Text: MAKOTO HASEGAWA/Photo:MASAHITO KAWAI
「この1年間、40周年ということで、いろんな活動をしてきましたが、長く音楽を続けられるのは大切な仲間がいてくれるからこそだと思いました。なので、40周年の締めくくりは“仲間”“友達”をテーマにして開催しようと決めていました」
そんな岸谷香の言葉が、彼女の自主企画イベント『岸谷香感謝祭2025』の本質を端的に表していた。恒例となっているこのイベント、ゲストを招き、たっぷりコラボレーションするところに大きな特徴がある。今回は公私にわたって親交の深い森高千里とLINDBERGの渡瀬マキを迎えて、2月22日、23日の2日間、東京・EX THEATER ROPPONGIで開催された。チケットが発売直後に完売となった貴重なステージだ。ここではその2日目、2月23日の模様をレポートしよう。
オープニングから友達パワーが全開となった。岸谷の長年の飲み友達である元フジテレビアナウンサーの木佐彩子と武田祐子のふたりが『夜のヒットスタジオ』(80年代に人気を誇った音楽番組)風に、ステージ後方から登場し、出演者を紹介したのだ。「今夜のトップバッターはこの方からです。どうぞ!」と紹介すると、岸谷が登場してLINDBERGの「恋をしようよYeah! Yeah!」を歌い始めた。続いてリレーのバトンを渡すように、渡瀬が森高千里の「気分爽快」を歌い、さらに森高がステージに設置された階段の上で「世界でいちばん熱い夏」を歌い始めた。最後は岸谷が引き継いでいく。3人の歌声、ハーモニー、そしてバンドの演奏からもみずみずしいパワーがほとばしっていた。懐かしさと新鮮さとがミックスされた、超豪華なメドレーでの始まりだ。演奏するバンドはYuko(g)、HALNA(b)、Yuumi(ds)というUnlock the girlsの3人に加えて、今回限定でUnlock the boysと命名された橋本和也(sax)、具志堅創(tp)、半田信英(tb)のホーン隊の3人もメドレーに加わり、華やかな『感謝祭』の開幕となった。
全国的に寒波が訪れているタイミングだったが、それぞれ登場するたびに熱烈な歓声と拍手が起こり、会場内はまさに“世界でいちばん熱い夏”へと化していた。互いの曲をメドレー形式で歌う凝った演出を行えることからも、3人の仲の良さがうかがえる。下手側から森高、岸谷、渡瀬と3人が並んで立っている光景のなんと絵になることか。1990年代のキラキラした空気がそのままEX THEATER ROPPONGIに直送されたかのようだ。
「感謝祭2日目、最後の日です。今日で終わっちゃうね」と岸谷。「さみしいね」と渡瀬。さらに「もう1回、この企画を立てた1年半前からやりなおしたいね」と岸谷。そんなやりとりに森高が笑顔で同意している。「いっぱい練習したよね。今日で終わるのは残念だけど、存分に楽しんで帰ってください」という岸谷からの挨拶に続いてはLINDBERGの「もっと愛しあいましょ」。ボーカルは渡瀬、コーラスは岸谷と森高が担当しているのだが、3人ともフリ付きでダンスしているところがポイント。この曲が選曲された理由のひとつは、LINDBERG唯一のフリ付きの曲であること。おまけに、<イチローが満塁ホームラン 打ったあの日以来会ってないわよね>という一節に合わせ、渡瀬が歌っているその背後で、岸谷がピッチャーのポーズを取り、森高がバッターのポーズでスイングする場面もあった。順に投げキッスをしてフィニッシュ。遊び心たっぷりの演出だ。聴いて楽しい観て楽しいイベントなのだ。森高の「17才」では3人がステージ上でミニスカートを身にまとうと、あちこちからどよめき声が起こった。3人はここでもチャーミングなダンスを披露し、客席は狂喜乱舞。3人が互いの健闘を称え合うように、ハイタッチをしてフィニッシュ。ちょっとした表情や仕草からも3人の親密さが伝わってきて、こちらまでハッピーな気分になる。
続いては“渡瀬マキコーナー”。LINDBERGの「今すぐKiss Me」「LITTLE WING」「GAMBAらなくちゃね」が披露された。岸谷は赤いテレキャスターを手にしている。「今すぐKiss Me」では観客もシンガロングとハンドクラップで参加。「もっともっと!」と渡瀬が客席をあおっている。ときめき成分のたっぷり詰まった渡瀬の歌声が会場内に高揚感と一体感をもたらしていく。疾走感溢れる「LITTLE WING」では、渡瀬のボーカルに岸谷のシャウトが加わることで、さらに加速していくようだった。Unlock the girlsの演奏も実にエネルギッシュだ。「GAMBAらなくちゃね」は原曲とは一転して、岸谷のピアノと渡瀬のボーカルというふたりだけのアレンジでの歌と演奏。渡瀬の繊細かつ優美な歌声を、岸谷の包容力の備わったピアノが包み込んでいく。曲の後半で一瞬だけ岸谷のコーラスが入る構成。演奏が終わった瞬間にハグするふたり。心が温まる麗しき光景だ。
