世田谷パブリックシアター2025年度主催公演 実力派の劇作家・演出家の作品が集う
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世田谷パブリックシアター2025年度のラインアップ発表会より、左から)白井晃芸術監督、上村聡史、田中麻衣子、生田みゆき、長田育恵、高橋萌登、杉原邦生、瀬戸山美咲
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すべて見る世田谷パブリックシアターの2025年度のラインアップ発表会が2月19日に開催され、白井晃芸術監督をはじめ、主催公演に携わる上村聡史、田中麻衣子、生田みゆき、長田育恵、高橋萌登、杉原邦生、瀬戸山美咲が出席した。
昨年のスローガン「わたしは、この世界とどのように向き合うか」に続く、今年のスローガンは「わたしは、この世界にどう生きるか。」。白井芸術監督は、コロナ禍以降の舞台芸術を取り巻く環境の変化について「物価の高騰もありますし、舞台と観客のみなさんの間が離れていってしまっていること、若い世代のみなさんとの隙間が生じているんじゃないかという危機感をおぼえている」と語り、初代劇場監督の佐藤信が掲げた「劇場は広場」という言葉に触れ「公共劇場がどういうことをできるのかを考えていきたい」と抱負を語った。
6月から7月にかけて上演される『みんな鳥になって』は、レバノン出身の劇作家ワジディ・ムワワドの作品。過去に同劇場で『炎 アンサンディ』(2014,17)、『岸 リトラル』(2017リーディング公演、2018本公演)、『森 フォレ』(2021)の3作が上演されており、過去3作と同様に上村聡史が演出を務める。
ニューヨークに暮らすユダヤ人の青年・エイタンはアラブ人女性のワヒダとの婚姻を認めてもらおうとするが、敬虔なユダヤ教徒の父の反対に遭う。過剰なまでの父の拒絶を目の当たりにし、エイタンがワヒダを伴いイスラエルへと赴き、父のルーツを解き明かそうとしてくさまを描き出す。
上村は本作について「いままでの3作と風合いが異なり、アクチュアルな題材を扱っており、“イスラエル”という固有名詞を反映した作品になっています。ユダヤとアラブが対立するイスラエル、そして対立・分断が市民の生活を破壊していくという悲劇を意識していて、かなり意志の強い作品」と語る。キャストは未発表だが上村は過去3作に出演したキャスト、新たなキャストが混在する構成になることを明かし「かなり強力な布陣」と自信をのぞかせていた。
7月から8月に上演の『キャプテン・アメイジング』は2013年に初演された英国出身の作家アリスター・マクドウォールによる一人芝居。ひとりの男と娘の6年間の記憶の物語であり、20人以上の役をたったひとりの俳優が演じる。『ライカムで待っとく』(2022,2024)が称賛を浴びた田中麻衣子が演出を務めるが、田中は「たったひとりの俳優と観客――演劇に必要な最小限な関係をダイレクトな感覚を味わってもらえる」と語り、アメコミヒーローへのオマージュがあちこちに散りばめられた作品になるとも明かした。
2025年度よりはじまる「あたらしい国際交流プログラム」において8月に上演されるのがティアゴ・ロドリゲス作の『不可能の限りにおいて』のリーディング公演。国際赤十字社や国境なき医師団の支援者たちの証言を基に構成され、紛争地域において、全てを解決し、救うことなど不可能な現実を目の当たりにし、矛盾や葛藤を抱えながらも行動を続ける人々の姿を多角的に描いていく。演出を務めるのは、岡本健一、成河による二人芝居『建築家とアッシリア皇帝』(2022)が高い評価を得た生田みゆき。世界的話題を呼んだ作品のリーディング公演に向け、生田は「言葉を届けることを大事にしながら頑張りたい」と意気込みを口にした。
白井芸術監督の演出で11月から12月に上演されるのが、「車輪の下」で知られるノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセの小説を原作にした『シッダールタ』。仏教の始祖・ブッダと同じシッダールタという名を持つ青年が、苦行の末に悟りを拓くに至るさまを描く。白井は、若い頃からヘッセの小説に親しんできたことを明かし、本作に「いまの時代を生きるヒントがあるのではないか?」と舞台化を決断。劇作を担うのは、『ゲルニカ』(2020)、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(2020~)などの話題作を手掛け、NHKの連続テレビ小説「らんまん」(2023)の脚本も担当した長田育恵。長田は「自我と共同体」が本作のテーマであると語り、「現在の日本でも、大きな共同体に溶け込むことで自我が大きくなって権力を手に入れたような(感覚に陥る)日本人の思想性もある」と指摘。「自我がどこに向かうのか? 人間は果たしてそんなに重いのか? シンプルに突きつけられる作品」と語った。
