ROTH BART BARON、映画監督・岩井俊二も参画したデビュー10周年ツアーファイナル公演レポート 自分たちを貫いた10年、ファンは「共犯者」
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『Ice Age:Melt and Blooms』より Photo : 三浦大輝
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すべて見るText:美馬亜貴子 Photo : 三浦大輝
昨年、デビュー10周年を迎えたROTH BART BARON(ロットバルトバロン)。2024年11月に札幌から始まった全18公演にわたるアニバーサリー・ツアー『Ice Age:Melt and Blooms』。その集大成ともいえるファイナルが、東京・渋谷O-EASTで行なわれた。
オープニング・ナンバーは2014年に発表したデビュー・アルバム『ロットバルトバロンの氷河期』収録の「炎(Neonlight)」。このアルバムは極寒のフィラデルフィアで録音したそうだが、今、改めて聴いても、その寒さや、心の寄る辺なさが音を通じて生々しく伝わってくる。今回の10周年ツアーではそのデビュー作を「今」のライブ・サウンドで再現するのがテーマだ。

バンドはボーカル/ギターの三船雅也を筆頭に、西池達也(key)、竹内悠馬(trp etc)、Zak Croxall(b)、大田垣正信(trb etc)、工藤明(ds)の6人編成。そしてファイナル公演のみ特別に「映像演出」として、映画監督の岩井俊二も参画している。
抒情的な作風の岩井監督とロットはそもそも相性が良い気がしていたが、繰り返し映し出されたイメージは、氷のモザイクや雪原、山などの雄壮な自然と、氷河の亀裂に咲く清廉な花々。過酷な環境の中でも美しく咲き誇る姿が、ROTH BART BARONの存在と重なる。冷たい氷の世界に宿るほのかな温もりや、儚さと生命力のコントラストを描き出したその映像美は、バンドの世界観を鮮烈に彩っていた。

「Buffalo」「氷河期#1~3」「蠅の王」などデビュー・アルバムに収録されていた曲はいずれも新しいアレンジで生まれ変わっており、フォーキーだったサウンドは現在のバンドによって厚みとふくよかさが増した。デビュー・アルバム特有の透明感は薄らいだかもしれないが、その分重層的で迫力がある。中には戦争を描いた「春と灰」のように、10年前よりも、むしろ今の世の中を映し出して、心に刺さる曲もある。
その他、セットリストにはいつも通りの大合唱となった「鳳と凰」や、「屋上と花束」「HOWL」「Closer」など『ロットバルトバロンの氷河期』以外のアルバムからの曲や、昨年リリースした新曲の「火魅蟲(ひみむし)」なども。

ある時にはじんわりと染み込んでいくような、またある時には凛と空気を震わすような三船の歌声。ひとつひとつの言葉を愛おしむように丁寧に唄っていたが、とりわけエモーショナルな「赤と青」から、強いメッセージのこもった「極彩 | IGL(S)」へと続くボーカルの圧倒的な表現力にはしびれまくった。
伸びやかな音色でサウンドのディメンションを拡張する竹内、華のあるフレーズを奏で、時に踊りながらフロアを盛り上げる大田垣。多様なバリエーションで彩り豊かなビートを叩き出す工藤、有機的なグルーヴで全体を下支えするザック、バンド・サウンドの背骨となるような厚みのある音塊をずっしり繰り出す西池──それぞれがライブ巧者のバンドだけに、誰を見ていても愉しい。6人の織りなす音のレイヤーを感じていると、10年でROTH BART BARONというバンドの「人格」のようなものが確かになってきたな、と感じる。

ROTH BART BARONの楽曲にはただ明るい曲や、ただ暗い曲はない。すべての曲が多元的で、そこが信頼のおけるところだ。例えば今回のセットリストで言えば「Eternal」のように永遠を歌う曲でさえ、あるいは「Innocence」や「TAICO SONG」のように祝祭的でピースフルな雰囲気をまとう曲でさえ、必ずその背後には刹那の虚無や人生の陰影がある。光と影は矛盾なく共存し、表と裏は簡単に入れ替わる。それがリアリティだ。今回久しぶりにデビュー・アルバムの曲をライブで聴いて、三船が書くテーマや物の見方は最初から一貫していたんだな、ということに気がついた。
「こんな音楽のバンドが10年やってこれたって凄いことですね」
「氷河期#2」を歌い終わった三船がしみじみつぶやいた言葉に、会場から大きな拍手と歓声が起こった。確かに、こんなに何にもおもねらないバンドが、自分たちを貫いたまま10年活動しているのだ。しかもただ続いているだけじゃなく、その規模は年々大きくなっていっている。我々ファンは「共犯者」でもある。

本編のラストは昨年リリースした新曲「花吹雪」。温かな浮遊感のある音像が、春の気配が冷たく乾いた空気を溶かしていく今の季節に、これ以上ないぐらい合っていた。
アンコールでは「Ophelia」「小さな巨人」「氷河期#3」の3曲を披露。昨年の『BEAR NIGHT』(ROTH BART BART主催の夏の単独公演フェスティバル)に出演していたRyu MatsuyamaのRyuも加わり、会場の親密な空気がさらに濃くなる。特に「小さな巨人」ではオーディエンスも巻き込んだコーラスが高らかに響いた。凄い一体感だ。

