「みんな大好き」シソンヌじろうが5役を演じる『Wife is miracle』
ステージ
インタビュー

左から)池津祥子、シソンヌじろう、伊勢志摩 (撮影:石阪大輔)
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すべて見る池津祥子、伊勢志摩、宍戸美和公、猫背椿、中井千聖。大人計画に所属する5人の女優が“今やりたい役”を演じる「平凡パンチライン」。宮藤官九郎脚本、木野花演出という最強の布陣で描かれるのは、東北の田舎町を舞台にした5人の嫁と夫の物語『Wife is miracle〜世界で一番アツい嫁〜』。女優陣に熱望され今作に参加するシソンヌじろうは、それぞれの夫をはじめ、複数の役を担う。池津、伊勢、じろうに今作について聞いた。
シソンヌじろうの名前が出て、会議にハートが飛び交った

──じろうさんは『Wife is miracle〜世界で一番アツい嫁〜』で、少なくとも5役を演じると伺いました。まず、なぜじろうさんにオファーを?
伊勢 面白いからです。
じろう いちばん嬉しい。
池津 コントでやられているキャラクターが、面白いのにリアリティがありますよね。こんなこと言われたら嫌かもしれませんけど、勉強になります。
伊勢 そうそう、どうやってこの人物を作っているんだろうと思います。本当にお芝居がうまい。でも、コントで描かれている内容を観ると「こんなに繊細で社会をわたっていけますか?」と勝手に心配しています。愛があるということでもあるんだけど。
池津 どのキャラクターも魅力的で。人間に絶望していない感じがありますよね。
じろう たしかに、人間のことは信じてます(笑)。
伊勢 じろうさんのお名前を企画会議でいちばん最初に出したのは誰だったか……。
池津 はい(笑)! とにかく夢を語ろうという場だったので、客演候補出しの時に僭越ながらじろうさんのお名前を出したら……。
伊勢 みんなが食いついたんだよね。ハートが飛び交った。宍戸(美和公)さん、ふだんあまりしゃべらないのに、LINE上では、「じろうさんの名前を出してくれた池津さんに感謝」とまで言って(笑)。
じろう たしかに、公式サイトのコメントで皆さん揃って「みんな大好きじろうさん」と書いてくださっていて、「好きすぎるだろ」と思いました(笑)。
──じろうさんは、最初声がかかったときにどう思われましたか?
じろう とにかく嬉しかったですね。
伊勢 こちらが嬉しいですよ。
池津 でもプロットの時点で5役だなんて、「まさかこんなことになるとは」という感じですよね? ゲストでお呼びしておきながら、こんなに働かせるなんてひどいですよね(笑)。
伊勢 申し訳ない……。
じろう いやいや、みなさんのお力を借りて、どれだけできるか楽しみです。
──オファーの時点で、じろうさんはこの作品についてどこまで聞いていましたか?
じろう 最初は、まさか女性5人と僕だけとは知りませんでした(笑)。でも、今はこの形でよかったなと思っています。どうなるかはわからないですけど、全然不安はないです。
伊勢 本当ですか? 嬉しい。じろうさんにはまず、コメントをいただいたんですよ。それ自体がもう作品になっていて、「お願いしてよかった!」と思いました。
じろう スケベな妄想のやつですね(笑)。
池津 読んだ時、「さすが!」と一同大興奮でした。
初めて「どんな役がやりたいですか」と聞かれて
──そもそもこの「平凡パンチライン」のはじまりは?
池津 年々体力の低下とか物覚えの悪さとかを感じるようになって、お芝居をやるたびに「あと何年できるかわからない」「あと何本やれるだろう」と思うんですよ。
伊勢 普段からそういう話をよくしてるんだよね。
池津 その流れで「自分たちでもお芝居をやりたいね」と話していて、たまたま手を挙げた人たちが集まりました。
伊勢 「このチームでこれからやっていくぞ!」ってわけじゃないんです。でも、すでにいろんな方から「観たい!」と言っていただいていて、この組み合わせは正解だったなと思っています。宮藤(官九郎)さんと木野(花)さん、最高の組み合わせですよね。企画の段階で「笑えるお芝居をやりたい」と考えたときに浮かんだおふたりが受けてくださって。
池津 木野さんとの会議も最初からみんなノリノリで話が盛り上がりました。
伊勢 木野さん、この間も関係ないLINEのやりとりのときにふと「こんな機会を与えてくれてありがとう」と言ってくださって。こちらこそという感じです。
池津 宮藤さんはまず最初に「みなさん、どんな役がやりたいですか?」と聞いてくださったんですよ。そんなふうに聞かれたことが初めてで、戸惑ったけど嬉しくて。演劇の人ってほら、たとえば『欲望という名の電車』のブランチをやりたい、とかあるじゃないですか。そんなの私、これまで考えたこともなくて。
伊勢 あ、ブランチいいね。そう言えばよかった!
──おふたりは何をやりたいとおっしゃったんですか?
池津 私、舞台だと強い女性の役とか突飛な役が多いものですから、木野さんの演出を受けられるのなら、じっくり芝居をやりたいと思いました。それで自分が好きなドラマ『オリーヴ・キタリッジ』(フランシス・マクドーマンドら出演の米ドラマ・シリーズ)の登場人物みたいな役がやりたいと伝えました。あと映画『真夜中のカーボーイ』のジョン・ヴォイトみたいな感じ、と。もうひとつは、TOKYO COOL。
じろう え?
池津 お笑いコンビのTOKYO COOLって、おじさんがすごくはしゃいでいて面白いじゃないですか。
じろう そうですね(笑)。
池津 ああいうはしゃいでいるおばさんをやりたいと。でも人がいないところではすごく疲れていて哀愁たっぷりみたいな(笑)。そういう役がやりたいと伝えました。今のプロットを読む限り、たぶんジョン・ヴォイトを採用してくれたんだろうなと思っています。


