「感情のアークを表現したい」、映画「ウィキッド」衣装デザイナーが語る舞台裏
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「ウィキッド ふたりの魔女」でアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したポール・タゼウェル(写真提供:Sthanlee Mirador / Sipa USA / Newscom / ゼータ イメージ)
映画「ウィキッド ふたりの魔女」の衣装を手がけ、黒人男性として初めてアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したポール・タゼウェルのインタビューが到着。映画「オズの魔法使」やブロードウェイミュージカル「ウィキッド」に敬意を払いながら、現代の感性によって生み出したという衣装の舞台裏について語った。
本作は魔法と幻想の国オズのシズ大学で出会った2人の魔女の数奇な運命を描いたミュージカル。シンシア・エリヴォが生まれつき緑色の肌を持ち周囲から疎まれてきたエルファバ、アリアナ・グランデが魔法に憧れる人気者のグリンダを演じている。
監督を務めたジョン・M・チュウの「新しいビジョンを作りたい」という言葉に共鳴したというタゼウェル。リサーチはライマン・フランク・ボームが著した1900年の小説「オズの魔法使い」の挿絵にまでさかのぼった。タゼウェルは「とても魅力的な挿絵でした。当時のシルエットや感性をある程度、オズの世界を作るのに取り入れるのはとても適切だと思いました」と述懐。そこから得たインスピレーションは、エルファバやマンチキン国の人々の衣装に生かされているという。
エルファバの衣装に関しては「映画『オズの魔法使』における彼女のドレスは、1890年代のシルエットなんです。僕は、シンシア・エリヴォが演じるエルファバのために、その感性を再解釈しました」と説明。黒を基調としたエルファバの衣服は、細かい装飾が施されているものが多い。そのスタイルや装飾には、自然に存在する木々や花、キノコ、葉っぱなどの要素を取り入れた。
タゼウェルは「僕はまず自然を見ました。自然の中に存在するテクスチャーについて考えたんです。自然は時を超越しているので、必ずしもその時代によって左右されるものではありません。魔法が本当に起こるような世界を作りたかったんです。だから、自然に存在する“らせん”に目を向けました。エルファバをオーガニックでミステリアスな雰囲気にするために、例えば貝殻やつるに現れる“らせん”にです」と語る。
一方のグリンダの衣装については、「彼女はとても生き生きとしていて、生命力にあふれているキャラクター。そしてまた、彼女の優しさにはわざとらしいところがあり、時々、本物ではないこともあります。そういったことを泡や虹色、映画『オズの魔法使』にあったピンクの色調で表現したかったんです」と回想。その特徴を「とてもフェミニンで、丸いエッジがあって、ちょっと淡い色や、やわらかなピンクと輝きがある」と話す。
映画の冒頭、泡に乗ったグリンダが着ている淡いピンクのドレス。これはウエストから下が風船のようにふくらむ“バブルドレス”と呼ばれるもので、タゼウェルは「衣装デザインの楽しみの1つは、生地と向き合い、衣服に絶対的にふさわしい生地を選ぶこと。バブルドレスについて考えてみると、最高のオーガンザ(薄手の織物)にたどり着くために、25種類ほどのピンクのオーガンザを検討しました」と振り返る。「たくさんのドレスを作らなければならないので、途中でちょうどいいピンクの生地がなくなってしまったこともありました」と当時のエピソードも教えてくれた。
衣装を通してキャラクターの成長も表現したタゼウェル。その意図を「登場人物に衣装を着てもらうことで、自分自身のストーリーテリングをしているつもりです。それぞれの衣装によって、キャラクターが感情的にどのような場所にいるのかを語るようにしたいんです。そうすることで観客に、そのキャラクターがどういう人物で、どのように変化していくのかを、さりげなく伝えることができますから」と説明する。
最初はいがみ合っていたエルファバとグリンダだが、やがてかけがえのない親友となっていく。タゼウェルはその変化のプロセスにも言及し、「彼女たちがシズ大学に入ったときにいた場所は、最終的に行き着く場所とはまったく違います。エルファバが窓を飛び越え、重力に逆らうとき。そしてグリンダが、自分の人生をどうするか決めようとするとき。彼女たちの服を通して、そういった感情のアークを表現したいんです」と語った。
「ウィキッド ふたりの魔女」は全国で公開中。
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