テノール 西村悟が芸術歌曲の世界を視覚表現と共に届ける「オペラティックリート」の企画をスタート
クラシック
インタビュー

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すべて見るさまざまなオペラの舞台、メディアで活躍するテノールの西村悟が「オペラティックリート」と題したあらたな芸術歌曲の世界に挑む。西村は2021年、仲道郁代との共演でシューマンの《詩人の恋》を演奏し、そこから芸術歌曲であるリートの世界に深く入り込んでいるという。今回も中心となる楽曲は《詩人の恋》だ。
「コロナ禍にオペラができないという状況になり、仲道郁代さんからお誘いをいただいてリートを歌ったとき、最少人数で舞台が成立する世界は今後多くの人に求められるものになるのではないかと思いました。またピアニストと1対1で緻密に音楽づくりができ、より自分の芸術性を出していけるのも大きな魅力でした」

一方で、歌曲のリサイタルは一時期日本でも多く公演があったが、近年は公演数が非常に少なくなっているという現実もある。
「公演が少ないのはなぜかと考えたとき、やはりお客様に“難しい”と思われていることが原因なのではないかと。みなさんがドイツ語をよく知っているわけではないですし、直接的な表現を避けて表現している部分も多いので、どうしても手元の歌詞カードと演奏者を交互に見ることになり、内容が伝わりにくくなってしまいます。そこでオペラのように視覚を使って内容を補完すればいいのでは、と思い立ったのです」
そこから一気に西村は動きだしていった。まずは視覚表現ということで演出が必要になる。そしてヴォルフの歌曲やシューベルトの《美しき水車小屋の娘》を舞台化した経験のある岩田達宗に演出を、歌と一体となって世界を表現するピアノは共演機会も多い河原忠之に依頼した。
「歌曲を視覚表現と共に届けたいという想いをお話ししたところ、岩田さんはすぐに快諾してくださりました。そしてピアノは絶対に圧倒的な表現力と音色で世界を構築してくださる河原さんにお願いしたかった。最高のキャスティングが実現してとてもうれしいです。また今回はダンスも演出のなかに取り入れています。《詩人の恋》はクララ・ヴィークとの出会いが大きなきっかけになっているので、ダンスは楽曲に散りばめられたシューマンのクララに対する想いを具現化する役割としてとても重要なものとなります。もちろん歌詞は舞台に字幕を出しますので、歌手の表情や動き、ダンス、そして字幕を見ていただくことで内容がおわかりいただけるように仕上げていきます」

今回は《詩人の恋》全曲と共にいくつかのシューマンの歌曲やピアノソナタ第1番の第2楽章なども演奏される。ここには西村のこだわりがつまっている。
「もともと《詩人の恋》は20曲ですが、最終的に4曲外され、それらは別の歌曲の中に入れられました。今回はその歌曲もご紹介したいと思っています。こちらにも《詩人の恋》につながる演出を入れる予定です。また全体を通してシューマン自身の“明と暗”も表現したいと思っています」
オペラ歌手としても舞台を多数作り上げてきた西村だからこその表現がつまった「オペラティックリート」の世界は多くの人に歌曲の魅力を伝えてくれることであろう。今回が「Vol.1」ということで、今後の展開にもすでに期待が膨らむ。
文:長井進之介
<オペラティックリート Vol.1>
西村悟 × 河原忠之 × 岩田達宗
シューマン 詩人の恋 (舞台版) (原語上演・字幕付き)
■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2556880
5月9日(金) 19:00開演
東京文化会館 小ホール
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