Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 【展示レポート】『LOVE ファッション−私を着がえるとき』 ファッション×アート×文学から、私たち人間の「装うこと」への願望や情熱を考察する

【展示レポート】『LOVE ファッション−私を着がえるとき』 ファッション×アート×文学から、私たち人間の「装うこと」への願望や情熱を考察する

アート

ニュース

ぴあ

『LOVE ファッション−私を着がえるとき』展示風景

続きを読む

フォトギャラリー(18件)

すべて見る

『LOVE ファッション−私を着がえるとき』が、東京オペラシティアートギャラリーで6月22日まで開催中だ。『ドレス・コード? ──着る人たちのゲーム』(2019-2020年)に次ぐ、京都服飾文化研究所財団(以下KCI)とのコラボレーション展で、このときと同様に京都国立近代美術館、熊本市現代美術館からの巡回となる。

KCIでは、西欧の服飾やその文献資料を体系的に収集・保存・調査するとともに、私たちが着ている服や着ている私たちについても展覧会を通じて考察してきた。今回の展覧会では、KCIが所蔵する18世紀から現代までの衣装コレクションを中心に、人間の根源的な欲望やアイデンティティーをテーマとするアート作品とともに構成。装いにまつわる情熱や願望を「LOVE」と捉え、着ることの意味を浮き彫りにする。展示は5つのチャプターからなり、村田沙耶香、岡崎京子ら文学作品からの言葉も楽しめる。

同展は、写真と見まがう横山奈美の絵画作品《LOVE》で幕を開ける。「LOVE」とは何か、思えば抽象的で奥が深い言葉だ。横山は自分で文字を書き、それをネオンサイン化して油彩画に描き、セルフポートレートとして捉えた。その後、家族や友人などに文字を書いてもらい、同じ手法でシリーズ化している、その出発点となった作品だ。

横山奈美《LOVE》2018年。左は作者

Chapter 1.「自然にかえりたい」では、自然を素材とし、モチーフとしたファッションを紹介。「花柄」をあしらった18世紀ヨーロッパの貴族のスーツから現代のドレスまでが並ぶ。また、防寒や手触りを求めて、最初に服に使用された自然素材とされる「毛皮」に焦点を当て、動物保護の観点からやがてフェイクファーが流行する変遷をたどる。かつて流行した珍しい鳥の羽や剥製による装飾を用いた帽子も展示。筆者は、自然に対する憧れが、いつしか権威の誇示や競争心へと変質する危うさも感じた。

18世紀ヨーロッパ貴族のスーツやドレス(左2点)ほか、花柄の服を展示。
毛皮からフェイクファーへの移行を展示。
壁面には、鳥の羽などをあしらった帽子の数々。左は、三つ編みされた人毛をつないだ、小谷元彦《ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス2)》1997年

Chapter 2.「きれいになりたい」では、19世紀のコルセットに始まり、その美意識を受けたディオールやバレンシアガなどのオートクチュールを展示。そうした欲望を加速化するかのように、アーティストのシルヴィ・フルーリーによる、消費をテーマとした試着室や鏡のインスタレーションが設置されている。一方で、社会的に作られる「美」にあらがい、パッドを自由に動かし個性的な美を創出するコム・デ・ギャルソン/川久保玲の代表作、通称“こぶドレス”がたたずむ。

バレンシアガ、クリスチャン・ディオールのイヴニング・ドレスなどを展示。
シルヴィ・フルーリー《No Man’s Time》2023年
コム・デ・ギャルソン/川久保玲 ドレス 1997年春夏

こうした個人への意識が始まる中、Chapter 3.「ありのままでいたい」ではルッキズムの問題も加わる。日常風景や友人たちを捉えたウォルフガング・ティルマンスの写真群。異なるサイズの身体を包括するように、いかなる体型にもフィットするネンシ・ドジョカのドレスが、私たちをエンパワメントする。

ウォルフガング・ティルマンス《Kyoto Installation 1988-1999》2000年
左からジヴァンシー/アレキサンダー・マックイーン、ゴルチエ・パリ・バイ・サカイのアンサンブル、ネンシ・ドジョカのドレス
ヘルムート・ラングのミニマルなファッション

さらに、同世代の女性へのインタビューをもとに、その日常と内面を描き出した松川朋奈の絵画を展示。母親になりきらなければというプレッシャーと、自分はどこにいるのかというアイデンティティー・クライシスとの葛藤、そのような境地に追い込む社会について考えざるを得ない。

松川朋奈の絵画作品
プレス内覧会で作品を解説する松川朋奈

Chapter 4.「自由になりたい」では、ヴァージニア・ウルフが1928年に出版した『オーランドー』に触発された川久保玲の2020年春夏コレクションと、彼女が衣装デザインを手掛けたウィーン国立歌劇場創立150周年を記念したオペラ『オーランドー』の記録映像を展示。性別や身分を変転し400年の時を超えて生きた物語と、時代の流行ではなく、時代を超えていくものをつくりたいという川久保のポリシーが響き合う。

オペラ《オーランドー》の記録映像と、コム・デ・ギャルソン/川久保玲 2020年春夏コレクション

最後にChapter 5.「我を忘れたい」では、違う私になりたいという願望に最大限に応える現代デザイナーの作品が集結。熊や獅子舞をモチーフとしたヨシオクボのオーガンジーのオーバードレス、ギフトボックスをイメージしたトモ・コイズミのリボンのドレスなど日本の気鋭のデザイナーも紹介。壁面には、コロナ禍にビデオゲーム形式で発表したバレンシアガのコレクション映像が映し出されている。

展示風景。手前の唇をモチーフとしたドレスは、ロエベ/ジョナサン・アンダーソン
トモ・コイズミのジャンプスーツを解説する小泉智貴

その先の原田裕規の映像インスタレーション《シャドーイング》もぜひ視聴してほしい。原田の出身地である山口県や広島県からハワイへ渡った移民について調査し、日系アメリカ人の混成文化をテーマとした、朗読の声や映像が重なる作品。「遠くに来たのに、自分の元いた場所に戻ってしまう。自分から逃れようとするほどルーツに帰っていく」という原田自身の思いが、この展覧会全体の「私」のあり方にもつながる。

原田裕規《シャドーイング》2022年-(進行中)

また、AKI INOMATAによる、東京、ニューヨーク、ベルリンなど世界の都市風景を模した殻にやどかりを“引越し”させた《やどかりに「やど」をわたしてみる》シリーズも効いている。環境に適応しながら変身する姿が、「私を着がえるとき」というタイトルに呼応する。循環するように楽しめる展覧会だ。

AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる》2009年-(進行中)

取材・文・撮影:白坂由里

<開催概要>
『LOVE ファッション−私を着がえるとき』

2025年4月16日(水)~ 6月22日(日)、東京オペラシティアートギャラリーにて開催

公式サイト:
https://www.operacity.jp/ag/exh285/


■『LOVE ファッション−私を着がえるとき』展示風景の動画はこちら

フォトギャラリー(18件)

すべて見る