伊勢 私はたまたま『淋しいのはお前だけじゃない』(TBS系1982年放送)という昔のドラマを観た時期だったんですよ。作中で泉ピン子さんが西田敏行さんから「ほんとお前はダメだな」と頭をはたかれて「えへへ、ごめんね」みたいなこと言ってる役だったんです。そのピン子さんがあまりにもすばらしくて。そういう、人に「バカだな」とか言われるような役をやりたいと伝えたんですよ。そしたら、実は昔宮藤さんの舞台でそんな役をやったことありました。
一同 (笑)。
伊勢 まず宮藤さんに謝罪しました(笑)。でも、その時はきっとうまくできていなかったんですね。今55歳になり、ピン子さんを観て、改めて「こういう役ができたら」と思ったんです。
池津 そうやって5人が自由に伝えた「やりたい役」に基づいたプロットを、宮藤さんがかなり詳細に書いてくれました。私たちみんな、せっかくじろうさんとお芝居できるなら関わりたいじゃないですか。目の前でどんなお芝居をするか、観たいじゃないですか。その要望を入れた結果、じろうさんがこんなことになっちゃったんですよね(笑)。
伊勢 じろうさんだったら男性も女性も、いろんな役ができますから。私たちの「こういう役をやりたい」に対してそれぞれ「この役に対するじろうさんはこう」「この役にはこう」とじろうさんが担う役が増えていってしまった。
じろう たしかに、同じお芝居に出ていても、セリフをやり取りしないで終わることもありますもんね。せっかくならみなさんと一緒のシーンやりたいですよね。嬉しいですよ。
「人生を振り返る」木野花の演出
池津 聞いてもいいですか? もし、じろうさんが宮藤くんに「好きな役を書きます」と言われたらどう答えますか?
じろう わー、なんだろうな。僕はいつも自分で自分がやりたい役を自分で書いてやってきているので、かなり難しいですね。おふたりのお話を聞いていても、「この人と芝居がしたい」という感覚を自分は持ったことがなくて。他の方が書いた役だと何を求められているのかが気になりますし、他の方の演出を受けたことがほとんどないので、そこ応えられるかという面については、ちょっと不安があります。
池津 私も、木野さんの演出は初めてなんですよ。だから期待と不安があります。
伊勢 木野さん演出のお芝居に出たとき、私は帰り道に泣きました。求められていることができなくて、自分の人生を振り返るしかなくなって……(笑)。
池津 伊勢さん、木野さんの演出を受けて「初めて演劇やってる」と思ったんだよね。
伊勢 そう。私は40歳過ぎて初めて演劇をやったということですね。
じろう へえー!
池津 山内ケンジさんの作品に出演されたときは、何も言われませんでした?
じろう そう、山内さんの演出は怖いのかなと思って参加したんですけど、ぜんぜん何も言われなかったんです。
──こうして外のお芝居に出ることで、じろうさんが普段やられているコントにも影響がありそうですか?
じろう そうですね。お芝居に出ると、稽古でも本番でも、これまでご一緒したことのなかったいろんなキャラの濃い方と出会うので、おのずとその方の口癖とか、面白かった発言をネタとして抽出してしまうかも。このお芝居の後、夏にシソンヌの単独ライブが控えているんですが、もしかしたら木野さんみたいな演出家のコントがあるかもしれません(笑)。

取材・文:釣木文恵 撮影:石阪大輔
★平凡パンチライン『Wife is miracle〜世界で⼀番アツい嫁〜』6月25日(水) 18時公演の生配信が決定!詳細はこちら
<公演情報>
平凡パンチライン『Wife is miracle~世界で一番アツい嫁〜』
作:宮藤官九郎
演出:木野花
出演:じろう(シソンヌ)、池津祥子、伊勢志摩、宍戸美和公、猫背椿、中井千聖
2025年6月19日(木)~6月29日(日)
会場:東京・本多劇場
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