“森高千里コーナー”では森高の「ララ サンシャイン」「青春」「渡良瀬橋」が披露された。「ララ サンシャイン」では岸谷とUnlock the girlsがコーラスでも参加。森高がジャンプしながら歌うと、ステージ上から太陽の光が会場内に降り注いでいくようだった。「青春」は岸谷と森高の出会いのきっかけの曲。森高が「青春」の歌詞で<お気に入りはプリプリよ>と書いたことから、過去に何度もコラボが実現した経緯がある。岸谷はキーボードとコーラスで参加し、間奏で一瞬、「Diamonds<ダイアモンド>」のサビの旋律が入る粋なプレイを披露。しかも最後のフレーズで、岸谷の声が加わり、<これからがほんとの私たちの青春かな>と歌詞を変えての歌となった。このフレーズが説得力を持って響いてきた。「渡良瀬橋」は森高の歌とリコーダー、岸谷のアコースティックギターというふたり編成。歌とギターとがぴったり寄り添っているかのようだ。森高の歌声とリコーダー、岸谷のギターのつまびきからは、つないだ手のような素朴で温かなぬくもりが伝わってきた。「ジンとしちゃった、自分の曲なのに」と森高。すべての時間が特別な『感謝祭』だ。
「せっかく3人でステージやるんだから、バンドを組まない?って提案しました。バンド名も考えて、新曲も作りました」と岸谷。3人によるバンドの名前は“ぷリンド千里バーグ”。プリプリ、森高千里、リンドバーグが合体・融合した名前だが、食べ物的な響きがあるところも面白い。担当楽器は、ギターが岸谷、エアギター(!)が渡瀬、そしてドラムが森高。岸谷が作詞作曲した、ぷリンド千里バーグの記念すべきデビュー曲「ぷリンド千里バーグ GO GO」は痛快なロックンロールでありながら、キュートさもあるナンバーだ。岸谷がギターを弾きながらリードボーカルを取り、サビでは渡瀬が観客をリードして歌っている。森高がステージ中央の一段高くなったところで、パワフルかつタイトにリズムを刻んでいる。初めて聴いても真っ直ぐ届いてくる親しみやすさも備えている。観客もコール&レスポンスで参加し、会場内に熱気が充満した。そのまま森高のドラムで始まったのは「Diamonds<ダイアモンド>」だ。味わい深さと凜とした潔さを備えたドラムも、彼女のミュージシャンとしての魅力のひとつ。渡瀬はタンバリンを手にしている。森高、渡瀬、岸谷の順でリードボーカルを取る構成。Yukoのギターソロもフィーチャーし、Yuumiはパーカッションを叩いている。ぷリンド千里バーグとUnlock the girlsの奏でる音と観客の歌声が混ざり合った瞬間に祝福感が漂い、夢のような世界が広がっていった。
後半はUnlock the girlsによるステージだ。この『感謝祭』のステージからは、バンドの表現力の豊かさと集中力の高さも伝わってきた。歌心とファイティングスピリッツ、力強さとしなやかさを兼ね備えているところにもUnlock the girlsの魅力がある。ここでもスペシャルな演出がたくさんあった。ダンス動画も公開された「Beautiful」ではダンサーのMiHOがゲストとして登場し、お手本のダンスを披露する中での演奏となった。岸谷はハンドマイクを持って、踊りながら歌っている。進行を務めた木佐、武田もダンスで友情出演。リズミカルな岸谷の歌声と躍動感溢れるUnlock the girlsの演奏に、会場内が揺れている。「Beautiful」は2024年7月にリリースされた曲だが、ライブで演奏される中で曲がどんどん成長していると感じた。
「新曲を作って用意してきました。母親は子供のボディーガードなのかもしれないな、いくつになっても子供のボディーガードでいるのが母親なのかなとの思いを形にしました」との岸谷のMCに続いて、新曲「ボディガード」が披露された。骨太なロックンロールにして、守りたい存在への思いが詰まったラブソングとしても成立しているナンバーだ。たくましさ、いとしさ、せつなさのにじむ岸谷の歌声に胸が熱くなった。これは今の彼女だからこそ、歌える歌だろう。