杉原邦生、瀬戸山美咲演出作品、恒例の「シアタートラム・ネクストジェネレーション」ほか
『東京輪舞』(2024)、木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』(2024)など、次々と話題作を世に送り出している杉原邦生は、泉鏡花作の『黒百合』の演出を手掛ける。杉原は泉鏡花という作家について「人間は自然の一部であり、宇宙の一部ということから目をそらさず物語を立ち上げているところが魅力的」と語る。脚本を藤本有紀、音楽を宮川彬良が担当するが、杉原は宮川が蜷川幸雄演出の『身毒丸』の音楽、そしてディズニーランドのショー「ワン・マンズ・ドリーム」の編曲を手掛けていたことに触れ「僕がいままで一番回数を見ている演劇と一番回数を見ているディズニーランドのショーの音楽を手掛けている宮川さんとご一緒できることに興奮しています!」と嬉しそうに語っていた。
2026年3月には、ブレヒト原作の音楽劇『コーカサスの白墨の輪』が上演される。上演台本と演出を担当するのは、昨年『う蝕』(作・横山拓也)が大きな話題を呼んだ瀬戸山美咲。瀬戸山は、本作を「戦争の後の物語であり、いま起こっている戦争が終わった後、どんなこと起こるかがここに描かれている」と語り、上演に際しては「あえて、未来の設定にして、これから先の戦争が終わった後の世界として再構成したい。いまよりテクノロジーが発達したとして、その時、人間はまだちゃんと人間なのか――? もはや現代において、“人間性”というものはマイナスなもので、人間よりもましな存在が生まれている可能性もあることをここで描きたい」と意欲的に語った。
また、若い世代の育成企画である「シアタートラム・ネクストジェネレーション」では、ダンサー・振付家の高橋萌登が設立したダンスカンパニー「MWMW(モウィモウィ)」の新作公演が行われる。高橋は、廊下や階段、ロビーといった移行するための空間を意味する建築用語で、近年ではSNSなどで、人がいないはずなのに懐かしさや不安を感じる場所を示す“リミナルスペース”をテーマに掲げ「人が無意識に感じるここでもない、あそこでもない人と場所の関係性を描きたい」と明かし「スポーツ観戦や映画を観に行く感覚で、ダンス作品を劇場に観に遊びに来てほしいと思っていますし、そういう公演できるように全力で挑みます」と意気込みを口にした。
海外からの招聘公演では、7月にアメリカで絶大な人気を誇るサーカスカンパニー「アロフト・サーカス・アーツ」が初来日し、パンデミックで世界が分断された時代に「信頼できるコミュニティをつくる」というアイディアをもとに、世界中どこでも上演可能なパフォーマンスとして生み出された作品『ブレイブ・スペース』が上演されるほか、過去に同劇場で5本の作品を上演してきたピーピング・トムによる『トリプティック』が9月に上演。10月には世界的パフォーマーにして振付師のラファエル・ポワテルが自らのカンパニー「カンパニー・ルーブエ」を率いて来日し『Ombres Portées/キャストシャドウ』を上演する。
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また、夏休みの時期には、春風亭一之輔がプロデュース・出演する『せたがや 夏いちらくご』が上演されるほか、「to R mansion」による『走れ☆星の王子様メロス』(提携公演)、子どもたちを対象にしたワークショップ「夏休みこども生活工房(仮)」、10月には秋恒例の「三茶 de 大道芸」など、地域の人々も巻き込んでの体験型プログラムも多数行なわれる予定でとなっている。
世田谷パブリックシアター2024年度ラインアップ
■『フリーステージ2025』
[音楽部門]
2025年4月26日(日)
会場:シアタートラム
[ダンス部門(フラ・バレエなど)]
2025年4月27日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
[ダンス部門(モダン・ジャズ・ヒップホップなど)]
2025年5月4日(日) ・5月5日(月・祝)
会場:シアタートラム
[世田谷クラシックバレエ連盟]
2025年4月29日(火・祝)
会場:世田谷パブリックシアター
■『みんな鳥になって』
作:ワジディ・ムワワド
翻訳:藤井慎太郎
演出:上村聡史
ヒストリカル・アドバイザー:ナタリー・ゼモン・デイヴィス
