽古を前に、自身の体験を振り返りながら作品への思いを語った。
――娘が摂食障害を患ったことで浮き彫りになる家族のすれ違い、葛藤を描いたオフ・ブロードウェイ発の話題作です。まずは本企画に心惹かれた点についてお聞きしたいと思います。
寺島 やっぱり母と娘の関係というのは、自分も通ってきた道ですけど、家族それぞれにいろんな状況があると思うんです。この作品は摂食障害というちょっと重い題材を扱っていますが、結局のところ根底にあるのは“家族とは?”といった普遍的なテーマであり、家族がそれぞれをどう受け入れていくのか、そしてそれぞれが家族でいながらもどのようにして自立していくのかという話だと思っています。自分の実生活を見てもそうですけど、家族の形って何なのかなって自分自身も思いますから。今回の舞台を通じて、観てくださるお客さまが何かを感じてくださったらいいなと思うし、自分のための挑戦でもありますね。
――“自分のため”とは今おっしゃったように、家族の在り方についてあらためて見つめ直すことでしょうか。
寺島 そうですね。今ある私の家族、夫と息子との関係にプラスして、私が生まれたところの家族、母、父、弟、その関係性だとか、いろいろと考えるなと思いました。
――この物語では、母ジョーンの愛情が娘レイチェルには重荷になってしまう。そういった実体験を持つ人は少なからずいると思うので、共感して観る方は多いでしょうね。
寺島 親はとにかく娘に対して一生懸命だから、その愛情は何にも変えられないんですよ。でも娘のためを思ってやっていることが、結局は娘を苦しめてしまっている。この母と娘の関係性は、稽古を進めていく中でいろいろとわかってくるのだろうなと思っています。演出の稲葉賀恵さんも、「母親との確執が結構あって」とご自身の体験をとても素直にお話ししてくれて、そこは私もすごく共感できました。娘役の吉柳咲良さんが、お母さんとどのような関係でいるのかということも、ちょっと興味がありますね。
――ジョーンという人は移民でありながら弁護士というキャリアを築いた女性。娘にも自分と同じ道を進んでほしいという願望があるように思えます。
寺島 そうなっていくと、どうしても娘にとっては重荷になるんですよね。結局、同じ仕事をしている親と比べられてしまうから、娘にはキツい。それは私の実体験でもあります。もう母親と比べられてばかりですよ(笑)。今でも比べられるし、一生拭えないこと。だから、そこにいつまでも固執していると自分自身が壊れていってしまう。娘のほうはある時どこかでパシッと断ち切って自立をしなければいけないし、親も自立を認めてあげなきゃいけない。そうしてまた新たな家族の形を作っていくんですよね。子供に依存してはダメなんです。
私自身はそういった親からの依存を感じることなく、自由に育ちました。自由だけど、やっぱり同じ道を選んだから、現場に行くたびに「お母さんはすごく綺麗だったんだよ」とか言われていつも母のキャリアと比べられました。毎回心の中で「なんだよっ!」と憤っていた(笑)。とくに若い時、自信のない時は「ちくしょう! 越えてやる!」とばかり思っていた気がします。でもそれも歳を取るにつれ、自分もいろんなお仕事をやらせていただきながら自信がついてきて、やっと対等に話せるようになった、自立をやっと認めてもらえたという感じですね。
――稲葉賀恵さんは文学座所属の演出家で、寺島さんにとってはいわば古巣の後輩にあたるんですね。
寺島 そう、セラピストのブレンダ役を演じる名越志保さんは先輩で、文学座が揃っていて頼もしいです。稲葉さんとはお話しをして、すごく芯がしっかりしている方という印象です。「これをやるべき」といったビジョンをはっきりと言ってくださるから、稽古が楽しみです。

――『リンス・リピート』は“洗い流して繰り返す”という意味だそうで、翻訳家の方の解釈によると「またやっちゃった」といったお茶目な響きもあるそうです。この家族の物語で、結末の余韻を観客がどう受け止めるかも気になるところ。寺島さんご自身はどのように感じられたのでしょうか。
寺島 人生ってそんなに簡単にバチッと切り替われないじゃないですか。じゃあ私はこうやって生きる! と心に決めても、やっぱりこれまで培ってきたものがあるから難しい。でも、自分自身や家族との葛藤に向き合わずしてそうなってしまうことと、一度ちゃんと向き合ったうえで、こう生きる! と決めることとでは何かが違ってくると思うんです。だから、この作品が明るい兆しになってほしいな、とは思います。
この家族の未来をどう予想するかはもちろんお客さまそれぞれだと思うので、ぜひ持ち帰って、考えてみていただきたいですね。けっして難しくない、わかりやすい家族の話なので、観終わった後にお茶でもしながらおしゃべりしてほしい。そういう持ち帰れる演劇や映画が私は好きなんです。ある家族の形をご覧いただいて、もう一度“家族とは?”という問いに立ち返ってくださればいいなと思っています。
取材・文/上野紀子
寺島しのぶビハインド・コメント|【2025年4・5月上演!】舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』(2025)
<公演情報>
舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』
【東京公演】
2025年4月17日(木)~5月6日(火・休)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
【京都公演】
2025年5月10日(土)・11日(日)
会場:京都・京都劇場
【アフタートーク】
終演後に、キャスト・スタッフによるトークショーを実施いたします。
【対象日程】
■東京公演
・4月22日(火) 14:00公演(登壇者:寺島しのぶ、名越志保、松尾貴史)
・4月24日(木) 19:00公演(登壇者:演出・稲葉賀恵、美術・山本貴愛、舞台監督・大刀佑介)
・4月26日(土) 18:00公演(登壇者:吉柳咲良、富本惣昭、演出・稲葉賀恵)
・4月29日(火・祝) 13:00公演(登壇者:寺島しのぶ、吉柳咲良、富本惣昭、松尾貴史)
■京都公演
・5月10日(土) 18:00公演(登壇者:寺島しのぶ・吉柳咲良・松尾貴史)
※約15分間実施予定。
※登壇者は急遽変更になる場合もございます。
※対象公演回のチケットをお持ちの皆様ご参加いただけます。
チケット情報
https://w.pia.jp/t/rinserepeat/
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