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映画『TATAMI』公開記念トークイベント開催 スポーツと政治の根深い問題を掘り下げる

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左から)古田英毅、塩谷耕吾

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映画『TATAMI』の公開記念トークイベントが、3月15日に東京・アップリンク吉祥寺で開催。本作のベースのひとつとなった、2019年に東京・日本武道館で開催された世界柔道選手権で起きた「サイード・モラエイ事件」を日本語実況、解説者として目の当たりにしていた柔道専門メディアeJudo編集長の古田英毅と、同じく事件の起きた大会に居合わせ、すぐにイスラエル大使館に取材を行った朝日新聞スポーツ部記者の塩谷耕吾が登壇した。

『TATAMI』は、スポーツ界への政治介入や中東の複雑な情勢、イラン社会における女性への抑圧を背景に、アスリートたちの不屈の“戦い”を臨場感あふれる映像で描き出した話題作。まず映画の感想を聞かれると、古田は「素直にエンターテインメントとして面白かったというのが最初の感想。バックグラウンドを知らなくても引き込まれるスリリングな作品だと思いました。感情移入の導線が非常に丁寧で、その場にいるような生々しさを感じました」、塩谷は「2019年に見た世界柔道選手権を思い出させる、かなりリアルな映像と人間模様でした。イランとイスラエルの選手の視線の交錯とかいろいろと考えさせられる作品でした」とそれぞれ絶賛した。

「サイード・モラエイ事件」について、古田は「イランのサイード・モラエイは前年2018年の世界柔道選手権のチャンピオン。イスラエルのサギ・ムキは当時、世界柔道選手権を迎える段階でワールドランキング1位の選手。イランとイスラエルの選手が初めてお互い世界一を争うレベルにあるという大会で、ふたりには注目が集まっていました」「モラエイは準決勝まで勝ち上がるのですが、準決勝に出てきたモラエイの様子がおかしいんですね。一緒に解説をしていた西山将士さんたちと“おかしくないですか? おそらくはメンタルの問題ですね”と話しながらコーチボックスを見ると誰もいない。そのとき初めて、知識として持っていたイスラエル・ボイコットという問題と目の前に起こっていることが繋がったんです。そこで放送席からメディアに取材をしてもらいたいと、朝日新聞の塩谷さんにメールをしました」と解説。

それを受け塩谷は、「モラエイの試合の翌日、古田さんがeJudoに“噂のイスラエル・ボイコットなのではないか”と書いた記事を読んで、なんだこれは、と。このことに気づいているメディアはほとんどいなかったんじゃないかと思います。日本武道館に着いて、いろいろな柔道関係者に話を聞くと、“よくあることなんだ”と言っていて、これは取材をしなくてはいけないと思ったんです。この大会でサギ・ムキ選手は優勝して、イスラエル大使館で祝勝会が開かれることになったので向かいました。そこでムキ選手に取材をして、“僕もモラエイと戦いたかった”“彼とは親友で、実は、君といつか戦いたいというメールも来ていたんだよ”と話してくれました。スポーツと政治がこれほど密接で、壮絶なかたちで現れるんだと、頭を殴られたような出来事でした」と事件を詳細に語った。同時に同僚が、国際柔道連盟のビゼール会長から、モラエイ選手は大使館員より脅迫を受け、棄権を強要されたために保護したという事件の経緯を聞いたという。

塩谷はイスラエルの選手についても、「イスラエルは常にテロの危険にさらされています。パリ五輪前にはパレスチナへの攻撃で、世界中からイスラエルへ憎悪の視線が向けられている中でイスラエル選手は戦い続けました。女子柔道のヘッドコーチには、常に特別な席が用意されていて、どこに行くにも警備員にしっかりと警護されていました。メンタルケアの専門家も常に選手に付き添っています。そういう中で戦っていて、イラン選手同様、純粋にスポーツで戦う一方で、国も背負っている」と解説。また全日本柔道連盟の元会長、山下泰裕の名前を挙げ、イスラエルとパレスチナの両選手を日本に招聘し合同練習をさせた活動に触れる一方で、山下の「スポーツが力をつければつけるほど、それを大きな力が利用しようとする。国というような大きな力が利用しようとしたときに、スポーツでは対抗できない」という発言を紹介し、「山下さんくらいスポーツの力を信じている人がそのような発言をしたことが重くのしかかった」とスポーツと政治の根深い問題を掘り下げた。

古田は「『TATAMI』を観て、人は生理的な怒りを感じると思います。スポーツには自由がある。勝負には嘘がない。社会ではありえないその本来的な嘘のなさに人は惹かれるんです。そして人はスポーツや芸術の力を本能的に知っているから、ここへの干渉に憤るんです。今回は映画という芸術の強い力で、スポーツというもうひとつの強い力がゆがめられることに対する怒りを描いた。これが観る者を突き動かすのではないかなと思います」と語った。

主人公レイラ・ホセイニ役を演じたアリエンヌ・マンディの柔道アクションについて、古田は「柔道未経験者がやる柔道アクションとしては史上最高峰!」、塩谷も「腰がしっかりと落ちている」と専門家として細かい動きを指摘しながら絶賛。また接写で撮られた試合シーンについて、古田は「テレビ中継で見ているスポーツの映像のようなひな型の話法から、この映画はかなり自由。柔道を知らない人がカメラを構えると、技を撮らなきゃと引きがちなんですよね。『TATAMI』ほど自由な表現は観たことがなかったです」とお墨付きを与える。さらに「レイラに感情輸入することで、国家に対する恐怖とか、自由が妨げられることへの怒りが喚起される。一人称に近い視点にすることで、感情移入の導線がすごく上手くいっていると思いました」とコメントすると、塩谷も「彼女の荒い息遣いが、まさに組んでいるときの感じを体感することができた」と共感した。

最後に、個人と政治の問題について、古田は「個人は個人という意識は持ってほしい。それを持ったうえで批判してほしいなと思います。今、柔道はロシアがすごく強いのですが、パリオリンピックには出ることが出来なかった。次も可能性は薄い。彼らが、個人としては自由で権利がある人たちだとわかってあげるだけでも応援になると思います」とコメント。塩谷は「大事なものはできる限り支援して、自立していけるような文化になることが大事なのかなと思います」と語り、トークを締めくくった。

<作品情報>
『TATAMI』

公開中

『TATAMI』ポスタービジュアル

公式サイト:
https://mimosafilms.com/tatami/

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