舞台『Take Me Out』2025への展望をきく 藤田俊太郎×小川絵梨子インタビュー
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インタビュー

左から小川絵梨子、藤田俊太郎 (撮影:石阪大輔)
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すべて見る2002年にロンドンで初演され、その後オフ・ブロードウェイへ。2003年にはブロードウェイに進出し、日本でも2016年、2018年と上演されてきた人気作『Take Me Out』が、ついに7年ぶりに帰ってくる。物語の舞台はメジャーリーグ。語り手はエンパイアーズ所属のスター選手・ダレンの会計士であるメイソン。ある日ダレンが同性愛者だと告白したことから、キッピーやカワバタらチームメイトとの空気に少しずつ変化があらわれて――。5月の開幕を前に、初演からの続投となる演出の藤田俊太郎、翻訳の小川絵梨子に話をきいた。
――今回で三度目の上演となる『Take Me Out』ですが、これまでの経緯を教えてください。
藤田 まずプロデューサーの江口剛史さんからご提案いただきました。作品の内容、粗筋だけは知っていて魅力を感じていましたが、脚本を読んでぜひ挑戦してみたいと思いました。で、「翻訳家さんはどなたに?」となった時に、ふたり同時にお名前が挙がったのが小川絵梨子さんで。
小川 わぁ、ありがとうございます!
藤田 まさに作品の真髄を捉えた、むしろ真髄の向こう側までも美しく表現してくださるような翻訳で、本当にありがたかったです。

小川 実は私、ブロードウェイの初演を観ているんです。オリジナルで“カワバタ”を演じられていた、ジェームズ・ヤエガシさんと知り合いで、バックステージツアーにも参加させてもらったりして。それが翻訳のバランスを取る上でも非常に役に立ちましたね。
藤田 とにかく絵梨子さんがすごいのは、稽古場に伴走してくださる翻訳家であるということですよね。そして非常に優秀な演出家でもあるにも関わらず、現場ではその気配をまったく感じさせないこと。信じて翻訳を託してくださったことがすごく幸せでした。
小川 とんでもないです! こんなこと言ったら失礼ですけど、私、翻訳だけの時はすごく気が楽で。稽古場に行く時の後ろ姿がなんか軽いんですって(笑)。
藤田 (笑)
小川 だから藤田さんがとても丁寧に作ってくださって嬉しかったですし、藤田さんの温かさや優しさが作品に溢れていて、観た時にとても幸せな気持ちになりました。
――本作の核となるのは、人種やマイノリティの問題です。再演からの7年だけでもそれらを取り巻く状況、さらに世界は大きく変わってしまいました。そういった中でおふたりは、作品の見え方や捉え方にどんな変化がありましたか?
藤田 人と人が相対する時、言葉でしか伝えられない思いと、言葉に出来ない思いがある、というのがこの作品の大きなテーマだと思っています。つまりは人と人とがどうやって理解し合っていくのか。ただ2002年の英国での初演から比べると、世界は激動という言葉では括れないほどの変化がありました。さらに近年、時代と逆行するかのように排他的な考えが世界中で顕著になっていて。そんな中で今回の座組では、この20数年で変わらなかったものを追求していきたいなと。それはいい面も悪い面も含めて。そんなふうに考えています。
小川 もちろん作品の魂の部分というのは、時代を超えて普遍的なものがあるからこそ残っていくと思っています。ただやはり2002年であればその演出でもいいけれど、今では作品が意図していた笑いになるどころか、差別に見えてしまう。そこはやはりアップデートされ続けなくてはいけないのではないかなと。「昔差別だったよね」という感覚と、「今差別だよね」という感覚では、基準値だけでなくニュアンス的にもかなり変わってきていますから。ただもちろん差別的なことが行われる話でもあるので、その時代設定をどこに置くのか。それも重要かなと思います。

藤田 確かにその通りで、『Take Me Out 2025』というタイトルに倣って2025年の話にすることも出来ますが、僕はやはりこの作品は2000年代初頭の価値観で描くべきだと思っています。なぜそこにこだわるかと言うと、9.11があった後の世界に、作者はイラク戦争開戦を念頭に起き、虚も実も含めた小さな希望をラストに持ってきていると感じているからです。その意味を今一度考えたいですし、2002、3年を見つめながら、今をも見つめるといった上演にしていきたいと思っています。
――今回は初の試みとして、「レジェンドチーム」と「ルーキーチーム」の2チーム制での上演となります。それぞれどういったことに重きを置いて演出していきたいと考えていますか?
藤田 チームの外と中の視点を持つふたりの語り部のまなざしに重点を置いたレジェンドチームと、チーム一丸となった群集劇が魅力のルーキーチームというように、アプローチを変えようと思っています。前者は“メイソン”と“キッピー”の視点の在り方をより明確に、後者は全員が劇の進行を目撃している、という要素を強くしたいなと。あとこれはビジュアルからピンとくる方もいるかもしれませんが、レジェンドチームにおけるエンパイアーズは伝統的なチームを、一方のルーキーチームでは新進気鋭のこれからのチームを想起させるような作り方にしたいと思っています。
小川 へぇ、面白いですね!
藤田 そしてこの作品には人種だけでなく、多種多様な価値観を持った人物たちが登場し、野球という名のもとに集っています。それは今回のキャスティングにも言えることで、役者たちの出自はみんなバラバラ。この作品を、より生々しく表現することが出来るのではないかと考えています。
小川 さすが! 今回も楽しみにしています!
藤田 はい、頑張ります!

取材・文:野上瑠美子
撮影:石阪大輔
<公演情報>
舞台『Take Me Out』2025
【東京公演】
日程:2025年5月17日(土)〜6月8日(日)
会場:有楽町よみうりホール
【名古屋公演】
日程:2025年6月14日(土)・15日(日)
会場:Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【岡山公演】
日程:2025年6月20日(金)・21日(土)
会場:岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
【兵庫公演】
日程:2025年6月27日(金)~29日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/takemeout/
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