『ミロ展』展示レポート 各時代の代表作で70年にわたる画業を網羅した決定版的大回顧展
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すべて見るピカソ、ダリとともに、20世紀スペインを代表する芸術家ジュアン・ミロの回顧展が、東京都美術館で開幕した。日本でも人気の高いミロは、展覧会で紹介される頻度も高い。ただ、これまでは、テーマや時代に焦点をあてて掘り下げた各論的な紹介も多かったという。今回は、その各論を網羅した総論的な回顧展。ミロ自身が設立したジュアン・ミロ財団の全面協力に加え、世界各地の主要美術館からの出品も受け、各時代の代表作を中心に100点近くの多彩な作品が結集した。「一生に一度の出会い」という同展紹介のキャッチコピーにあるように、これだけの名品が一堂に並ぶ大スケールの個展はまたとない機会に違いない。
初期から晩年まで、時代順に構成された同展の見どころのひとつは、70年に及ぶ活動歴を通じて、様々に作風を変化させたミロの多面性を目の当たりにできることだ。1893年にカタルーニャ州で生まれたミロは、父の意向もあって堅実な会計職についたが、体調を崩して養生のために過ごしたモンロッチの村で、本格的に絵画に取り組み始める。キュビスムなど様々な影響を経て到達した初期の独自の画風を示すのが、繊細な線を駆使して描いた《ヤシの木のある家》。画面の全体を細密に描き込んだ表現は、後年の作とは大きく異なるが、線の美しさに後の展開も見てとれるだろうか。
1920年に初めてパリを訪れたミロは後にアトリエを設け、シュルレアリスムの芸術家たちと交流する。1925年頃に生まれたのは、余白を多くとった画面に、人物や生き物を思わせるフォルムや、天体などの形を象徴的に表した記号が浮遊する絵画。この「夢の絵画」と呼ばれる作品群で、ミロは名声を得た。
この時代の特徴のひとつは、しばしば言葉が画面に取り入られていることだ。詩を愛していたミロは、「私は絵画と詩を区別していない」とも語っている。描かれたフォルムにも詩情が感じられるが、ときにユーモアも交じる言葉も印象的だ。例えば、《絵画=詩(おお! あの人やっちゃったのね》が意味するところは「おなら」だったり、寄り添う2人の人物像には「栗毛の彼女を愛する幸せ」と、ほのぼのとする言葉が書き込まれている。シンプルな表現で、絵画と詩の融合がはかられているのもミロ作品の魅力だ。
同じ時代で異なる画風も見てとれる。例えば、オランダ旅行で気になった絵の絵葉書をもとに描いた《オランダの室内I》は、楽器を弾く男性と耳を傾ける女性を描いた17世紀の室内画を大胆に変奏した作品。デフォルメや省略、さらに加筆も行われているので、近くにパネルで掲示された元の絵と比べて見ると大いに楽しめるが、「夢の絵画」とは異なる路線のシュルレアリスム作品と言えるのだろう。
東京都美術館の会場は3階に分かれており、階ごとに展示室の印象が異なる。次の階は、スペインが内戦に、そしてヨーロッパ全土が第2次大戦に向かう1930年代から始まる。スペインの独裁者となるフランコに反対した平和主義者のミロは各地を転々とせざるを得ず、作品の色調にも時代の暗雲が反映されている。と同時に、反骨精神にあふれていたミロは、従来の絵画の在り方を問い直す制作も進めていく。コラージュは以前から取り入れていたが、背景にアルミ箔を用いたり、合板のメゾナイトに下地を施さずに直接描いたりといった新たな取り組みも見られる。
今回、特に注目されるのは、戦禍を逃れたノルマンディー地方で着手され、母の故郷マジョルカ島で隠棲しながら描き続けた〈星座〉シリーズだろう。星や天体、女や怪物、鳥、ハシゴなど、様々な記号とモチーフを配した23点の連作は、詩や音楽に触発されながら、辛い現実から逃れるように描かれたという。紙作品のために脆弱で、各地に散らばる連作が並ぶことは滅多になく、3点が並ぶのは稀なことだ。自由に浮遊するフォルムと美しい色彩から、描くこと自体が画家本人の心の慰めや希望となっていたとも感じられる。黒い壁面の独立した空間に展示されているため、その内省的な作品世界に静かにひたれるのも今回の展示の嬉しいところだ。
戦後もフランコ政権下にあって隠棲していたミロだが、〈星座〉シリーズをはじめとした作品がアメリカで高い評価を受け、同地の若き芸術家たちに影響を与えることになる。と同時に、柔軟な精神をもつミロ自身も、訪れたアメリカから影響を受けたという。絵画では大胆な抽象化が進んでいく一方、彫刻や陶芸への取り組みにも力が入れられた。同展では、絵画と立体作品が響き合うような展示も見どころとなっている。
最後の階のはじめに登場するのは、社会の希望や要求を表現する手段としてミロが積極的に取り組んだ鮮やかな色彩のポスター群だ。国際的な評価が先行したミロだが、民主化が進んだ1970年代には母国での評価も確立し、例えばFCバルセロナの記念ポスターに採用されるなど、国民的画家として周知されたことがうかがえる。
次の展示室の明るく開放的な空間は圧巻だ。楽しげに並ぶカラフルな立体作品は、家具の一部や蛇口といった身近なものを自由に組み合わせた彫刻をブロンズにして彩色したもの。周囲に並ぶ大型絵画は、年齢を重ね、巨匠となっても、ミロが常に新たな表現を目指していたことを明らかにしてくれる。
例えば、1966年に日本での大回顧展のために初来日したミロは、日本の詩や文化に対する関心をさらに深めたといい、今回は、仙厓の《○△□》を思わせる絵画も登場する。黒いアクリルで描かれた三連画は、東洋の墨を思わせると同時に、したたり落ちる絵の具にアメリカ抽象表現主義の影響も見られる。
この部屋でとりわけインパクトがあるのは、ナイフで切られ、炎で焼かれて穴のあいた絵画だ。「反絵画」ともとれるこの破壊された絵は、ミロの反骨精神を反映するとともに、現代にも通じる新たな技法の試みを示している。
多面的であると同時に、新しい表現に挑戦し続けるという点においては、初期から晩年まで一貫していた巨匠ミロの情熱とその多彩な作品群を、ぜひ会場で体感したい。
取材・文・撮影:中山ゆかり
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<開催概要>
『ミロ展』
2025年3月1日(土)~7月6日(日)、東京都美術館にて開催
公式サイト:
https://miro2025.exhibit.jp/
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/search_all.do?kw=%E3%83%9F%E3%83%AD%E5%B1%95
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