Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > ただ良い国作りを目指しただけの男たちはなぜ道を踏み外したのか? 『12人のヒトラーの側近』 國島直希×石川湖太朗インタビュー

ただ良い国作りを目指しただけの男たちはなぜ道を踏み外したのか? 『12人のヒトラーの側近』 國島直希×石川湖太朗インタビュー

ステージ

インタビュー

チケットぴあ

左から石川湖太朗、國島直希 (撮影/源 賀津己)

続きを読む

フォトギャラリー(5件)

すべて見る

ナチス・ドイツの勃興から隆盛、破滅にいたるまでをヒトラーの側近たちの視点で描き出す群像劇、『12人のヒトラーの側近』がサルメカンパニー&クリオネプロデュースによって上演される。ナチスの創設に関わり、副総裁にまで上り詰めたルドルフ・ヘスを演じるのは、ミュージカル「刀剣乱舞」シリーズなどの活躍でも知られる國島直希。あえてヒトラー本人を登場させず、彼に心酔する側近たちの姿からナチスの所業を浮かび上がらせていくという本作は、現代の観客にどのように響くのか? サルメカンパニー主宰で作・演出を務める石川湖太朗と國島が本作への思いを語ってくれた。

過去にも石川は、サルメカンパニーの旗揚げ公演でハイナ・ミュラー作『戦い』を上演し、2023年に作・演出を務めた『スウィングしなけりゃ意味がない』ではチェコのレジスタンスを描くなど、ナチスの時代を題材にした作品を発表してきた。そして今回、『スウィング……』を観たプロデューサーからの依頼を受け、初めてナチスそのものを描くことに。

石川 僕は常に「歴史は繰り返す」と考えていて、いまの社会を見ても「もう戦争なんて起きない」とは言い切れないという思いも強い。そして、ドイツ人と日本人は、考え方が似ている部分がとても多いとも感じています。だからこそ(80年以上前のことが)決して他人事ではないと、この作品を通して感じていただけると思っています。

國島直希

一方、國島は、石川が書き上げた戯曲を読んで、文字通り“衝撃”を受けたと明かす。

國島 僕よりも年下の方が、この難しい題材を2時間半にまとめられたことが「すごい……」、というのが最初の印象でした。僕自身、ストレートプレイの舞台に立つことに強い思いがありましたが、こんなにも深い読み込みが求められる役に挑ませていただけるのは、本当に役者冥利に尽きると思っています。

石川湖太朗

國島が演じるヘスは、ヒトラーの演説を耳にして彼に心酔し、ナチスの結党に参加。幹部としてヒトラーを支えていく。國島は「当然ですが、ナチスやヘスのやったことを肯定したり、助長したりするつもりはない」と断った上で、石川が書き上げた戯曲の中のヘスという男から感じたのは、ある種の“人間臭さ”だったという。

國島 正直、戯曲を読む前は、ナチスに関わった人間は悪魔的な思想を持った普通じゃない人たちという印象を持っていましたが、ここに描かれているヘスは、貧困をなくすために本気で国を変えて、“優しい世界“をつくっていこうとする、人の心を持った男なんです。少なくとも自分の利益のために人を殺そうとするような男ではなく、彼なりの正義を持っていて、そんなヘスに思わず共感してしまうお客さまもいらっしゃるような気がします。

國島の言葉に石川は深くうなずき、ヘスをはじめとする本作の登場人物たちの描き方についてこう説明する。

石川 僕自身、この作品でナチスを特別なヤバい集団のように描こうとは思っていません。不遇をかこっていたゴロツキたちが、タイミングとか運、その時の状況によってのし上がり、人々にもてはやされるようになったことの怖さを描きたいんです。彼らは特に情報というものに対してすごく敏感で、情報を駆使して国家を扇動して、社会の空気を作り上げていく。そこを描けたらと思っています。実際、書いている中で、それぞれの正義や、行動や思想の理由というものが見えてきて、それは驚きでした。もっと変な奴らが出てくると思っていたんですが……。おそらく、ご覧になる方も12人の誰か一人には感情移入してしまうんじゃないかと思います。思わず応援したくなって、でも「なんで……?」と自問していただけるような作品になっていたら嬉しいです。

左から國島直希、石川湖太朗

それぞれに正義や目的を持って、ヒトラーに仕えていくことになる12名の側近たちだが、その中でも石川が物語の中心に据えたのがヘスであり、石川は役に向き合う國島の真っ直ぐな姿勢を称賛する。

石川 この戯曲の中で、僕はヘスをとても真っ直ぐな男として描いているんです。真っ直ぐで不器用で、走り出したら止まらない――それは、ナチスそのものがそうだったのではという思いからでもあるんですが、國島さんもすごく真っ直ぐな人。読み合わせの段階で熱が入って、気がつけは椅子に立ち上がっていたり(笑)、純粋な感性と溢れる熱意をもつ國島さんにヘスを演じてもらえるのがすごく嬉しいし、演出していて楽しいです。

國島もまた、石川に全幅の信頼を寄せ、無心にヘスというひとりの人間と向き合う。

國島 とにかく怒涛の日々ではあるんですけど……(一同笑)、難しいセリフもたくさんありますが、そこにしっかりとした意図を感じることができる。石川さんが大事にされているのは、表現することではなく、ちゃんと会話をして、その人物がその世界に生きているということ。生きているからこそ、人間はこう考えて、こう動く――そこを重視した言葉が多いし、演じる側としてそこにしっかりハマった瞬間はすごく楽しいですし、より深く読み込んで、ヘスが何に突き動かされていたのか? という部分まで追求できればと思っています。
お客さまには、全力で何かを変えようとする人間、変えられない何かにそれでも抗おうとする人間の姿を見ていただきたいですし、悪人ではなかったはずの人間から、どうしてあんな悪が生まれてしまったのかなどの問いに、お客さま自身が答えを探していただけるような作品としてお届けできれば幸いです。

左から石川湖太朗、國島直希

取材・文/黒豆直樹
撮影/源 賀津己

<公演情報>
サルメカンパニー&クリオネプロデュース
『12人のヒトラーの側近』

日程:2025年4月12日(土)〜15日(火)
会場:吉祥寺シアター

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/sal-cli/

フォトギャラリー(5件)

すべて見る