市川染五郎の主演に永井紗耶子「“推し”に演じていただくような気持ち」と喜び「木挽町のあだ討ち」
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左から市川染五郎、永井紗耶子、齋藤雅文。
4月に東京・歌舞伎座で上演される松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」昼の部「木挽町のあだ討ち」より、主演を務める市川染五郎、原作者の永井紗耶子、そして脚本・演出を担う齋藤雅文の取材会が、東京都内で本日3月25日に行われた。
「木挽町のあだ討ち」は、江戸の木挽町を舞台に、美しい若衆・伊納菊之助による仇討ちの真相が描かれる時代小説。「四月大歌舞伎」では、主人公の菊之助を染五郎が勤め、物語の舞台となる“木挽町”に立つ歌舞伎座で、本作が新作歌舞伎として上演される。永井は「私が歌舞伎が好きすぎたことから、新潮社さんから『歌舞伎を題材にした作品を書いてみませんか』とお声がけいただきました。『木挽町のあだ討ち』は、私の“歌舞伎が好き”という思いを表現した作品で、そんな作品がまさか、自分が生きているうちに歌舞伎になるということは、正直想像していませんでした。染五郎さんをはじめとしたキャスティングも、齋藤先生の脚本もとても素晴らしく、私はただただ上演を楽しみにしています」とコメント。さらに今回主演を務める染五郎の魅力を「華やかで、思わず目を引く存在感」と熱く語り、「“推し”に演じていただくという気持ちでおります(笑)」とちゃめっ気たっぷりに微笑んだ。
齋藤は「木挽町のあだ討ち」を「大好きな小説」と表現し、「ごく普通の青年である主人公の菊之助くんが、とんでもない運命を背負わされて、葛藤の中で成長していく物語です。そんな菊之助くんを助けるのが、芝居小屋の森田座の人々。言ってしまえば“バックステージもの”で、僕にとって大好物なシチュエーションですので、(笑)、思いっきりやりたい」と瞳を輝かせた。さらに齋藤は、菊之助の“運命と闘う”という境遇が、染五郎と重なると話し、「菊之助くんを見守る森田座の人々も、染五郎くんを見守る今の歌舞伎座の皆さんと限りなく重なっていて、とても旬な、面白い構造になっていると思います。『今観なきゃ損だぞ』という芝居になるのでは」とニヤリと笑った。
染五郎は「原作を拝読させていただくと、登場人物の1人ひとりが非常に個性的で、愛すべきキャラクターばかり。彼らが、先輩方の身体を通して歌舞伎作品として実体化したときに、どんなものになるんだろうと、僕自身すごくワクワクしています。今、まさに稽古中で、少しずつ立ち上がってきているところなのですが、原作が持つ『芝居っていいな』という思いがこもった作品になりそうです。この熱をお客様にも共感していただけるようにがんばります」と話した。さらに「一番意識したいのは、菊之助の成長過程を限られた上演時間の中できっちりお見せすること」と述べ、「このひと月の間に、できる限りいろんなものを吸収し、僕自身の成長と菊之助の成長が重なってお客様に届けば」と意気込みを語る。
原作小説からの変更点についての質問が飛ぶと、齋藤は「小説は、章ごとに語り手が変わるオムニバス形式で、それが最後1つの物語に収束されていくという、非常に緻密な構造になっていますが、舞台では、菊之助の心の流れに沿った時系列で物語が進行する予定です。原作小説では、菊之助が森田座に転がり込んでから仇討ちまでの期間は数カ月ですが、歌舞伎座でやるうえでは季節感が必要だと思い、幕開きは春で、一幕の切れは月の下で葛藤する菊之助、そして大詰は雪と、雪月花すべてを入れ込みたく、そのわがままを通させていただきました」と話す。今回7度目のタッグとなる染五郎については「彼は目覚ましいスピードで成長していますよね。公演を重ねるごとに“脱皮”して、別の生態系に変わっていくようなイメージです。『今度はサナギになるぞ』『そのうち羽が生えるぞ』という予感が楽しくって。染五郎さんと稽古をしていると、“一緒に走っている”感じがあり、いい意味でどんどん期待が裏切られていく感覚がありますね。ぜひお客様には、新しい染五郎さんを目撃していただきたい」と言葉に力を込める。また記者が、染五郎が明後日3月27日に二十歳の誕生日を迎えることを齋藤に告げると、「そうか、二十歳か。じゃあ、乾杯できますね。これまでは、(染五郎の父・松本)幸四郎さんと3人で餃子を食べに行っても、1人だけノンアルコールだったから。それも楽しみにしています(笑)」と温かい瞳で染五郎を見つめた。
なお、3月初旬には、染五郎扮する菊之助のスチールが公開され、話題となった。記者から、スチールの印象を問われた永井は「小説の中で、菊之助の描写を『大変美しい』というふうに書いたのですが、(染五郎の扮装姿を見て)こんなに美しいものか、と感動しました。また作中では、菊之助は見た目の美しさだけではなく、心根や佇まいも含めて美しく、森田座の面々が支えたくなるような若者であった、と書いておりましたが、まさにそういったことを感じさせる1枚で。このビジュアルをご覧になってから、(原作小説を)読んでいただくと、より想像を膨らむのでは」と語る。また、本の出版後すぐに、読者から「菊之助のイメージは染五郎」というSNS等での書き込みを目にしていたことを明かし、「私自身もその思いがありまして、実際に染五郎さんに決まったときには、すごくうれしかったですし、きっとその書き込みをされた方々も大変喜ばれているのでは」と話す。隣の染五郎は「ただただありがたいですし、うれしいなと思います」と顔をほころばせた。
なお松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」の上演演目には、昼の部に「木挽町のあだ討ち」「黒手組曲輪達引」、夜の部に「彦山権現誓助剱」より「杉坂墓所」「毛谷村」、「春興鏡獅子」、新作歌舞伎「無筆の出世」が並んでいる。公演は4月3日から25日まで。
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