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「ようやくご縁が巡ってきました」石黒賢、鴻上尚史演出で野沢尚の傑作に挑む

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左から)鴻上尚史、石黒賢 (撮影:荒川潤)

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テレビドラマの脚本家、小説家として数々の話題作を遺した野沢尚が、2001年に発表した小説『反乱のボヤージュ』。名門大学の学生寮を舞台に、廃寮を目論む大学側から送り込まれた舎監と、寮存続に奮闘する学生たちとの心の交流、彼らの葛藤や成長が瑞々しく描かれた物語だ。この青春群像劇の傑作に、鴻上尚史が着手。脚本・演出を担って『反乱のボヤージュ』の新たな世界観を舞台上に立ち上げようとしている。元機動隊の経歴を持つ舎監・名倉憲太朗に扮するのは、さまざまな作品で幅広い役柄をこなし、確かな実力を誇る石黒賢。学生寮で暮らす医学部一年生・坂下薫平役の岡本圭人を始めとする若き才能が集まった座組で、彼らを先導する“大人代表”の石黒、そして鴻上が目指す、「誰もの胸に刺さる青春舞台」とは……!?

真逆のキャラクターを石黒さんがどう立ち上げるのか、ワクワクします(鴻上)

――まずは石黒さんに、今回の舞台に心惹かれた点についてお話いただけますか?

石黒 ひとつはやはり、野沢尚さんの原作だということです。野沢さんの脚本のドラマが話題になっていた頃、なかなかご一緒させていただく機会がなかったんですね。ただ僕はいち視聴者として野沢さんのドラマをいくつか拝見していて、これは面白いな!と。なかでも非常に記憶に残っているのは『眠れる森』(1998年放送)です。今回ようやくご縁が巡ってきました。それから鴻上さんを目の前にして言うのもなんですが(笑)、やはり演劇界の巨人と仕事ができる機会はそうそうない。原作を読めば面白いし、僕が演じる舎監の名倉憲太朗は今までやったことのないキャラクターの男だし、劇場は新橋演舞場だし、ハードルは高いぞ!と(笑)。でも「石黒賢にこの役をやらせてみよう」とせっかく声をかけてくださったので、頑張ってみようと思いました。

――鴻上さんは、野沢さんの『反乱のボヤージュ』の舞台化、その可能性についてどうお考えになったのでしょうか。

鴻上 これは伝説の名作といいますか、学生たちの反乱を描いたひとつの代表的な作品ですよね。僕はプロとしてどんな作品でも舞台にするぞ!という意気込みはありますが(笑)、なかでもこれは舞台にし甲斐のある作品だなと。僕はこれまでもミュージカル『スクールオブロック』(23年)の演出をやったり、堤幸彦監督の原案の『僕たちの好きだった革命』(07年、09年)という舞台をやったり……要は、反乱する学生の物語は俺に任せろ、みたいなところがあって。(一同笑)それこそ周りの友達に「今度、『反乱のボヤージュ』を舞台化するんだよ」と話すと、「お前の仕事だね」って言われました。

石黒 ハハハ、そうですか! 僕は基本的に「事前に原作を読んでください」と言われない限り、読まないほうだったんですね。小説って影響力が強いから、それに囚われてしまうのもな〜と。ただ今回はまったく前情報もなかったので、読みまして、ガツンとやられましたね。章ごとに、いろんな背景を抱えた学生たちの事情が丁寧に描かれていて。そこにドンと重石のように名倉がいて、彼らを諭すわけでもなく、「てめえで考えろ」と突き放す。今は手取り足取り誘導しがちな大人が多いなかで、あの突き放す感じがカッコいいし、素敵な人だなと。俳優としては非常にチャレンジングな役です。

鴻上 小説を台本にする作業は初めてでしたけど、楽しかったですよ。石黒さんは爽やかなスポーツマンという印象だから、“優しい”とか“包容力のあるいい人”といったパブリックイメージがあると思うんです。でも名倉はその真逆だから。つまり、理解することを拒否していて、優しい言葉もかけず、まして学生たちを包み込もうなんて意識もない。「理解できるヤツだけが俺にかかってこい」みたいなね。これだけ真逆のキャラクターを石黒さんがどう立ち上げるのか、ワクワクしますね。

石黒 僕は、どんな役を演じる時も、ある種のユーモアを入れたいなと思っているんですね。名倉は厳しさを持った男ですが、台本を読んで面白いな!と思ったのは、恋愛は得手じゃないんですよ、この人。そういった話になった時に「どうなんですか?」と突っ込まれて、名倉は「……いやあ」って言うんです。僕はその「いやあ」のひらがな三文字を台本で見た時に、ありがとうございます鴻上さん!と思いましたよ。

鴻上 ハッハッハ!

