【NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント特別企画】「160kmの剛速球を投げて、打たれたら仕方ない」日野剛志(静岡ブルーレヴズ)
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日野剛志(静岡ブルーレヴズ) 撮影:本美安浩
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すべて見る日野剛志は10年前と似た雰囲気を感じていた。35歳となったHOは『NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25』を戦う静岡ブルーレヴズに、2015年2月28日『第52回 日本ラグビーフットボール選手権大会』を制したヤマハ発動機ジュビロがまとっていた空気感を感じ取っていたのだ。
「今のチームのいいところはもし試合に出られない選手がいても、出られないなりにチームに貢献しようとしている。試合に出られないのだから何もしないのではなく、1週間の過ごし方でも出るメンバーは責任を果たし、出られないメンバーは相手の分析をして練習で態度を示す。たとえ自分が出られずに誰が出ても応援するし、自分が出たら『活躍してやろう』という日本一の時と同じようにチームファーストのマインドがあります。チームの勝利のためにがんばるし、もし出るチャンスがあれば『活躍してやろう』といういい雰囲気でシーズンを戦えているので、チームが勝つためにひとつの方向を向っていられると思います。」
日本一となったヤマハは『ジャパンラグビートップリーグ』でも2018-2019シーズンまで優勝争いを繰り広げた。しかし、コロナとの共存の中戦った『トップリーグ2021』は低迷、2022年にスタートした『NTTリーグワン』から3季連続8位に甘んじた。しかし、昨季終盤から日野は手応えを感じていた。
「3シーズン8位だったけど、昨シーズンの終わり頃から若手の成長だったり、ハードワークする雰囲気だったり、昔日本一になってベスト4に5年連続くらい入っていた時に『似てきたな』と思っていました。ただ結果は出てなかった。雰囲気が似てきて、手応えも感じていて、『実際どうなんだろう』という中開幕して、一戦一戦自信が付いていった感じがします」
静岡BRと言えば、これまでも上位陣に勝ち切る一発の強さを有しながら、ミスから自滅したり、下位を相手に取りこぼしたりするなど、時折勝負弱さが顔を覗かせていた。しかし、今季は開幕3連勝を飾り、5連勝フィニッシュするなど14勝4敗の4位に浮上した。今季の一貫性はどう育まれたのか、日野はふたつの理由を挙げた。
「大きくふたつ理由があって、ひとつは80分間戦えるフィジカル、持久力、身体をプレシーズンに作ってきたのが大きい。プレシーズンにどのチームよりもハードな練習を積んできたので、身体も精神面も鍛えられて、『80分間戦い切れる』『逆転されない』という自信とそれに裏付けされたフィジカルが手に入れられたこと。
もうひとつは若手の成長や新戦力が台頭し、15人ではなく、23名誰が出ても力を落とさず80分間戦えるようになったこと。それが大きい要因です。数年前だとなかなか交代できずに逆転されるという状況が何度もあったけど、今は若手が出て活躍するといういいサイクルに入っているので、その2点が大きいと思います」
4月12日『NTTリーグワン2024-25』第15節の2度目の東芝ブレイブルーパス東京戦は強烈なインパクトを残した。第5節・28-34で敗れた借りを返そうと目論んでいた王者を前半から26-0と圧倒、合計8トライを叩き込んで56-26と返り討ちにしたのだ。しかも、キャプテンであり、世界屈指のボールハンターとして知られるNO8クワッガ・スミスが不在にもかかわらず、ブレイクダウン、セットピースとすべての局面で王者を圧倒したのだった。
試合後の日野は「本当に『会心の一撃が出たな』というようなゲーム。今シーズンのいい時のレヴズを象徴するようなゲームだったと思います。東芝さんとうちはカラーが似ている部分があるので、前回勝たせてもらったので、今日は絶対くるというのがわかっていた。前回勝ったから受けに回るのではなくて、あくまで自分らが下なので、『もう1回パンチを打ちにいく』『フィジカルな部分では絶対に負けちゃだめ』という部分だけは意識してました。クワッガがいないのとか関係なく、いようがいまいが、チームとしてフィジカルの部分で『絶対負けちゃいけない』という話をしていたので、そこが前半いい入りができた要因だったかなと思います」と圧勝に自信を深めていた。
会心の一撃から1か月経った今、日野は次の対戦を警戒していた。
「あの勝利は自分たちの自信になるゲームでした。ただ相手も次やる時は同じようにやられないように対策してくると思う。ラグビーはメンタルなスポーツで、あの時東芝さんはプレーオフが決まっていたので、油断はしていないと思うのですが、心の隙が15人の内のひとりでもあると、ソフトな時間帯が出てしまうので、それがどこかにあったのでは。
そう思うくらいがちょうどいい。相手を恐れすぎる必要はないが、僕らは楽観視できる立場ではないので、相手がどこだろうと、目の前の試合を120%勝ちにいってという方が今の勢いのままいけるのかなと思います。『先を見ずに、目の前の試合に集中しよう』とよくチーム内で言っています。あと4試合しかないので、今まで17試合やってきて、いい時も悪い時もあって、自分たちのプレーをすれば相手は関係ないという自信を持っているので、自分たちフォーカスで自分たちらしいプレーをする。あまりごちゃごちゃ考えると、いいプレーができないので、自分たちらしく、シンプルに勢いのままという方が相手も怖いと思います」
18試合を戦い抜くリーグ戦も一発勝負のプレーオフも、あくまで自分たちにフォーカスするだけだと日野は続けた。
「自分たちの強みを出せるか出せないか、強みを出す時間をどれだけ長くするかだと思います。1年間リーグ戦を戦ってきて、前身のヤマハ発動機ジュビロの時から変わらないセットプレーと藤井(雄一郎)監督が来られてからのどこからでもアタックするマインドやスキルを使ったアタックはどんどん強みになり勝ち上がってきたので、それを出すことに注力します。その強みを出すことができれば、どこが相手でも関係なく結果が付いてくると思うので、先を見据えるのではなく、目の前の一戦一戦ただただ強みを出すことに注力すれば、自分たちのラグビーをすれば結果を付いてくると思うので、ただ強みを出すだけ」
