萩原利久×河合優実、セレンディピティな魔法の恋『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』……大九明子監督がジャルジャル福徳秀介の小説を映画化──【おとなの映画ガイド】
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『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』 (C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
続きを読むドラマ『美しい彼』でブレイクし、その後も快進撃をつづける萩原利久と、2024年度映画賞の顔といってもいい河合優実が共演する青春ラブストーリー『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が、4月25日(金) に全国公開される。『勝手にふるえてろ』など、独身女性の本音がほとばしりでるロマンチック・コメディを連発してきた大九明子監督が、“コント職人”ジャルジャルの福徳秀介による小説を原作に、初めて「男子大学生」を描く。もちろん、彼の恋も、一筋縄ではいきません。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
萩原利久が演じる主人公は、関西大学の2年生、小西徹クン。大九作品の女性主人公と同様、自分に自信がもてないために、逆に個性的で独自の道を行ってしまうというキャラだ。

小西クンは、SNSでバズったサンドイッチ店に並ぶ学生たちとは異なり、学食のすみっこ席や校舎屋上の庭でカップラーメンなんかを食べている。格好はふつう。でも、登校時は日傘をさす。理由は、人目を避けるため。かえって目立つよ……とツッコミを入れたくなるが、彼なりのこだわりだ。キャンパスでは、皆が通らない通路を歩くのが歓びで、いろいろ妄想するのが好き。友だちは大分出身のへんな関西弁をしゃべる山根(黒崎煌代)ひとりだけ。バイトは、深夜の銭湯のお掃除だ。

その小西クンが最近、どうしても気になってしまうのは、校内でよくみかける大きなお団子髪の女子。講義が終わると誰よりも先に教室を出るさっそうとした姿や、誰ともつるまず、学食の“まんなか”でひとり、ざる蕎麦をすする美しいたたずまいに、ついつい目を奪われる。

このお団子ヘアの女子大生、桜田花さんというのだが、演じているのは河合優実。大九監督とは、NHKのドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(=通称「かぞかぞ」)でもコンビを組んでいる。そういえば、あの作品も関西が舞台だった。河合優実の関西弁はとてもここちよい。
小西クンは、もてる勇気と知恵をふりしぼって、彼女にアプローチ。セレンディピティと言えばいいのか、なんだか嬉しい偶然が重なり、ふたりは急接近する。

おたがい話をしてみると、いろいろ共通点の多いことに気づく。小西クンが一番驚いたのは、「毎日が楽しいって思いたい。今日の空が一番好きって思いたい」と桜田さんが口にしたこと。9歳のときに亡くなったお父さんの口癖だったそうなのだが、それは小西クンにとっても、半年前に他界した祖母に教わった大切な言葉なのだ。
この恋、このままうまくいきそう、と思えたのだが……。

本作は、撮影のほうもハッピーなセレンディピティの連続だったようで。原作者・福徳の母校である関西大学が全面協力、開放的で美しいキャンパス内だけでなく、近隣の飲食店なども快く撮影を承諾してくれた。全車貸し切りでの撮影ができた阪急電車内や、京都水族館、関大生に人気のボウリング場(フタバボウル関大前店)、バイト先の銭湯……、リアルな関西の街を映し出す。
真理をついてるな、と共感できるセリフも多いし、人と人の間合いというか、関係のとり方や、自意識が過敏になっている現代の若者の姿も見え隠れする。

数少ない小西クンの人間関係のなかで、さっちゃん(伊東蒼)という銭湯掃除のバイト仲間も重要な登場人物。バンドをやっている彼女の、スピッツの曲「初恋クレイジー」にまつわるエピソードは心打たれる。予告編にもあるけれど、さっちゃんは密かに小西クンが好きだったのだ。
大九作品は、思わぬ役者の好演も楽しみ。本作では、銭湯の主人役の古田新太、喫茶店のマスター役の安斎肇(「空耳アワー」のひと)が、おもしろいオヤジを演じている。大学正門前にあるお店の“看板犬”サクラの名演も特筆もの。いい後味の残る映画です。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会