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内野聖陽×大森寿美男監督インタビュー 『連続ドラマW ゴールドサンセット』は「内野さんを口説き落とさないと完成しなかった」

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左から)内野聖陽、大森寿美男監督 (撮影:源賀津己)

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絶大な支持を集める人気ドラマ『きのう何食べた?』、天才浮世絵師・葛飾北斎を演じ、昨年ヒットを記録した映画『八犬伝』、井上ひさし作・鵜山仁演出によるほぼ一人舞台『芭蕉通夜舟』、さらには1月より配信がスタートした、向田邦子の名作を是枝裕和監督がリメイクした『阿修羅のごとく』(Netflix)など、話題作への出演が続く内野聖陽。

そんな彼が、2007年にNHKの大河ドラマ『風林火山』に主演した際の脚本家・大森寿美男と再びタッグを組んだドラマ『連続ドラマW ゴールドサンセット』がWOWOWにて放送・配信されている。市民劇団を軸に、生きづらさや傷を抱えた人々の再生を描く本作。内野は過去のある“罪”への後悔を抱えながら、シェイクスピアの“リア王”を演じるべく、孤独に生きる阿久津を演じる。演劇を軸にしたこの作品に大森は脚本家・監督としてどのように向き合い、内野は演じることにとり憑かれた阿久津という男の中に何を見たのか――?

連続ドラマW 「ゴールドサンセット」本予告映像【WOWOW】

「演じる」ということについて大事なことがたくさん含まれている作品

――まずは、大森監督がこの『ゴールドサンセット』の脚本・演出を務めることになった経緯、そして内野さんを主演に起用することに決めた理由について教えてください。

大森 僕が以前から何度もご一緒させていただいてきた制作会社の鈴木光プロデューサーから、この原作を「読んでほしい」と渡されて「もし興味があったら、脚本と監督も」というお話をいただきまして。俄然、興味がわいて、原作の小説を読んで面白さを感じて、これはぜひ挑戦したいなと思いました。

演劇をモチーフにした物語だったので、演劇が人間の日常の中でどんな効力を発揮するのか? その人間の人生を変えるような力を持ちうるのか?ということを表現している物語にも思えたので、それは僕らが普段やっている仕事と同じであって、自分たちの仕事の真価を問われるような作品になるかもしれないと思いました。

これはもう全身全霊でこの作品に向き合わなきゃいけないという気持ちで「よしやろう」と思ったとき、主役は誰がやるのか――? そこが一番難しい部分で、まずは劇中劇のリア王を演じ切らなくてはいけないし、俳優を目指したひとりの男の半生を20代から年齢を重ねるまで、全て演じなきゃいけない。(若い頃と現在で)なるべく役者を分けずに表現したいって思ったときに、真っ先に浮かんだのが内野聖陽さんという役者で、まず内野さんを口説き落とさないことには、この作品は完成に向かわないだろうと。

内野 ラブレターがいっぱい来たんですよ(笑)。何通あったかなぁ。「こうしたいんだ」っていう熱い思いをいただきました。

大森 その手紙のやり取りで、僕もだんだん阿久津という役を具体的にイメージしていくことができたし、そこから共同作業が始まっているというか、同じ方向を向いて、この作品に向き合えないと、この作品の主役を演じる役者さんとはうまくやっていけないだろうと思っていました。この作品において、一緒に戦ってくれる人を得ることが真っ先に大事なことだったんですよね。

――内野さんは、『リア王』を演じることにとり憑かれた阿久津という役、物語全体にどのような印象を抱きましたか?

内野 僕は演じることを職業にしちゃってるでしょ? 阿久津は職業になってないんですよ。『リア王』を演じようとするけど、それは、かつて俳優の道を諦めた男が、全生命、全霊魂を投入しての、一夜限りの『リア王』を演じるという設定ですから、僕らが毎晩の公演をするという文脈とはかなり違うかなと。でも究極的には同じなんですよね。いや、(やってみて)同じだなと思ったんですが。

一夜限りの、もう明日はできないよっていう取り憑かれたような演技をしなくちゃいけない。しかも『リア王』というシェイクスピアの超大作の抜粋をところどころね、吸引力のある迫真の演技でしなくちゃいけない――「ふざけるなよ……」と最初、正直思いました(笑)。

プロデューサー陣も「全部やったらどうですか?」と軽々しく言うので「おいおいおい!」って(苦笑)。でもね、そこで監督の目指すもの、この作品が目指すところは僕も多少なりとも理解はしているつもりだったので、監督さんが(劇中に出てくるような)シニア劇団で上演する台本をわざわざ作ってくださって、稽古までワークショップ的にやったんですよね。それは、演劇の現場の匂いにかなり近いもので、これはもう抜粋だろうがなんだろうが、全生命を懸けてやるしかないなと。

キャリアを重ねてきた今でも、「演じる」ということについて、すごく大事なことがたくさん含まれている作品だなと感じました。ことに、小巻沢さん(小林聡美/シニア劇団「トーラスシアター」を設立した演出家)と阿久津のシーンで「演劇って残酷ですね」というセリフ――「“演じる”って、自分の汚いところ、情けないところ、罪深いところを全てさらけ出さないと観客には伝わらない」とか、「誰かの絶望が、誰かの希望になるのが演劇だ」みたいなセリフがポロっと出てきたりするんですけど、それは、本当に自分が常日頃から、演者として考えていることと、ばっちりハマっちゃうところもあって。作品が抱えているメッセージ性が自分とかなり近いものがあって、そこは他人事と思えない部分がありました。

――阿久津という男の内面などについて、大森監督と内野さんの間で何か話し合ったりした部分はあったんでしょうか?