10年前日本一になった時からスクラムを武器としてきた。ヤマハの、そしてレヴズのスクラムを鍛えてきた長谷川慎ACと田村義和AC。長谷川ACは日本代表やサンウルブズでスクラムコーチを務め、各チームの代表選手にレヴズのスクラムの強さの秘訣を共有してきた。それでもなお、レヴズのスクラムはこうまで強いのか。
『NTTリーグワン2024-25』最終節の2日前の練習でその一端が伺えた。5月8日、全体練習を終えても、日野を中心にFW陣が入念にスクラムの確認していたのだ。そして最後まで個人練習に汗を流していたのは日野らフロントローだった。試合前だからではない、日々の練習で日野はPRとのスクラムの確認を怠らない。必要に応じて、セカンドロー、サードローも含めて、スクラムをチェックする。この日は何を調整していたのか。
「僕たちは8人で組みたいので、8人の力をどう相手に伝えるのか確認していました。足の位置や腰の位置の確認。1週間で筋量が上がって、パワーが上がるわけではないので、今持っているパワーを100%伝えるための体の位置やポジショニングの確認をチェックしていました。毎回練習前にフロントローが集まって常にスクラムを確認してから練習に入ります。必要であればLOを呼んだり、3列目を呼んだりして」
日々の確認こそが静岡BRのHOの責任だと言い切る。
「知らず知らずのところでアライメントがズレたりするので、確認は必要ですね。それがスクラムの強さの秘密かもしれない。合わせるのがフロントローの責任。次の練習までに合わせてなくてはいけないので、もし確認を怠れば責任を果たしていないことになります。
チームとしてスクラムを突き詰めているので、アップデートはしていますが、根幹の部分が変わらず、メンバーが変わっても突き詰めています。それはチームの文化として大事にしているので、試合に出ているメンバーは体現する責任があるので、チームの文化になっている結果だと思います」
もうひとつの武器であるモールへのこだわりも明かした。
「ベストは全員で押してトライするのがベストですが、大事なのはしっかりチームとして押すことと、相手も止めるために集まっているので、どこが空いているのか確認すること。ボールを持つ者としてきょろきょろ周りを見て目を配るようにして、確実にいけるという時以外はいかないようにしています。大事に大事にいっているつもりです。みんなが一生懸命押してくれているので、責任がある。取れる時は必ず取り切ろうという気持ちではいます。一番前が一番きついので、自分たちの強みで取れるか取れないかでゲームの流れが変わってきてしまうので」
プレーオフ初出場の静岡BRは一発勝負の勝ち方を熟知しているわけではない。対して前年王者のBL東京、2022-23季覇者・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、2022季優勝・埼玉ワイルドナイツには他のチームと異なる勝負強さがあると日野は感じていた。
「試合すると感じます。彼らは常に強い、安定して強い。リーグ戦でもどっちが勝つかわからないゲームになるし、簡単に勝たせてはくれないチームです。チャンピオンのプライドなのか、チャンピオンになった経験なのかわからないけど、彼は最後の一発勝負の戦い方を知っているので、リーグ戦よりもさらに強敵だろうなと想定しています」
では、静岡BRはどう戦うのか。日野はスクラムとモールで対抗するつもりである。
「どんなスクラムを組むかわかっているはずなのに、『レヴズのスクラムは強い』と言われているが、それが強みだし、苦しい時に最後に立ち返ることができるのが強みだと思う。相手がどこだろうと僕たちが立ち返るのは絶対にそこ、そこで力を発揮すれば流れはこっちにくるので、そうやって10年前も勝ったので、そういうところまできたと思っています。
苦しい時に敵陣にいってモールから1本取るとか。(第16節)横浜キヤノンイーグルス戦がそうでした。0-21で苦しかったんですけど、敵陣に入って1本取って、前半の内にもう1本取って。モールって、がんばって押せば取れるので、自分たちの強みなので。前半苦しんだけど、モールで2本取って点差を縮めて、ハーフタイムで頭を冷やして、後半力を発揮できる時間がきたので(最終的に38-28の逆転勝利)、僕らには困った時に立ち返るものがあります。そういう風に戦っていければいいなと思います」
コベルコ神戸スティーラーズと2週連続で戦うとか、BL東京が3連敗を許さない強い気持ちでくるとか、そんなことは関係ない。日野はあくまで静岡BRらしく真っ向勝負を挑むとキッパリ。
「1試合1試合楽しみながら、目の前の試合を思い切りいくだけ。何か特別なことをやろうとしたり、スペシャルなものを用意して、本来のプレーができなくなる方が、相手もやりやすいと思う。そもそもそんな器用なチームではないので、今の勢いとやるべきことにフォーカスして、160kmの剛速球を投げにいって、それで打たれたら仕方ない。チャレンジャーとして、そういうマインドでいった方が相手も嫌だと思います」
取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)
撮影:本美安浩
取材日:5月8日
静岡ブルーレヴズ対コベルコ神戸スティーラーズ NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25 プレーオフトーナメント 準々決勝1のチケット情報
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11027034
NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25 プレーオフトーナメントの特設ページ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558701
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