MCでは恒例の『BEAR NIGHT 6』が今年は7月19日(土) に開催されることが発表された。三船が「いつも一緒に遊んでくれてありがとうございます」「みんなもバンドの一員だなって思ってます」とファンに恭しく感謝の言葉を述べていたが、その感覚はファンも共有しているところ。ロットのライブやプロジェクトにはファンの要望が反映されるインタラクティブな部分が結構あって、距離が近いのだ。その分、10周年に際して「共に歩んできた」と特別な感慨を抱いているファンは多いと思う。だからこの日、これまでいつも一緒に歌ってきた「鳳と凰」や「小さな巨人」で共に声を合わせることが出来たのは格別だった。

アンコールが終わっても観客の熱は冷めやらず、鳴り止まない拍手に応えてメンバーが再登場、最後に演奏されたのは「アルミニウム」。ギターをごく小さく奏でながらアカペラに近い形でエモーショナルなボーカルを聴かせる三船。そこにバンドが徐々に音を重ねていき、大田垣、西池らもコーラスに加わって見事なハーモニーを響かせる。「アルミニウム」は、以前はよくフロアに降りて観客の中で歌っていたので、これもファンにとっては一際思い入れのある曲。今日はステージの上で歌っていたけれど、音が醸し出す親密さは少しも変わっていない。静と動のコントラスト、極限まで研ぎ澄まされたサウンドの美しさも含め、彼らの10年間の軌跡を象徴するようなラストだった。

『ロットバルトバロンの氷河期』の全曲+初期のEPからも含め、歴代の作品からほぼ満遍ない選曲で10年の歩みを辿ったセットリスト。結果的には過去を振り返ることでロットの「今」がよりくっきりと浮かび上がる、素晴らしい周年ライブだったと思う。だが集大成的な意味合いは強かったものの、この日やらなかった名曲もまだまだ沢山ある。彼らが10年で積み上げてきたものは、次のフェイズでさらに輝きを増すため蓄えた力でもある。ROTH BART BARONがこれからどんな音楽を鳴らしていくのか──この日、O-EASTを満たしたものを思えば、その先には期待しかない。

<公演情報>
ROTH BART BARON『Ice Age:Melt and Blooms』
2025年3月22日 東京・渋谷 Spotify O-EAST
【セットリスト】
01. Neonlight(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
02. Buffalo(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
03. 鳳と凰(7th AL『HOWL』)
04. 屋上と花束(4th AL『けものたちの名前』)
05. 氷河期#1(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
06. HOWL(7th AL『HOWL』)
07. 赤と青(7th AL『HOWL』)
08. 極彩|IGL(S) (4th AL『極彩色の祝祭』)
09. 春と灰(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
10. Eternal(6th AL『無限のHAKU』)
11. 火魅蟲('24 シングル)
12. 蠅の王(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
13. Innocence (3rd AL『HEX』)
14. 帰還(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
15. TAICO SONG(4th AL『けものたちの名前』)
16. Closer(8th AL『8』)
17. 氷河期#2 ~Monster~(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
18. 花吹雪('24 シングル)
en1. Ophelia(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
en2. 小さな巨人(EP『化け物山と合唱団』)
en3. 氷河期#3 ~24eyes~(1st AL『ロットバルトバロンの氷河期』)
w.en. アルミニウム(EP『化け物山と合唱団』)
【出演】
ROTH BART BARON
三船雅也(vo, g)
西池達也(key)
竹内悠馬(trp)
大田垣正信(trb)
Zak Croxall(b)
工藤明(ds)
映像演出:岩井俊二
友情出演:Ryu (Ryu Matsuyama)
<イベント情報>
ROTH BART BARON『BEAR NIGHT 6』

2025年7月19日(土) 東京・Spotify O-EAST
開場 17:00 / 開演 18:00 / 終演 20:20
【出演】
ROTH BART BARON
三船雅也(vo, g)
西池達也(key)
西田修大(g)
竹内悠馬(trp)
大田垣正信(trb)
Ryu(key)
Zak Croxall(b)
工藤明(ds)
and more…
【チケット情報】
1階 一般・スタンディング(整理番号券):8,800円
1階 親子・スタンディング(整理番号券):9,900円
1階 学生・スタンディング(整理番号券):1,100円
2階 一般(椅子指定席):11,000円
■オフィシャル先行(抽選)
受付期間:3月31日(月) 23:59まで
https://w.pia.jp/t/rothbartbaron
■オフィシャル2次先行(抽選)
受付期間:4月5日(土) 10:00〜4月13日(日) 23:59
■プレリザーブ先行
受付期間:4月19日(土) 10:00〜4月27日(日) 23:59
■一般発売:2025年5月10日(土) 10:00〜
ROTH BART BARON 公式サイト:
https://www.rothbartbaron.com
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