2025年6月〜7月
会場:世田谷パブリックシアター
■せたがやアートファーム2025
・『キャプテン・アメイジング』
作:アリスター・マクドウォール
翻訳:永田景子
演出:田中麻衣子
2025年7月〜8月
会場:シアタートラム
※8月に愛知公演を予定
・『せたがや 夏いちらくご』
プロデュース:春風亭一之輔
出演:春風亭一之輔 ほか
2025年7月27日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
・アロフト・サーカス・アーツ『ブレイブ・スペース』
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演出・コンセプト:シェイナ・スワンソン
出演:アロフト・サーカス・アーツ
2025年7月28日(月)~ 7月31日(木)
会場:世田谷パブリックシアター
・to R mansion『走れ☆星の王子メロス』[提携公演]
2025年8月9日(土)~8月11日(月・祝)
会場:世田谷パブリックシアター
■あたらしい国際交流プログラム
リーディング公演
『不可能の限りにおいて』
作:ティアゴ・ロドリゲス
翻訳:藤井慎太郎
演出:生田みゆき
2025年8月
会場:シアタートラム
■ピーピング・トム『トリプティック』
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構成・演出:ガブリエラ・カリーソ フランク・シャルティエ
出演:ピーピング・トム
2025年9月27日(土)~9月30日(火)
会場:世田谷パブリックシアター
■世田谷アートタウン2025
『三茶 de 大道芸』
2025年10月
会場:キャロットタワー周辺
■世田谷アートタウン2025関連企画
カンパニー・ルーブリエ/ラファエル・ボワテル『Ombres Portées/キャストシャドウ』
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演出・振付:ラファエル・ボワテル
2025年10月
会場:世田谷パブリックシアター
■『シッダールタ』
原作:ヘルマン・ヘッセ「シッダールタ」「デーミアン」
翻訳:酒寄進一
劇作:長田育恵
演出:白井晃
2025年11月〜12月
会場:世田谷パブリックシアター
■シアタートラム・ネクストジェネレーションvol.17 ―フィジカル―
高橋萌登・MWMW『新作公演』
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構成・演出・振付:高橋萌登
2025年12月
会場:シアタートラム
■『黒百合』
原作:泉鏡花
脚本:藤本有紀
演出:杉原邦生
音楽:宮川彬良
2026年2月
会場:世田谷パブリックシアター
■音楽劇『コーカサスの白墨の輪』
原作:ベルトルト・ブレヒト
翻訳:酒寄進一
上演台本・演出:瀬戸山美咲
2026年3月
会場:世田谷パブリックシアター
■『地域の物語 2026』
2026年3月
会場:シアタートラム
◇フィーチャード・シアター
新たな才能と出会うために、劇場が注目するアーティストやカンパニーを招聘し、公演をサポートするもの。
・ヌトミック 新作音楽劇
作・演出・音楽:額田大志
2025年11月22日(土)~11月30日(日)
会場:シアタートラム
・劇団普通 新作公演
作・演出:石黒麻衣
2025年12月5日(金)~12月14日(日)
会場:シアタートラム
◇ダンス提携公演
・ハラサオリ 新作公演 2025年6月中旬・シアタートラム
・黒須育海・ブッシュマン 新作公演 2025年7月中旬・シアタートラム
・Room Kids 新作公演 2025年8月下旬・シアタートラム
・山海塾 公演 2025年10月中旬・世田谷パブリックシアター
・OfficeALB/北村明子「Xstream project」新作公演 2025年11月初旬・シアタートラム
・中川絢音・水中メガネ 新作公演 2026年1月下旬・シアタートラム
・Co.山田うん 新作公演 2025年2月下旬・世田谷パブリックシアター
・鈴木竜×棚川寛子『いとなむ』 2025年3月中旬・シアタートラム
◇劇場ツアー
一般の方に劇場をより身近な存在として感じてもらうよう、年に複数回、劇場ツアーを開催。白井晃芸術監督、劇場を知り尽くしたスタッフが、世田谷パブリックシアターやシアタートラムを案内する
※その他学芸事業やワークショップ、各公演の最新情報は、劇場公式サイト
にてご確認ください。
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