成河に聞く『ミッキー17』日本語吹替えの裏側 ポン・ジュノ作品は「バイブルのよう」
映画
インタビュー
成河 撮影:源賀津己
続きを読むフォトギャラリー(5件)
すべて見る俳優の成河が、『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督の新作映画『ミッキー17』の日本語版で主人公ミッキーの声を演じている。
長年にわたってポン・ジュノ作品を愛してきた彼は、本作を演じる上で “ポン・ジュノ作品らしさ”を損なうことなく演じることを心がけたようだ。

本作で成河が声を演じた主人公ミッキーは、何度死んでも生き返る使い捨てワーカー。ある日、17番目のミッキー17の前に、18番目のミッキー18が出現したことから、ふたりはこの状況を抜け出すべく逆襲を開始する。
成河は日本を代表する舞台俳優のひとりで、映像の世界でも活躍している。本作は厳正なオーディションによって役が決まったそうで、その段階からミッキー17と18に近づいていったようだ。
「オーディションを受けさせていただく中で監督さんからいろいろな提案をしていただきました。舞台ですと稽古をしながら考えていくわけですけど、映像や声のお仕事は瞬発力の世界なので、監督さんのイメージしているものにパッと近づくことができるかが大事になります。僕はあまり“役づくり”という言葉を使うことはしないのですが、今回はオーディションの段階で監督さんから厳密に指示をいただけたので、その段階でスッと役に入っていくことができました」
舞台ではその空間を掌握するかのようなダイナミックな演技が魅力の成河。その集中力、繊細さ、大胆さは現代の演劇界でトップクラスの実力を誇るが、声だけの演技は「中華料理と和食ぐらい違うもの」と笑う。
「使う鍋も違うし、料理も違う。でも、どっちも食べることに関しては大好き、という感じですね(笑)。舞台では最終的には自分の演技がすべてになってしまう。だからこそ演出家の方と信頼関係を築くために稽古が必要になるのですが、映像や声の仕事は、出来上がったものを見てくださる監督の判断がある意味すべてになります。だから自分の“こだわり”に囚われすぎないことが大事。映像や声の仕事は多くはないですが、すごく好きです」
その上、本作はずっと好きで観てきたポン・ジュノ監督の新作だ。
「そうなんですよ! 僕はポン・ジュノさんの『殺人の追憶』を学生時代からバイブルのようにずっと観てきましたから、今回のオーディションは本当にうれしかったですね。本作もポン・ジュノ的な世界がちゃんと描かれているのに、ハリウッド映画的な爽快感もある。とても不思議で、本当に見事な映画でした」
成河は、ポン・ジュノ監督にしか描けない世界をこう分析する。
「ポン・ジュノさんの作品は、すごく壮大な話をしているときにも、すごく小さくて“些細なこと”を大事にする。そのことでちょっと笑っちゃいそうになったり、人間のちっぽけさを感じたりするんです。物語に没入させようとしたかと思えば、フッとドライな目線になったりもする。その手つきがポン・ジュノさんなんでしょうね。
この映画でも、死んでもまた新しい自分がプリンターから出てくるわけですから、笑えるんですけど、同時にすごく恐ろしい話でもある。この映画ではどちらか一方に振ることなく、常に居心地の良いような、恐ろしいような場所を行き来する。『パラサイト…』もそうでしたよね。考え方によってはとても社会的で真面目な題材を扱っているのに、どこか笑ってしまったり、あっちこっちに振り回される感覚があるんです」
シリアスなドラマも、クスッと笑える要素も、ダークコメディの恐ろしさも同居する『ミッキー17』。日本語版でもその“絶妙なバランス”はしっかりと保たれている。
「ロバート・パティンソンさんがどうやって演じられたのか、聞いてみたくなります。題材との距離感をちゃんと取りながら、没頭する場面もあれば、ドライに演じている場面もある。声を演じる上では監督の指示を受けながら、ほんの小さな加減ですよね。小さじスプーン1/2を1/3にするぐらいの細かいさじ加減をしていきました。舞台ではここまでの繊細さは扱わないので、そこは声の仕事の面白さでしたね」
取材・文:中谷祐介(ぴあ編集部)
撮影:源賀津己
<作品情報>
『ミッキー17』
3月28日(金) 公開
(C)2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
フォトギャラリー(5件)
すべて見る