堤幸彦監督&紀伊宗之氏が明かす
“超異例のプロジェクト”の全貌
DCT中村正人が映画プロデュース。そこにある“想いと願い”
4月11日(金)から公開になる映画『Page30』は、全国の映画館だけでなく、東京・渋谷に新設される仮設シアターがメイン館になる異例のプロジェクトだ。本作のために建てられる仮設シアターの名前は「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」で、中村正人(DREAMS COME TRUE)が映画のエグゼクティブプロデューサーと音楽も務めている。
35周年を記念した大規模なライヴツアー、ニューシングルの発売、大衣装展の開催などDREAMS COME TRUEは止まることなく“攻めた”活動を続けているが、なぜ映画製作、さらには仮設シアターの建設に乗り出したのだろうか?
ーー事前に映画『Page30』を手がけた堤幸彦監督にインタビューしたのですが、監督は「長い準備期間があったわけではなく、中村正人さんと話し合う中で、本作の企画を降ってわいたように思いつき、すぐに脚本を書いて、数カ月後にはもう撮影をしていた」とおっしゃっていました。
中村 そうなんですよ。監督と2回ぐらいだったかお話しをする中で、そういうことになりましたね。
ーーどういうやりとりがあって映画制作が実現したのでしょうか?
中村 最初はいろんな相談事があって、堤監督にお会いしたんです。そこで堤さんから「ロケハンに行きました」とか「こんなアイデアがありまして」なんて話を伺っているうちに、では映画をつくりましょう! と。
ーーかなりの急展開ですね。
中村 ずっと信頼を寄せている堤監督のお話だったというのがまず大きいです。その上、僕たちも「お世話になったみなさんに恩返しをするタイミングになったな」と思っていましたし、僕も吉田(美和)も映画というのはエンターテイメントの究極だと思っていますから、2004年に映画『amorétto(アマレット)』を自主制作しましたけれど「また映画を」とチャンスを伺っていた部分もありました。そんな時に堤監督のお話を伺っていたら、スクリプトが本当に面白くて、純粋に「この映画を観たい!」と思ったんです。
映画『Page30』に出演するのは、Netflixオリジナルシリーズ『極悪女王』などに出演する唐田えりか、ドラマ・舞台で活躍する林田麻里、俳優業だけでなくプロデューサーとしても活躍する広山詞葉、HIGH and MIGHTY COLORの元メンバーで現在はアーティスト活動の傍ら、今回本格的に女優業もスタートさせたMAAKIII。彼女たちが演じる4人の女優は経歴、経験もみなバラバラで、ある舞台公演のために集められ、30ページのみの戯曲を手に稽古を繰り返す。お互いの意地、迷い、悩み、プライドがぶつかり合う様と、舞台の模様が時にシンクロし、時に並走する予測不能なエンターテインメント作品だ。
ーーDREAMS COME TRUEは、音楽活動においても、そのほかのジャンルでも常にルーティンに陥ることなく、斬新なプロジェクトを次々に立ち上げている印象があります。
中村 以前とくらべると我々の音楽を通常のプロモーションで宣伝しても、あまり届かない世の中になってきたんです。でも、我々は35年の間に出してきた曲があり、新曲ももちろんですけれど、ほかにも聴いてもらいたい、知ってもらいたい曲がある。僕たちが伝えなきゃいけない音楽はまだまだあるんです。ですから、どうすれば我々の曲を知ってもらえるだろうか、我々の音楽にたどり着いてもらえるだろうかと考えて、いろんなことをやっているんです。衣装展もそのひとつですし、北海道・池田町でイベントを開催したり。エンターテイメントの伝え方のひとつとして、我々が映画をつくることで、今まで我々の音楽にまったく興味がなかった方が、我々の音楽を耳にしてくれるかもしれない。そうなったらいいなと思っています。
それに僕としては、堤監督には“わがまま”な映画をつくってもらいたかったんです。最初は製作委員会のような方式も考えたのですが、それよりは我々が資金を集めてくることで、堤監督がエンターテイメントの中の隠し持っている“牙”のような、シニカルで刺激的な部分を出してもらえる環境を整えたいと思いました。会社の共同オーナーでもある吉田にも相談したら、すぐに「いいんじゃない」と言ってもらえたので、こうして振り返ると“運命”に導かれた作品だと思っています。
ーーさらに劇中の音楽を上原ひろみさんと手がけられています。
中村 最初に堤監督に「音楽はどうしますか?」と聞いた時に「ジャズでいきたい。それもピアノだけでいきたい」と言われたので、最初は(上原)ひろみちゃんに誰か紹介してもらおうと思ったんです。ひろみちゃんとは長いお付き合いですし、吉田がひろみちゃんの大親友で「マサくんのために私がやるわ」って言ってくれた時は、これは責任重大だと思いましたね。
堤監督の中にあったのは“セッション”というキーワードだと思うんです。映画の中でもセッションがあり、映画と音楽もセッションの関係にある。ひろみちゃんの音楽は本当に素晴らしくて、完全に台本も読み込んでくれて、映像のタイミングも見てフレーム単位で音を出してくれているので、セリフにぶつかることなく音楽がちゃんと耳に入ってくる。その上、音響的にも本当にレコードをつくるような音響で録音したので、日本映画でもなかなかない“音の良い映画”になったと思います。
ーー本作は俳優がセッションし、激突する様を描いています。時には積み上げてきたキャリアが否定されたり、経験のない新人が周囲を凌駕する瞬間が描かれたり……音楽の世界にも通ずるドラマが描かれていると思うのですが、完成した作品をご覧になって感じたことはありますか?
