『ウェイトレス』再演いよいよ幕開け! 友人同士で共演実現の森崎ウィン&LiLiCoに稽古場インタビュー
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インタビュー

左から)森崎ウィン、LiLiCo (撮影:藤田亜弓)
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すべて見るアメリカ映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』(07)を基にしたブロードウェイミュージカル『ウェイトレス』。同作の熱烈なファンだった高畑充希を主演に迎え、コロナ禍の2021年に実現した日本初演から4年を経た2025年4月9日、待望の再演が幕を開ける。高畑演じる主人公ジェナはモラハラ夫の束縛に悩みつつダイナーで働きパイを焼いているが、ある日そのダメ夫の子を妊娠していることが発覚。訪れた産婦人科でポマター医師の診察を受けながら身の上話を語っているうちにふたりは惹かれあい、互いに既婚者と知りながら一線を越えてしまう。妊娠・出産・離婚・自立・養育など女性の人生の岐路となるさまざまなテーマを扱いながら、軽快な歌と踊り、キュートな世界観で最高の鑑賞後感を味あわせてくれる快作で、初演時には連日満席となる大成功を収めている。
ミュージカル『ウェイトレス』プロモーション映像|2025年4月9日より日生劇場にて上演!
今回の再演で、いわゆるヒロインの相手役となるポマター医師を新キャストとして演じるのが森崎ウィン。そして、ジェナの姉御肌のウェイトレス仲間ベッキーを初演から引き続き演じるのがLiLiCoだ。実は以前からプライベートでも交流があり、さらに「ぴあアプリ&Web」で長年連載をもつという共通点もあるふたりは、今回が演技としては初共演。そこで、初日まであと1カ月という3月上旬、稽古真っ只中のふたりを直撃。稽古の状況やそこにかけている想い、またふたりの関係性などについてもたっぷり語ってもらった。
キャラクター同士の絆が初演より鮮明になっていると思う

