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【コラム】劇場には体験したことのない雰囲気が満ちていた──さようなら俳優座劇場 最終公演『嵐 THE TEMPEST』

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さようなら俳優座劇場 最終公演『嵐 THE TEMPEST』より (撮影:飯田研紀)

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俳優座劇場には体験したことのない雰囲気が満ちている、と思えた。それは、舞台から客席に流れてくる空気であり、客席から舞台へ送り込まれる空気の流れが渾然一体となって生まれた特別な空気感の雰囲気だ、と感じられた。

ここでいう舞台とは、“新劇の殿堂”と呼ばれ、数多の名優が名演を披露した舞台だ。ウィリアム・シェイクスピア単独による最後の戯曲とされる『嵐 THE TEMPEST』を演じている俳優23人の熱気、見つめる観客が集中しているのも分かるし、応援している姿勢も明確に伝わる。「さようなら俳優座劇場 最終公演」でひたすら演じ、それを見つめる光景の雰囲気が特別だった。

小笠原響の演出は、上方から上下する吊り物と巨大な布を扱い、美術はといえば舞台上には木製の小箱(箱馬)、長方形の大きな台(平台)のみ。極力シンプルにした平舞台。裏を返せば余計な大道具を避け、大音響と多彩な照明、俳優の演技、それによる物語世界を見てくれ──とさえ言っているような上演に思えた。

(撮影:飯田研紀)

大嵐によってナポリ王アロンゾー(藤田宗久)一行が流れ着いた絶海の孤島には、弟のアントーニオ(浅野雅博)の陰謀により既に流されていたミラノ公爵プロスペロー(外山誠二)らがおり、プロスペローは嵐を起こし、妖精たちを操る魔術を習得していた。魔力、祝祭性、ハッピーエンド、分別と理性を説く世界をアンサンブルによって小笠原演出は打ち出していた。

演技陣はといえば、悪事の策略をめぐらす浅野のアントーニオとセバスティアン・金子由之の対話の台詞術に引き込まれた。キュートで美しい歌声のエアリアル・平体まひろ、奇怪な動きで高い身体能力を見せた醜い怪物キャリバンの藤原章寛、そして女優陣が演じた妖精たちの一体感ある踊り。まるでオペラのような感覚になった。

スター俳優中心ではなく、将来を託された新劇団の若手・中堅らによる違和感のないアンサンブルで、演出が求めるメッセージ性がよく伝わる舞台に好感が持てた。プロスペローの外山が正面を向いて観客に「自由を」と叫ぶ幕切れ。革新を目指す現代における“新劇”とは?と問い掛ける最終公演となった。

(撮影:飯田研紀)
(撮影:飯田研紀)

築地小劇場からの精神を受け継いできた劇団と劇場。芸術志向によって問題を提起する知的な演劇は今、少数派かもしれない。だが新劇人の心意気を示し、いつの日にか新たな劇場が建たないものか、と切に願う。(演劇ジャーナリスト・大島幸久/4月13日所見)

プロフィール

大島幸久(おおしま・ゆきひさ)
東京都生まれ。団塊の世代。演劇ジャーナリスト。スポーツ報知で演劇を長く取材。現代演劇、新劇、宝塚歌劇、ミュージカル、歌舞伎、日本舞踊。何でも見ます。著書には「名優の食卓」(演劇出版社)、『歌舞伎役者 市川雷蔵 のらりくらりと生きて』(中央公論新社)など。鶴屋南北戯曲賞、芸術祭などの選考委員を歴任。「毎日が劇場通い」という。

<公演情報>
さようなら俳優座劇場 最終公演『嵐 THE TEMPEST』※公演終了

作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:小田島創志
演出:小笠原響
美術:石井みつる
音楽:日高哲英
衣裳:加納豊美

出演:
外山誠二 / 浅野雅博 / あんどうさくら / 平体まひろ / 藤原章寛 / 藤田宗久 / 金子由之 / 田中孝宗 / 里村孝雄 / 千賀功嗣 / 前田聖太 / 上杉陽一 / 岩崎正寛 / 八柳豪 / 荒木真有美 / 安藤瞳 / 井口恭子

稀乃 / 山崎稚葉 / あり紗 / 長井優希 / 安藤春菜 / 蟹澤麗羅

2025年4月10日(木)~4月19日(土)
会場:東京・俳優座劇場

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