中村 いろんな意味で……身に沁みる映画ですよね(笑)。でもこの映画は、演技や音楽だけでなく一般社会にも通ずる話だと思うんです。たとえばですけれど、学校でクラスメイトを見ると、たぶんこの4人のタイプのどれかに当てはまると思うんです。委員長みたいな子もいれば、ある学年から突然変化する子がいたり。この映画を観た後に自分はどのタイプだろうと考えたり、自分の周囲の人はどのタイプか考えてみたり、そういう意味でも人生を考える上で“使い勝手の良い”映画だと思います。
その上、本作には本当に上手い女優さんが集まってくださったので、彼女たちの生き様や演技を観ることで、観客が出来なかったことをできるようになったり、目覚めさせてもらえたりもする。いろんな方の人生をインスパイアする映画になったと思います。
ーーそして本作のために「渋谷 ドリカム シアター supported by Page30」が建設されます。
中村 この映画はぜひとも“体験”してもらいたい作品なんです。ですから「お金には換えられない体験を」という想いがあります。もちろん、そうすることでちょっと予算はかかってしまうんですけれど(笑)
ーー実際に足を運ぶことで、ずっと記憶に残る、何年か先に“語り草”になる施設になりそうです。
中村 かつてニューヨークで古いアパートを改装した劇場で芝居が行われているのを吉田と観たり、シルク・ドゥ・ソレイユの本当に初期の公演や、野田秀樹さんがまだ東大で食堂を改装した劇場(駒場小劇場)で公演しているのも観てきましたから、そういう“あの時に落ちた小さな針が、こうして広がっていったんだ”というものができればいいなと思っています。
ーーそうなると、この試みの本当の成果がでるのはずっと先、10年後、20年後ですね。
中村 渋谷という街には本当に育ててもらった、と思っているんです。僕は青学(青山学院大学)だったんですけれど、お金がなかったので表参道派じゃなくて渋谷派で(笑)、吉田が北海道から東京に出てきて最初に住み始めたのも渋谷だった。昔から渋谷はカルチャーの発信地、いま渋谷の大規模なアップデートが進んでいますが、カルチャー面でもなにか刺激があるといいな、と思っています。その点でもこの場所にシアターを建てることも"運命”に導かれた気がします。
ーーまさに『Page30』は”体験する”作品になりそうです。
中村 この映画を観ているといつの間にか、4人の女優のひとりになっていると思うんですよ。観ていると登場人物に寄り添ったり、反感を感じたり、でも観ていくうちに“この人の気持ちはわかる”って思ったり。そういう点でもこの映画は“体験型”だと思いますし、そんな映画を渋谷の雑踏の中に建てられたテントで観る体験をしてもらう。そうすることで、テントという閉じた空間で登場人物4人と同じ気持ちになって観てもらえると思っています。
『Page30』
4月11日(金)渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開
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『Page30』
4月11日(金)渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開
出演:唐田えりか 林田麻里 広山詞葉 MAAKIII
脚本:井上テテ 堤幸彦
監督:堤幸彦
音楽:中村正人 上原ひろみ
エグゼクティブプロデューサー:中村正人
劇中劇脚本:山田佳奈