太田省吾の名作二人舞台『更地』が十三人(?)芝居へ――演出・荒井遼が独自の着想をめぐらし仕掛ける新たな世界に夫婦役で挑む和田琢磨×北村優衣が意気込みを語る
ステージ
インタビュー
左から北村優衣、和田琢磨 (撮影/藤田亜弓)
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5月16日(金) 〜18日(日) 、吉祥寺シアターにて『更地』が上演される。劇作家・演出家の太田省吾によって1992年に初演が行われたこの演目は、今もなおさまざまな形で上演され続けている名作。今回は海外戯曲の演出経験豊富な荒井遼のもと、ストレートプレイから人気アニメの舞台化作品まで幅広く活躍する和田琢磨と、映画やドラマでも注目を集めながら舞台でのキャリアも重ね続けている北村優衣の二人に作品について話を聞いた。
※新たなキャストを加える構想はインタビュー時点では決定していなかったため、二人芝居を前提にしている内容となっている部分があります。
──いちばん最初にこの『更地』のお話が来たときはどう思われましたか?
和田 実は演出の荒井遼さんとはもう6、7年前からの仲なんです。お互いの公演を観たり一緒の作品に参加したりと交流を重ね、「いつか一緒に舞台をやりましょう」という話が実現して今回の公演になりました。ただ、実は最初は違う作品で企画を進めていたんですよ。
北村 え、そうなんですか?
和田 そう。でもある日、荒井さんから「ずっと考えていたんですが、この作品はどうですか?」とぽんと送られてきたのが、この『更地』でした。「和田さんも今までやったことがないようなものだし、僕にとっても挑戦になると思うので、読んでみてください」と言われて読んでみたんですけど……、最初は全然意味がわからなくて(笑)。ただ、信頼している荒井さんが僕と一緒にこれをやりたいと考えてくださるのなら、彼の感性に賭けてみようと思ったのが最初です。
北村 私は、二人芝居というところにまず惹かれました。未経験でしたがやってみたいなと思っていたのでお受けしました。いざ脚本を読んでみたら「荒井さんは私の何を見てこれが合うと思ったんだろう?」と疑問が浮かんで、まずそれを伺ったんです。すると「北村さんは挑戦するのが好きでしょう? この作品もいい挑戦になると思って」とおっしゃっていただいて。その思いに応えられるといいなと思って日々稽古をしています。

──稽古場の雰囲気はいかがですか?
和田 毎日楽しくやってます。
北村 ずっとおしゃべりをしています。芝居に関する話から派生して、ぜんぜん関係のない雑談を1時間くらいしていることもけっこうあります。最終的に演出の荒井さんが「それも活かせるといいね、取り入れちゃおうか」と作品につながることも。
和田 ひと組の夫婦が長年住み慣れた家が解体されたあとの更地を訪れ、かつての暮らしを回顧する物語なんです。だから、荒井さんも含め、それぞれの生活の話をよくしているんですよ。
北村 その中で先日、和田さんと荒井さんが朝型、私が夜型ということが判明しまして。だから今日は頑張って9時半に起きて焼きそばを作って食べてから来ました! この取材できちんとした生活をしていることをお伝えできてよかった(笑)。
──そのお話を聞けてよかったです(笑)。では、毎日のように自分たちの話をされているわけですね。
和田 今回は荒井さんが自分なりの『更地』を表現したいと、さまざまな試みをしています。脚本にないセリフを足してみようとか、出てこない役柄を登場させてみようとか(詳しくはインタビュー最後の演出・荒井遼のコメントをお読みください)。そのひとつとして、自分たちの実体験を組み込んでいけたら面白いんじゃないかというのもあって。だからこの稽古場では、雑談が雑談以上の役割を持っているんです。

お客さまと共につくりあげていくために
──お二人とも最初に脚本を読んだときは難しさを感じたり、「なぜこれを私に?」という思いを抱いたりしたとのことですが、そこから稽古を重ねて今作に対する印象はどう変化していますか?
北村 まさに更地、何もない場所から構築していくこの物語からは、虚しさと同時にどこか温かみも感じています。この虚しさと温かみをどうやって舞台上に同時に存在させられるかは、とても挑戦のしがいがあるなと思います。

和田 僕の中では最初、この作品はすこし冷たい印象がありました。でも北村さんが話されたようなやわらかさを、最近の稽古では感じています。ただ自分たちの住んでいた家がなくなった悲しみだけではないんだな、と。ですから今回、僕の中では「表裏一体」がテーマです。「悲しい」の隣には「嬉しい」、「寂しい」の裏には「楽しい」がある、そういった物事の二面性が見え隠れするのが僕らなりの『更地』なんじゃないかと考えていますし、そこをお客さまにも感じていただけたらなと思っています。
北村 作品自体に余白が多いので、演出家や役者によって同じ戯曲でもぜんぜん違うものになるでしょうし、お客さまがどう受け取るかも自由度が高いと思うんです。あらゆる料理があるのに禅寺での精進料理を求める人がいるように、こんなにも便利なものが身の回りに充実している今だからこそ、何もない不自由さに憧れる面ってありませんか? そういう日常とのギャップを楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。
──お二人にとって『更地』に取り組むことは挑戦だと思いますが、今作を通じてどんなことを成し遂げたいですか?
北村 荒井さんから「これまでやってきたお芝居とは違った吐き出し方を観たい」とお話しいただいていて、今はそこを模索しています。今後も舞台を続けていきたいと思っているので、今作で新たな舞台表現を身につけられたら。
和田 沈黙や無音を恐れずに、自分の表現のひとつにできたら嬉しいです。沈黙でお客さまを引っ張ることができたらと思います。

──最後に、お客さまに向けてのメッセージをお願いします。
和田 『更地』は細かい設定があるわけではない作品です。男女が自分たちの生活していた場所にやってきて、そこに住んでいた頃を思い出してその思い出に浸る。その二人が実際に生きているのかどうかも、はっきりとはわかりません。浮世離れした瞬間も、生々しい部分もあります。その分、お客さまと一緒に作っていけることがこの作品の魅力のひとつだと思うので、そこを楽しんでいただけたらと思います。
北村 「この作品は人類の話でもある」と荒井さんがおっしゃっていて。そんな壮大なことも担っている夫婦なので、「今のセリフが心に残るな」という部分が多々ある作品になっていると思います。……こういうとき、どう伝えたら観に来てくださるんでしょうね。
和田 難しい。『名探偵コナン』の映画にはあんなにお客さまが来るのになあ(笑)!
北村 「最後、衝撃のラストが!」とか言ったら来てくださるのかな。衝撃のラストかどうかはお客さまに委ねられていますが、何かしらこちらからお渡しするものは必ずある作品なので、ぜひふらっと観に来てくださったら嬉しいです。

取材・文/釣木文恵
撮影/藤田亜弓
◆荒井遼 コメント
太田さんの『更地』を読んだ時、色々な気持ちが湧いてきました。
『更地』に想を発し、和田さん、北村さん、子供たちと自由に創作をしました。
今回の上演は一本の糸ではなく、沢山の話が混じる、より糸になっています。
和田さん、北村さんは更地から時空を旅します。
ぜひ、劇場においでください!
<公演情報>
『更地』
日程:2025年5月16日(金)〜18日(日)
会場:吉祥寺シアター
[作]太田省吾
[演出]荒井遼
[出演]和田琢磨 北村優衣
浅井みすず 市川晃子 河田実樹 桑原葵 滝澤このみ
中島優衣 野口大暉 堀江美菜 松原一栞 美濃部こな 山崎佑登
[声の出演]土居裕子 大森博史
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/sarachi/
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