――おふたりとも面識があって、仲も良いとうかがっておりますが、作品で共演するのは初めてですね。
LiLiCo そうなんですよ。お互いよく知っている仲なんだけど、今まで役者としてご一緒することはなかった。
森崎 ほんと、そうですよね。
LiLiCo 最初は『レディ・プレイヤー1』ですよね。あの作品が公開されたとき、私がコマーシャルやってたんですよ。「LiLiCoです! これ観ないとダメだよ!」みたいなキャッチコピーのCM。
森崎 そうそう! やってましたね。
LiLiCo もちろん映画は面白かったですし、本心でCMやらせていただいたんですよね。その前にインタビューで会ったのがたぶん初めて。
森崎 あのときのこと、僕めちゃくちゃ鮮明に覚えてますよ。『王様のブランチ』で見ていた人だったから、「あ、LiLiCoさんだ!」ってなるじゃないですか。ちょっと緊張もしていたんですが、そのときの取材からしてめっちゃ優しくて。
LiLiCo あのとき、タイ・シェリダンほか共演のみんなもいたから、英語でインタビューだったのよね。
森崎 そう。英語インタビューもちょっと緊張していたんですが、LiLiCoさんは逐一「こういうこと聞くからね、大丈夫だから」みたいな感じで和ませてくれたんですよ。おかげでうまくしゃべれたんだと思います。
LiLiCo ホテルの一室での取材で、こっちは慣れた環境だけど、ウィンくんは明らかに緊張していたものね。それで、その後連絡先を交換して、ちょいちょい連絡を取り合う仲になったんですよ。それで、コロナ禍のとき、SNSを使ってステイホームのキャンペーンでライブ配信を芸能人みんなやっていたときに、ウィンくんも何人かのアーティストと一緒にメドレーを歌う企画があって。まさかのダニエル・パウターもいるところに、誘ってくれたんですよ。
森崎 あれは平原綾香さんが声かけをしてくださった企画だったんですが、そこにお誘いしたら快諾いただいて。こういう感じでっていうイメージをお伝えしたら歌ってくださって。
LiLiCo 主人(小田井涼平さん)も一緒だったんだけど、合わなくてね(笑)。もう大変だったのよ。でも、せっかくだから一緒にやるわよっていう感じでね。
森崎 そうそう! それ聞いて「あ、まじっすか」って驚いたんですが、ご夫妻で参加していただきましたね。その節はありがとうございます。
LiLiCo あれが2020年じゃない。しかも、2020年の『ウエスト・サイド・ストーリー』が初めてのミュージカルだったって昨日聞いて本当にびっくりしたの。その次の『ジェイミー』も観に行ったんだけど、歌であれだけすごいのに、あのときが初ミュージカルだったなんて、2020年はある意味ターニングポイントで、この5年間が濃かったんですね。
森崎 ほんとそうですよね。その後はJ-WAVEの番組にもよく呼んでくださって。
LiLiCo だって、天才だと思ってるから。よく『ALL GOOD FRIDAY』(※LiLiCoさんが出演するラジオ番組)でもお世話になってますね。今回の演出家も、ウィンくんのポマターを褒めてくれてるんだけど、一緒にやってみてやっぱりウィンくんの才能は素晴らしいなと思ってます。だって、公演までまだ1カ月あるんだよ(笑)。
森崎 いやいやいや……まだまだできてないところがたくさんありますし、稽古の毎日で細かいことが全然できてない、って追いつくのに必死になってますよ。
LiLiCo そう? 昨日の稽古なんて、ポマターとジェナのデュエットのシーンを観ていたら涙が止まらなくなっちゃって。初演とは歌詞が変わったりしているから、私にとっても毎日がすごく新鮮なんだけど、その歌詞の内容とウィンくんが演じるポマターのふんわりしたやさしさがすごくマッチしていると思ってるんですよね。
森崎 え、演出だけじゃなくて前回と歌詞が違うんですか?
LiLiCo そうなの。セリフの言葉回しが真逆なところがあったりするのよ。もちろん伝えたいことは同じなんだけど、逆説的に語る方がより心に響くように作ってる。だから、前回から続投している私を含めたキャストも頭を入れ替えないといけないし、前回観たお客さんも絶対に新鮮に観てくれると思う。
森崎 え、知らなかった。だったら前回観た人でもかなり新しい体験になりますね。
LiLiCo そう。キャラクター同士が持つ絆の部分が、前回より鮮明に分かるようになったと思う。私自身も演じているベッキーのことで、今回初めて「そういうことだったの!?」って知ったことがたくさんあるし、納得もしてるんだよね。
共演することは口にできなかったから、お互いに……
――まさかひとつの質問でここまで盛り上がると思いませんでした(笑)。森崎さんは今回初めてこの作品に出演されますが、高畑充希さんやLiLiCoさんをはじめ、前回から続投のキャストも大勢いますよね。そこでプレッシャーに感じることはありますか?
森崎 初演からの参加されている方が多いと考えると、プレッシャーがあるといえばあるんですが、前回から4年も経ってますし、前回出演された方も一からではないけど、初回参加の僕が置いていかれる、っていうような場面はあまりないんです。それが舞台の良さでもあるのかなと思うんですよね。
映画やドラマの映像作品だと、ワンカット撮れたらもう終わりで、作品は未来永劫残っていき、毎回それを経験することで演者はアップデートされていくと思ってるんです。でも舞台は違う。もちろん前回のキャストの皆さんはストーリーの深いところを知っていて、持っている情報量が多いのは確かではあるんですが、みんな平等な立場にあるんですよね。だから、慣れた人たちの中に放り込まれた、みたいなプレッシャーはなくて、それよりも自分の役と向き合ってみて、イメージと違ってたりとか難しいなと思うことが多いんです。
僕は性格的に完璧主義なところがあって、少しでも失敗しちゃうと自分の中でドーンって落ちちゃうんですよ。でも、このカンパニーだと逆に、僕は力抜いて、慣れた皆さんが作り出すその日の流れに乗っかっていくっていうのが、1番良くなるんじゃないかなっていう立ち位置だって思うようにしています。

――お稽古だけでなく、どこの劇場に行っても違うことが起きますしね。
LiLiCo そうなんですよ。この演目はお客さんと一緒に作る部分も大きいんですよね。前回はコロナ禍の上演だったから、お客さんはマスク必須で声出し禁止だったんですが、今回はそうじゃないんで、前回とも違うし、毎回全く違うものができていくんだろうなって思ってます。その点、ウィンくんがおっしゃるとおり、舞台の良さだな、とも感じますね。
――そうか、前回、笑っちゃダメだったんですね。
LiLiCo そうそう。でもね、逆に笑い声が漏れ聞こえたときに「やった!」と思ったもんね。前回の地方公演で、私のソロナンバーの後に、誰かが「ウォー」って叫んだんだけど、ちょっとはまっちゃって(笑)。声を出しちゃいけないって厳しく言われているのに出ちゃうほどよかったのか、と自信を持てました。

