橋本絵莉子をゲストに迎えた佐々木亮介『雷よ静かに轟け』第九夜 「ワンオブゼム」をセッション
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左から)橋本絵莉子、佐々木亮介、曽根巧
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すべて見るText:森朋之 Photo:シンマチダ
a flood of circle佐々木亮介が主催する弾き語りツーマンシリーズ『雷よ静かに轟け』の第九夜が、3月28日に開催された。会場は、映画『浅草キッド』の舞台になった浅草フランス座演芸場東洋館。これまでに中田裕二、NakamuraEmi、奇妙礼太郎、古市コータロー、小山田壮平、詩人・御徒町凧、中村一義(Acoustic set with 三井律郎)、そしてTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)との共演が実現し、全公演ソールドアウトとなっている。
第九夜のゲストは、橋本絵莉子(ギタリストの曽根巧とのデュオで登場)。橋本と佐々木の表情豊かな歌をじっくりと味わえる、美しくて切ない春の夜となった。
この日の東京の最高気温は25℃超えの夏日。曇りがちの空、湿気も強めでなんだか梅雨時の天気のよう。開花したばかりの桜はとてもきれいだし、浅草の街はあいかわらず観光客でにぎわっているのだが、「この天気はなんなんだ」と不思議な気持ちになる。時代も季節もわからなくなるこの感じ、「異人たちとの夏」(大林宣彦監督)みたいだな……と会場へと急ぐ。佐々木亮介の弾き語りツーマンシリーズ「雷よ静かに轟け」も今回で9回目。常連のお客さんは、数か月に1度、季節ごとの浅草を通ることも楽しみにしてるのだろう。もちろん、数々の芸人たちが舞台に上がった浅草東洋館に来られることも。
この日のゲストは、橋本絵莉子。女性のゲストは、NakamuraEmiに続いて2人目だ。

“めくり”(出演者の名前を書いた紙)には“えっちゃんとそねさん”と書かれていて、開演時間の19時半になると、橋本と彼女のバンドのサポートメンバーでもある曽根巧(g)が舞台に姿を見せた。曽根は2010年から2014年にかけて、a flood of circleのサポートをつとめていたギタリスト。つまりこの日の公演の“つなぎ役”でもあった。

橋本と曽根は椅子に座って演奏。「ワン、ツー、さん、し」という橋本のカウントから始まった1曲目は「特別な関係」。澄んだ声で〈きみは変わってないね/私も変わってないか〉というフレーズが聴こえてきた瞬間、スッとその世界に誘い込まれる。「佐々木亮介さんに呼んでいただいて、ここで演奏できることをうれしく思います」という簡素な挨拶の後は、昨年の春にリリースされた「宝物を探して」「人一人」を披露。日常の何気ない風景を描いた歌が聴き手に届き、それぞれの心のなかで思い出や感情と重なり、一人ひとりの歌になっていく。アルバムのレコーディングやライブにも参加している曽根のギタープレイも素晴らしい。

ここで橋本が佐々木との関りについて話した。きっかけは、忘れらんねえよ主催の『ツレ伝フェス2023』。このフェスで初めてa flood of circleのライブを見た橋本は、そのカッコよさに衝撃を受けた……というエピソードを披露すると、曽根は「元カレを褒められてる気分(笑)」となぜか元恋人目線で返す。

この後は、未発表の新曲を2曲披露。さらに〈誰かの間違いを語っても/このアレルギーは治らない〉というフレーズが心に残る「偏愛は純愛」、ゆったりしたアコギの響きのなかで、「私はパイロット」などが演奏された。最後は「脱走」。橋本はウクレレを弾き、心地よい疾走感とともに〈君の手をひいて/僕ら脱出した〉と歌うと、客席から自然に手拍子が起きる。理由や言い訳は必要なくて、ただやりたいことをやればいい。彼女の声と言葉を通して、そんな気持ちがムクムクと沸き上がる。凛とした強さと聴き手の気持ちをほぐす温かさを同時に感じさせる橋本の歌声は、やはり唯一無二。生声、生音を感じられる距離感で彼女の歌を堪能できる、本当に貴重な時間を過ごすことができた。

佐々木亮介はいつものように、お茶割りを持って登場。アコギを持ち、椅子に座り、〈すべてが無駄に思えてさ/冬の終わりもサナギのまま〉と静かに歌い始める。最初の楽曲は「冬の終わり、マウンテンデュー、一瞬について」。冬の終わり、春のはじまりの風景の、そのなかで感じることをリリカルに綴ったこの曲は、初春の浅草にぴったりだ。