内野 なかったですよね?

大森 原作について議論した部分はありましたね、阿久津の精神性みたいな部分に関して、刺激を受けたところはありました。脚本を書くという部分は僕の仕事なので、書いて、お渡しするという感じでしたが、最初に原作を読んでの感想みたいなものをメールで内野さんからいただいて、それはヒントになりましたね。阿久津が今、どういう精神状態で周りの人々と接しているんだろうか?というようなところですね。

演技に関しては、僕は作ることはできないし、イメージすることはできても言葉で伝えるのも困難なので、現場で僕が役者さんに見せてもらい、教えてもらっているような気持ちで常に現場に立っています。むしろ、そこで発見し立ち会える喜びを感じていますね。内野さんは不安だったかもしれないけど(笑)、内野さんの芝居を見て「OK」と思ったものは本当に自信がもてたからOKなんです。「阿久津がここにいる」と感じられなかったらOKは出せないので。毎回、阿久津がどういう人間なのかを教えてもらっている感覚で撮れたし、それが映像の現場の醍醐味なんだなと感じていました。

脚本を執筆されている段階で常に“監督”でいらっしゃるんですね

――過去にNHK大河ドラマ『風林火山』ほか2作でご一緒されていますが、内野さんから見て、大森さんはどういう脚本家ですか? 今回は監督として現場もご一緒されましたが、演出を受けられてみていかがでしたか?

内野 大河の前に映画『黒い家』(1999)でもご一緒させていただいて、『風林火山』があって、それからドラマ『どこにもない国』(NHK/2018)ですね。『風林火山』なんて全50話ですからね。すごい数ですよね。『どこにもない国』もNHKの大作でしたよね。

大森 僕の中ではやっぱり『風林火山』という大河ドラマであの長丁場を一緒につくって……当時は現場でのやり取りとかはほとんどなかったですけどね。

内野 僕は、自分が出演したもの以外の大森さんの作品も観ていて、印象として感じるのは、社会的な硬派な題材を得意としながら、そこにロマンとか理想を混ぜるのが上手い方だなという印象ですね。

基本はロマンチストなのかなっていう気はするんですよ。だけど、ベタベタ甘いだけでなく、そこに社会性、硬派なものをすごくないまぜにされるなと。もしかしたら、一見とっつきにくいと感じている方もいらっしゃるんじゃないかと思うタイプの作家さんで、でも、よく味わう人にとってはたまらんだろうという気がします。今回もそうですけど、ひとつひとつのことに込められた意味合いが、すごく深いんですよね。

今回で言うと、すごく小さな例かもしれませんが“9時”というのがひとつのキーワードになっていて、その意味に関しては観てのお楽しみなんですけど、そういう仕掛けを入れていたりして、エンターテイナーでありながら、観る者に余白を残してくれるというか……褒め過ぎかな(笑)?

――大河ドラマでご一緒されたときの思い出もぜひお伺いしたいですが、当時、おふたりとも30代後半くらいですね。現場でお話しするような機会はなかったかもしれませんが……。

内野 ほぼゼロでしたね。こちら(現場)はこちらでもう大戦争でしたし……。もうプロデューサーがめちゃくちゃ面白い方で(笑)、歌舞伎やら大衆演劇やら、音楽業界やらいろんなところから多種多様な人を連れてきて……GACKT(上杉謙信役)さんまで引っ張ってきちゃうんだから!

大森 異種格闘技でしたね(笑)。

内野 アクションスターの千葉真一さんもいれば、緒形拳さん、仲代達矢さん、佐藤慶さん、加藤武さんといった往年の映画スターもいらっしゃって……。そこで主演を張るって毎日がミラクルワールドですよ、本当に。僕にとっては現場があまりに充実し過ぎていて、大森さんは大森さんで、僕の知らない世界でプロデューサーとガッツリ組み合って、血反吐を吐いていたんだと思いますが(笑)。

大森 これだけ内野さんを信頼し、大好きになる過程で、やはりあの作品の経験が一番大きかったですね。

内野 あの当時、私は恐れを知らぬイケイケでした(笑)。あれだけの大スターたちを前にしても委縮するところなんてカケラもなくて「うれピー!」みたいな(笑)。「千葉真一さんとアクション? ホントですか!?」みたいな感じでした。ひたすら喜びの日々でしたね。そういうのが本当に宝になっています。仲代達矢さんや緒形拳さんとサシで芝居をさせていただいたり、加藤武さんや佐藤慶さんに映像への向き合い方を教えていただきましたね。

――今回は、脚本のみならず、監督という立場で現場もご一緒されましたが、演出を受けられてみていかがでしたか?