――共演することが決まったときって、どう思われました?
LiLiCo やっと一緒にできる!っていうことしかなかったですね。再演とキャスティングが決まったのはだいぶ前なんだけど、そのときは言っちゃいけなかった。
森崎 『ショート・ショート・フィルム・フェスティバル』でお会いしたときには決まってたんだけど、口にはできないからお互いに「……ん、だよね!」「そうそう……です!」みたいな感じで(笑)。
LiLiCo あのときは困ったよねー(笑)。さっき「完璧主義なところがあって、うまくいかないと落ち込む」って言ってたじゃない。それ、私も全く一緒なの。
森崎 え、ほんとですか?
LiLiCo みんな稽古でできなくて当たり前だよって言うんだけど、たぶん私たち日本で仕事する外国人はそういうところがあるんだと思う。昔はできないと「やる気ないの? じゃあ帰れよ」って言われてきたし、「お稽古でできない人は本番もできないんだよ」って言われてきたのね。芝居も動作もやることも多くてめちゃくちゃ難しいと思うけど、ウィンくんがポマター役をやってくれてあまりにもハマっていることが嬉しくて……。ウィンくんが日本にいてくれてよかった、って思ってるんですよ。
どういう人生を生きてきたか、それが役を通してにじみ出る

――森崎さんから観て、LiLiCoさんが演じるベッキーはどうなると思います?
森崎 ベッキーを見てると、ちょっと……母親を思い出すことがあるんですね。
LiLiCo 母親か!(笑)
森崎 いや、ママっぽさじゃなくて(笑)。ベッキーのキャラの背景についてそんなに深く知らないけど、LiLiCoさんが演じているシーンだけ見ても、「この人、相当すごい人生を歩んできて、旦那さんの介護も大変で、それでも愛する人と歩んでいくんだ」って信念の強さを感じてるんです。そういった醸し出す雰囲気って、お芝居じゃ出せないんですよ。
僕の観点ですけど、お芝居って、例えば音や技術的なものは経験と培ってきたテクニックで表現できる人は死ぬほどいっぱいいるんですよね。すごい失礼に聞こえちゃうかもしれないんですが、LiLiCoさんの場合、立ってるだけでオーラが出てるように見えるってことは、これまでの人生の裏付けなんだと思うんですよ。
僕がおじいちゃんの役をできないのと一緒で、実年齢に合った役しかできないことって、たぶんそういうこと。芝居だからその役になりきることができるってみんな言うけど、僕の観点からすると俳優がどういう人生を生きてきたかってことが、役を通してにじみ出る。それを観客は観たいんだと思っているんです。
それがLiLiCoさんは漏れてるんです。演出のアビーもたぶん、全てを分かってると思うんです。そういう説得力は、これまでつらいことも楽しいことも受け入れて生き抜いてきたLiLiCoさんだからできることに感銘を受けてます。キャスティング勝ちだなって正直思ってますよ。
LiLiCo 嬉しい……やっと車中で5年間家なし生活したのが生きてきた(笑)。
森崎 俳優の仕事は人生を切り売りしてるのかもしれない、と思っていたところでLiLiCoさんの芝居を見て、こういうことなんだなって思ったんですよ。それとともに、もっと自分の人生も面白い人生でありたいなって思いました。歌唱力があるとかいい声の人ってたくさんいますけど、それだけじゃない。この作品は人の真髄を伝えたいミュージカル。いつか歳を重ねたときに、自分をすべて受け入れられる人生でありたいなと思います。
――こういうことを他の現場で感じたことは?
森崎 違ったことではあるものの、他の現場でももちろん影響を受けてます。でも、僕らが演じたすべてが、編集されて出来上がった作品にのっかってることはなく、ごく一部しか見られないんですよ。だから、舞台でほんとにすごい俳優は、いるだけですごいことになる。
でも同じ土俵に立ったら、年齢や経験など関係なくみんな平等だと思ってもいるので、僕はそのときの僕なりにやるしかない。今回の場合、LiLiCoさんとはプライベートで知った仲ということはあるかもしれないけど、そうじゃなくてもベッキーに対して共感が生まれていたと思います。
LiLiCo 嬉しいな。たぶん昨日の稽古でやったシーンだよね。「どっちの味方なの?」っていう。あれ、昨日初めてやったんだ。
森崎 そっか。あの瞬間だけLiLiCoさんで、超ズドーンってくるんですよ。
LiLiCo さすがにベッキーの夫フィルのように、小田井が四六時中おむつをしてることを想像しているわけではないんだけどね(笑)。それにしても、すごいシーンだと、演じている自分でも思いますよ。
あと演出は本当にすごい。前回はリモートで演出をつけてもらっていたけど、振り付けをはじめ今回の演出は直接だから刺激になる。しかも私たち、英語が分かるだけにものすごくストレートに演出の意図が伝わってくるんだよね。
森崎 そうか……前回はリモートか。そりゃ大変だったでしょう。
LiLiCo そう。しかも、大先輩のキャストばかりだしね。余裕も何もなかった。そもそも日本語のセリフを間違えちゃいけないっていうのもあるし。今回も私たちふたりは、セリフの日本語を間違えちゃいけないっていうのが、念頭にあると思わない?
森崎 うんうん。振り付けを覚えるよりも気を使ってます。
LiLiCo やっぱり。アクセントや文節の切り方とか、ちゃんと言ってると思ってるけど、指摘されるところは全然違うんだよね。
森崎 そうそう。めっちゃ言われることありますよね。子どもの頃から日本にいるけど、言葉尻とか毎回注意されてますよ。
LiLiCo 難しい言葉やイントネーションで悩むことありますよね。普段の会話は大丈夫だけど、舞台に立って伝える側になったときはやっぱり大変。
森崎 まさに。イントネーション違うよ、みたいなこと、めっちゃありますね。
LiLiCo もう、稽古場は怒られに来てるって感覚ね。
――本番でやらなければいい。稽古は何度でも!
LiLiCo そうそう。でも、ウケが取れちゃうと、そっちをやりたくなるんだよね。だから、おばたのお兄さんと私、大変なんだから(笑)。テレビ組と舞台組だと、欲の出しどころが違うのよね。
――ノリがいいお客さんで埋まっちゃったりとかしたら大変ですね。
LiLiCo 楽しみにしててください(笑)。
ジェナとポマター医師のシーンはやっぱり注目