「佐々木亮介です。よろしくどうぞ!」という声とともにアコギを瑞々しくかき鳴らし、「Center Of The Earth」へ。〈3月の風を全身で受けて/桜の花みたいに舞い上がれ〉という歌い出しではじまるこの曲を選んだのも、もちろん季節柄だろう。アコギ1本と歌だけのロックンロールは、いまや佐々木の専売特許……というとちょっと大げさかもしれないが、ビート感やグルーヴをたたえた演奏は“ひとりでもバンド”みたいな状態。観客は静かに聴き入っているが、おそらく心のなかでは踊りまくってるんじゃないかと思う。
そのままブルースのコード進行を鳴らし、「元カレ、顔濃すぎだぜ」と曽根をイジり、会場から笑いが起きる。「ってことは、(自分は)元カノってことですか。いや、元カレ同士ってこともあるか」とつなぎ、「忘れられんねえよの柴田さん、呼んでなくてごめん。彼のおかげで橋本さんの目に触れた」と続ける。そのまま「歌うたいのブルース」(佐々木亮介&御徒町凧)に入り、“中央線に乗ってるときに歌を思いついた”というーー佐々木にとってはおそらく日常の風景だろうーー歌を紡ぎ出す。

椅子から立ち上がり、「理由なき反抗(The Rebel Age)」へ。シャウトしまくっても繊細に歌っても似合う曲だが、この日はその両方を混ぜながらパフォーマンス。平歌は静かに歌詞を紡ぎ、サビでは開放的にボーカルを響かせ、楽曲の奥深い魅力がしっかりと伝わってきた。ゲスト・アーティストのライブによって、佐々木のステージが変化するのもこのイベントの魅力。この日は橋本絵莉子の弾き語りにーーおそらくは無意識のうちにーー影響を受け、“歌をシンプルに伝える”モードだった気がする。
さらに「今からちょっと勇気が要ることをやります。おまえがやるんかい!という曲」という言葉から、チャットモンチーの「橙」をカバー。〈甘え抜き傷つけぬいた私は/今度は何を求めるかな〉というフレーズに生々しく、濃密な感情を刻み込む場面は、この日の公演の大きなハイライトだった。
“そんなの弾き語りのテンポじゃないでしょ”という性急なスピード感とともに放たれた「ファスター」、〈御守り 空っぽ だからいいんじゃん〉と目の前の人に語り掛けるようにはじまった「ベイビーブルーの星を探して」を披露した後、佐々木はポツポツとはなしはじめた。

「来年、2026年、バンド(a flood of circle)が20年目なんですけど、武道館やりたいと思ってるんですね。で、焦ってるんですよ。バーン!といってるからやるんでもなく、尊敬されているかやるんでもなく、自分たちでいたいからやりたいんですよ。……今のかっこいいな(笑)。すごい手前でもないし、ずっと先のことでもなくて、来年のことを考えて生きようと思っていて。どう、それ?」
そんな言葉に連なったのは、「虫けらの詩」。〈誰もが光へ飛んでいっても/俺がここで歌ってる〉という歌を全身で響かせ、本編は終了した。

アンコールでは、佐々木、橋本、曽根が揃って登場。「髪切りや。清潔感ないで」と曽根が佐々木に笑顔で突っ込んだり、気の置けない関係性が伝わってくる。3人でセッションしたのは、「ワンオブゼム」(橋本絵莉子)。3つのギター、3つの声が共鳴し、〈耳にも手にも/見えないものが溢れる〉というフレーズがゆったりと広がっていった。

鳴り止まない拍手に導かれ、佐々木が再び舞台へ。「屋根の上のハレルヤ」を歌い、〈ハレルヤ 俺たちが歌うから 今夜 ひとりじゃない〉というフレーズが合唱される。佐々木と観客の一期一会の歌が浅草東洋館を包み込み、イベントは終焉を迎えた。

“雷よ静かに轟け”の第十夜は7月4日(金)に決定。現在開催中の『a flood of circle TOUR 2024-2025 WILD BUNNY BLUES/野うさぎのブルース』も含め、凄みと深みと激しさと慈しみを増している佐々木亮介の歌を体感してほしい。
<公演情報>
佐々木亮介弾き語り興行“雷よ静かに轟け”第九夜
3月28日 東京・浅草フランス座演芸場東洋館
出演:佐々木亮介、橋本絵莉子
<ライブ情報>
『佐々木亮介弾き語り興行“雷よ静かに轟け” 第十夜』
2025年7月4日(金) 東京・浅草フランス座演芸場東洋館
開場19:00 / 開演19:30
※ゲストあり
【チケット情報】
全席指定:4,800円(税込)
後方立ち位置指定(立見):4,800円(税込)
a flood of circle オフィシャルファンクラブ「Black Magic Fun Club」先行: 2025年4月6日(日) 23:59まで
a flood of circle公式サイト:http://www.afloodofcircle.com
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