内野 今回、監督という立場ですけど、ご自分で書いてらっしゃって、書きたてじゃないですか? そうするとやっぱり、自分の書かれたものを大事にしたいだろうなと思うし、自分で書いたものをどれだけ蹴っ飛ばせるのかなというのはお聞きしたかったです。当たり前ですけど、自分で書いたらどこも切りたくないじゃないですか? 僕が作家で監督だったら「バカやろー! 切れるわけねぇだろ!」ってなりそうなので(笑)。

大森 今回はそんなに切ってないですね。でも現場に行くと「あぁ、ここはたしかにわざわざ言わなくてもいいな」といった気づきがあるんですよね。それは書いているだけじゃ気づかないですよね。

内野 書きながら監督目線ありきで「こんな画にしよう」ってビジュアルをイメージしてるんですか?

大森 そうですね。

内野 監督も込みではなく、脚本家という立場だけで、今回のシナリオを書いていたら、(内容が)違ってましたか?

大森 いや、それは同じですね。書くという作業は同じで、それを別の方に委ねるという感じです。だから、委ねるんじゃなくて、(監督も含めて)最後まで自分でやりたいなって思いは常にありますね。

内野 今回、自分でメガホンを握りたいと思った最大の理由はどこにあるんですか?

大森 いや、僕は常に自分で撮るつもりになって書いてるんですよ。いつもは自分で撮れないから、自分の頭の中で止めていますけど、精神的な部分では頭の中に完成した映像を思い浮かべながら書いているんですよね。

内野 ある意味で、脚本を執筆されている段階で常に“監督”でいらっしゃるんですね。

大森 まあ、ある意味でそうですね。

内野 じゃあ、自分の脚本を他の監督に委ねて、イメージと違っていて「あぁ、分かってないな」みたいに思うことも(笑)?

大森 まあ、そうですけど、逆もありますからね。自分の予想を超えて「このイメージは僕の中にはなかった!」と。

内野 これだけ長く脚本家として偉大なキャリアを積まれてきましたけど、やはり監督をやりたいという思いは常にお持ちなんですね?

大森 やっぱり、脚本も最後は監督が決めるんですよね。監督が「OK」と言わないと「OK」テイクにならないし、脚本家がいくら「こういうイメージで」と伝えたところで、そこに監督が不満であれば、最終的に本を変えなくちゃいけないんです。いい監督ほどわがままなので(笑)。自分で監督をやらせてもらえるなら、自分でわがままな本のままやれるという思いがあったりするわけで。

内野 じゃあ、監督との話し合いで脚本を変えるとなったら、身を削られるような思いが……?

大森 それは脚本家の宿命ですね。最終的には監督の「OK」に委ねないといけないのでね。どうしても最後は監督の意思に合わせる作業が必要になります。自分で撮るなら、最後まで自分の意思で判断できるわけです。もちろん、人の意見はよく聞きますけど(笑)。

演じる職業の戦いのポイントを感じられるところに足を運ぶ

――ドラマでは阿久津が周囲から変人扱いされながらも、リア王になりきって日常を過ごす様子が描かれます。内野さんも、例えば坂本龍馬の土佐弁を習得するために高知県に何度も足を運んで、現地の方と酒を酌み交わしたなど、様々な役作りのエピソードが語られていますが、これまでに役作りのために行なったことで、特に変わった体験があれば教えてください。

内野 なんだろうな……? 基本的には図書館に通って資料にあたったり、すごく地味な作業が多いんですけどね。

豆腐屋の役をやったときには、豆腐をかき混ぜる練習をするために、自宅の風呂場にでっかい寸胴を入れてかき混ぜたりしましたね。

この前、舞台『芭蕉通夜舟』に出たときは、舟をこぐシーンがあったので、江東区の川で「和船乗船体験」というのをやっているのを探して見つけて、漕ぎに行きました。あれは結構、難しいんです。

――その役の職業という部分で、その身体的な動きを身につけるということを大切にされているんでしょうか?

内野 そうですね。職業のリアリティを出すためには、その仕事の現場に行って、その人たちの日々の戦い方を見て、身につけないと話にならないんでね。全てが体験できるわけではないですが、検視官の役(ドラマ『臨場』)であれば、検視官の方に実際に会いに行って、どんなふうに仕事をされているのかというお話を伺ったり、場合によっては写真を見せていただいたりもします。一番生々しく、その職業の戦いのポイントを感じられるところに足を運ぶようにはしていますね。

取材・文:黒豆直樹
撮影:源賀津己

<番組情報>
『連続ドラマW ゴールドサンセット』(全6話)

毎週日曜22:00よりWOWOWで放送・配信

公式サイト:
https://www.wowow.co.jp/drama/original/goldsunset/

(C)白尾悠/小学館 (C)2025 WOWOW INC.

【第1話まるごと無料配信】連続ドラマW「ゴールドサンセット」【WOWOW】