スペシャルな企画はまだまだある。終盤の5曲はホーン隊、Unlock the boysの3人も参加してのステージだ。HALNAのベースで始まって、岸谷とYukoのかけあいコーラスが楽しい「Wrong Vacation」、ヒューマンパワーが全開となった「ハッピーマン」などは、ホーンが加わることで、さらにカラフルかつパワフルなバンドサウンドを展開。岸谷がキーボードを弾きながら歌った「M」では、ドラマティックかつエモーショナルな歌、コーラス、演奏に聴き入った。疾走感と爽快感溢れるバンドサウンドが気持ち良かったのは「STAY BLUE」だ。本編の最後は「ミラーボール」。会場内のミラーボールの光が輝く中で、ホーン隊のブライトなサウンドが加わって、歌も演奏も特別な輝きを放っていて、観客を祝福するかのようだ。YukoとHALNAがジャンプしながら演奏。会場内もダンスフロアへと化している。演奏が終わると、Unlock the girls & Unlock the boysに盛大な拍手と歓声が起こった。
アンコールでは岸谷、森高、渡瀬が再び登場。さらに木佐、武田、MiHOも参加。「オジさん、オバさんになってもいいんだよ。こうやって楽しい時間を一緒に過ごせる、そんな素敵なオジさんとオバさんならいいよね」との岸谷のMCに続いて、「私がオバさんになっても」が披露された。森高の歌に続いて、それぞれがリードボーカルを取ったり、コーラスで参加したりしている。観客もうれしそうに歌っている。青春もいいけれど、年を取ることも悪くない。会場内が一体となって歌った全員参加による「私がオバさんになっても」は人生賛歌のようでもあった。アンコールの最後の曲を演奏する前に、岸谷がこの日の出演者、スタッフ、そして観客のことを「大切な仲間」と語っていたことも印象的だった。
「私は大切な仲間と友達に支えられて、40周年を迎えられたんだなとこの2日間ずっと感動していました。この先、50周年目指して音楽をやっていこうと思います」
そんな岸谷の挨拶に続いて、Unlock the girlsとUnlock the boysによって、プリンセス プリンセスの「OH YEAH!」が演奏された。歌、コーラス、バンドの演奏、そしてホーンから、みずみずしいエネルギーがほとばしっていた。観客をもれなく笑顔にしていくような楽しいエンディングだ。オープニングナンバーが「恋をしようよYEAH YEAH」で、ラストナンバーが「OH YEAH!」という“YEAH”つながりで、『岸谷香感謝祭2025』はにぎやかに始まり、にぎやかに幕を閉じたのだ。すべての瞬間が特別だった。青春が蘇ったと感じた人もいるだろう。音楽には時空を越える機能とともに、人と人とをつなげる機能が備わっている。音楽を通じて、感情や体験を共有できるからだ。もともと深くつながっている友達同士が音楽を奏でることで、つながる力がさらにパワーアップしていると感じた。音楽の楽しさと友情のかけがえのなさを再確認した夜でもあった。できることならば、いつの日か、ぷリンド千里バーグの次なるステージを観てみたい。
<公演情報>
『岸谷香感謝祭2025』
2025年2月22日(土)・23 日(日) 東京・EX THEATER ROPPONGI
【セットリスト】
01.オープニングメドレー
恋をしようよYeah! Yeah!~気分爽快~世界でいちばん熱い夏
02.もっと愛しあいましょ
03.17才
04.今すぐKiss Me
05.LITTLE WING
06.GAMBAらなくちゃね
07.ララ サンシャイン
08.青春
09.渡良瀬橋
10.ぷリンド千里バーグ GO GO
11.Diamonds<ダイアモンド>
12.Beautiful
13.ボディガード
14.Wrong Vacation
15.ハッピーマン
16.M
17.STAY BLUE
18.ミラーボール
ENCORE
19.私がオバさんになっても
20.OH YEAH!
<ライブ情報>
『KAORI KISHITANI "40+1st" Anniversary
LIVE TOUR 2025 “58th SHOUT!”
まさかのリクエスト ~あの曲が聴けるとは思いませんでした~』
6月7日(土) 神奈川・横浜ランドマークホール
6月14日(土) 福岡・福岡DRUMLOGOS
6月15日(日) 広島・広島クラブクアトロ
6月21日(土) 北海道・札幌ペニーレーン24
6月28日(土) 大阪・大阪BIGCAT
6月29日(日) 愛知・名古屋ダイアモンドホール
7月6日(日) 宮城・仙台Rensa
7月26日(土) 東京・恵比寿ガーデンホール
【チケット情報】
全席指定:9,000円(税込/ドリンク代別)
チケットぴあ先行受付:3月12日(水) 23:59まで
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557761
岸谷香 オフィシャルサイト:
http://kaorikishitani.com/