愛を求めることは悪なのか?飛龍つかさがリチャードとして生きる「薔薇王の葬列」開幕
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ミュージカル「薔薇王の葬列」より、飛龍つかさ扮するリチャード(左)と冨岡健翔扮するヘンリー(右)。
ミュージカル「薔薇王の葬列」が本日4月19日に東京のこくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロで開幕した。ステージナタリーでは、昨日18日に行われたゲネプロの様子をレポートする。
菅野文のマンガ「薔薇王の葬列」は、ウィリアム・シェイクスピアの「リチャード六世」「リチャード三世」を原案としたダークファンタジー。今回は、日月立の脚本、児玉明子の演出、鎌田雅人の作曲、良知真次の総合演出・振付でミュージカル化される。
ヨーク家とランカスター家が王位争奪を繰り返した薔薇戦争時代。ヨーク家の三男・リチャード(飛龍つかさ)は父からは愛されたが、両性具有で生まれたことで母からは“悪魔の子”と疎まれた。リチャードは森の中で羊飼いの青年に出会うが、その正体はランカスター家の当主であるヘンリー(RIKU[THE RAMPAGE]と冨岡健翔のWキャスト)だった。リチャードとヘンリーは互いの素性を知らぬまま心を通わせ……。なおゲネプロでは、ヘンリー役を冨岡が演じた。
開演するとパイプオルガンによる不穏な旋律が奏でられ、“悪魔の子”の産声が響き渡る。続くオープニングでは全キャストが集結し「愛されたいと願うことは罪になるだろうか」と歌い、リチャードやヘンリーら登場人物たちが他者に愛を求めたことで引き起こされる悲劇を予感させた。
劇中では、原作マンガの第1部をベースに、愛憎が渦巻く壮大な王家の物語が展開する。リチャードとヘンリーの道ならぬ恋をはじめ、王の座を奪うためにヨーク公リチャード(良知)を無惨に処刑するランカスター家のマーガレット(天寿光希)の残忍さや、父親の跡を継いだヨーク家の長男エドワード(山田ジェームス武)の身勝手な行動に失望し、ランカスター家へ寝返る参謀ウォリック(鎌苅健太)の野心、そして、女性としてのリチャードに淡い恋心を寄せるも、最終的に母マーガレットの身代わりとして殺されるランカスター家エドワード王太子(KANJI[XY])の悲恋などが、ドラマチックな音楽やダンス、アクションと共にテンポよく描かれていく。
衣裳の色は、2022年に放送されたテレビアニメ版と同様に、ヨーク家は青、ランカスター家は赤、ウォリックの一族は緑を基調としている。またリチャードは漆黒、"リチャードの鏡"的存在のジャンヌダルクは純白の衣裳に身を包んだ。
飛龍は、リチャードが“悪魔の子”としての宿命に常に葛藤しながら、敬愛する父ひいてはヨーク家が王位を得るべく、自らを血塗られた運命に導いてしまう姿を、力強さと繊細さを兼ね備えた演技で立ち上げる。父が無惨に殺された怒りをぶつけるように、ランカスター家を相手に荒々しい剣さばきで戦うその瞳には狂気を感じさせる一方、羊飼いのヘンリーからの愛情に閉ざされた心が溶かされていく様子を瑞々しく表現した。
冨岡は、争いを望まぬヘンリーが変装した姿である羊飼いを、儚げな笑顔と共に、純粋な青年として演じる。ヘンリーがリチャードに愛を伝えるシーンでは、「君をずっと待つよ」と温かな歌声を響かせながら、葛藤するリチャードの身体を後ろから包み込み、観客の胸を打った。また、リチャードの前にたびたび姿を現すのが、リチャードにだけ見える幻影・ジャンヌダルクだ。ジャンヌダルク役の明音亜弥は、リチャードの心の底を見透かすような言葉と、しなやかな身体の動きでリチャードを惑わせるかように見せかけつつも、リチャードが立場にとらわれずに“本当の願い”であるヘンリーとの将来を叶えるように後押しした。
上演時間は約2時間45分。公演は4月27日まで行われる。
%play_3167_v4%©菅野文(秋田書店)2014 ©菅野文(秋田書店)/ミュージカル『薔薇王の葬列』プロジェクト