――先ほどコロナ禍を経ての5年間、それに前回公演からの4年の話がありましたが、何かお芝居や見方が変わったことはありましたか?
LiLiCo この4年間、正直言ってさほど興味のない演目でも片っ端からミュージカルを観に行ったりしてたんですけど、ミュージカルの見方がなんか変わったかも。お客さんも始まる前からウォーって言ってたり。今までの日本って映画も芝居もリアクションしなかったじゃない。それが変わりつつあるのを感じてるんだよね。だから、今回は楽しみ。
森崎 僕はこの演目を初めて経験しますが、お客さんが入ったらどうなるのかっていうのは楽しみですね。大阪公演ではパイ付きのチケットもあるから、本物のパイの香りがあるんじゃないかな。
LiLiCo そうなのよ。前回だって、そこそこ歳を重ねた私の友だちから観劇後に「パイを食べたくなっちゃって困る、日生劇場からプラプラ15分くらい歩いてやっと見つけたよ」って言われたの。それ、若い女性じゃなくて白髪でヒゲを生やしたおじさんだよ! ついに劇場にパイの香りが!
森崎 それ最高だな〜。
LiLiCo あのときはほんとに大変だったんだよね。とにかく(コロナ感染者が出ることで)公演を止めないように、私たちもスタッフも劇場さんもみんな頑張っていたから。その甲斐あって一度も止まらなかったし、亡くなられたエイドリアン・シェリー(原作映画の製作者)が天国から見守ってるとしか思えなかった。だから、毎回公演前に今日もよろしくねって心の中で思っちゃう。
――最後に、現時点でお気に入りのシーン教えてください。
LiLiCo たくさんあるんだよなー……。まずはジョー(山西惇)のソロ歌のシーンですね。踊りもすごいけど歌詞も響く。やばいですよ、味がありすぎて。それとやっぱりジェナとポマターの1幕の最後と2幕の最初。しかも前回とは全然違う面白さを持っていて、再演でも全く新しい気持ちで観ています。
森崎 僕もいっぱいあるんですけど、ジェナのソロ曲は曲がいいからすごく印象に残りますよね。あと、自分がもし観客として見られるなら、僕が歌い出してジェナと僕がハグをしながら「赤ちゃんへ」って言うシーンを観たいんですよね。あのときは抱き合っているのでジェナの顔が僕には見えないんですよ。あのときのジェナの顔を外から見てみたい。
LiLiCo ミュージカルを苦手とする人っていっぱいいるけど、この演目はポップスだからすごく入ってきやすいはずなんだよね。しかも、日本語詞がすごく上手にハマってる。だからぜひ皆さん観に来てくださいね。
取材・文:よしひろまさみち
撮影:藤田亜弓

<公演情報>
ミュージカル『ウェイトレス』
脚本:ジェシー・ネルソン
音楽・歌詞:サラ・バレリス
原作映画製作:エイドリアン・シェリー
オリジナルブロードウェイ振付:ロリン・ラッターロ
オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
出演:
高畑充希 森崎ウィン ソニン LiLiCo
水田航生 おばたのお兄さん/西村ヒロチョ(Wキャスト) 田中要次 山西惇
【東京公演】
2025年4月9日(水)~4月30日(水)
会場:日生劇場
【愛知公演】
2025年5月5日(月・祝)~5月8日(木)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホール
【大阪公演】
2025年5月15日(木)~5月18日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
2025年5月22日(木)~5月29日(木)
会場:博多座
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