石黒 一生懸命で堅い男が言うからこそ、笑えるようにしたいなと思っています。台本を読むと、ラストに向けてガーッと連帯感が高まる様子が今からでも目に浮かぶし、演劇の持つパワーのみなぎるエンディングになることは間違いないなと。最後はグッといきますよね?

鴻上 はい、いきます!

「心の目線を上げてもらえたら嬉しいです」(石黒)

――ここに描かれているのは2001年頃の学生たちの物語で、いわゆる大学紛争、学生運動などはひと昔前の出来事と見ている若者たちが登場しますが、その時代の空気感は舞台でもそのままに?

鴻上 そうですね、この物語の時代も、寮の存続のために闘う坂下薫平や他の学生たちよりも、一般学生のほうが多かったわけですよね。で、一般学生の「今頃、何やってるんだよ、シーラカンスかよ」といった侮蔑の視線はあったわけで。その感覚は今にも通じると思うんですよ。「え〜、かつてそんなことがあったの!? なんだそれ!?」みたいな。石黒さんも「僕も学生運動の世代じゃないんだけど」っておっしゃっていましたけど、若い人たちは、大人はもう皆その世代だと思っているから「ええっ!?」って驚かれたりするんですよ。「違う、違う!」って。僕だって違うからね(笑)。要は、その紛争の時代の熱い話を伝えるのは難しいと思うけど、その後の、一般学生が冷めた時代の話なので。でも、熱は持っているはずなんです。でもその熱をどう伝えていいのかわからなくて、今はそれこそSNSとか歪な形で熱を放ったりしているけど、共感できるベースはあるのではないかなと思いますよね。

――野沢さんが原作小説を書かれた時からすでに四半世紀ほど経っていて、今の大学生の方々はこの舞台をどうご覧になるのか、気になりますね。

鴻上 そう、感想を聞きたいですよね! 名倉の「お前たちはふわふわしている。地に足が着いていないんだ」という台詞は、たぶん今の大学生にも刺さると思いますね。

――そんな名倉を演じるにあたり、石黒さんの今の課題は?

石黒 腕立て伏せです。

鴻上 ハッハッハ! いや、でもそれはすごく大事ですよね。

石黒 原作小説を読むと、名倉はやっぱりものすごくゴツい男なんですよ。機動隊上がりですからね。なので、体を鍛えています(笑)。

鴻上 あと、おそらく周りに対してぶっきらぼうになるんじゃないですか? 優しい石黒さんが、変わった!と。周りの方々には迷惑かもしれない(笑)。

――演劇のパワーみなぎる……というお話が出ましたが、多くの方に体感していただきたいですね。

鴻上 これは、全部の世代に刺さる作品です。若い人だけでなく中高年の男性、そして女性にも必ず刺さる部分がある。実に間口が広い、楽しい作品なので、久しぶりに芝居を観るか!という方にはイチ推しですね。お友達を誘って来ていただけたら、きっとお友達には感謝されると思います(笑)。

石黒 どの世代の人にも、どのような環境にいる人にも、ご自身を投影できる人物は見つかると思います。「ただ漫然と日々を過ごすより、一歩足を踏み入れてみましょうよ」と促されるような作品じゃないかなと。「よし、ちょっと明日からやってみようかな」と、心の目線を上げてもらえたら嬉しいですね。非日常を味わいに、ぜひ劇場にいらしてください。


取材・文:上野紀子 撮影:荒川潤

<公演情報>
『反乱のボヤージュ』

原作:野沢尚『反乱のボヤージュ』(集英社刊)
脚本・演出:鴻上尚史

【キャスト】
名倉憲太朗:石黒賢
坂下薫平:岡本圭人

江藤麦太:大内リオン
司馬英雄:小日向星一
本多真純:駒井蓮
葛山天:小松準弥
田北奈生子:谷口めぐ
沖田:前田隆太朗
茂庭章吾:財津優太郎
立花:渡辺芳博
神楽:葉山昴

久慈刑事:加藤虎ノ介
日高菊:南沢奈央
宅間玲一:益岡徹

【東京公演】
日程:2025年5月6日(火・休) ~5月16日(金)
会場:新橋演舞場

【大阪公演】
日程:2025年6月1日(日) ~6月8日(日)
会場:大阪松竹座

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2557782

公式サイト:
https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202505_enbujo/

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