【NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント特別企画】「SOとしていかに勝利にコミットするか」髙本幹也(東京サンゴリアス)
スポーツ
ニュース

髙本幹也(東京サンゴリアス) (C)東京サンゴリアス
続きを読むフォトギャラリー(3件)
すべて見る髙本幹也は飢えている。勝利に、そしてラグビーそのものに。東京サンゴリアスの若き司令塔、24歳のSOはとにかくハングリーだ。その飢餓感こそが『NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25』プレーオフトーナメントを戦う上での原動力となる。
「ここまで来たら、どこが相手でも関係ないです。一戦一戦、とにかく勝利を目指す。SOとしてその勝利にいかにコミットするか、だけを考えています」
勝利に飢えているのは,今季のチーム成績を見れば明らかだ。開幕から連敗と引き分けが続き、4試合連続勝ち星なし。その後にやっと勝利を掴み、一度は白星が先行するものの、3月には3連敗でまたも借金生活。最終的には8勝8敗2分の勝率5割で6位に滑りこみ。プレーオフ出場権こそなんとか掴んだものの、出場枠が昨季までの4から6に増えていなければ、ここでシーズンが終わっていたことになる。
常々、「チームの勝利にも敗戦にも影響するのがSOというポジション」と語る髙本にとって、勝ち星と同じだけ負けてしまったことは、フラストレーションの溜まる日々だった。
「『リーグワン』に入って、こんなに負けたのは初めての経験でした。当然、落ち込みましたし、自分の実力のなさを感じたというか、少し自信を失いかけた時もありました。でも、10番が自信なくプレーをすれば、それは周りにも影響する。なんとかがんばろうと自分を奮い立たせる日々でした」
大阪で過ごしたジュニアラグビー時代からSOとして試合に出続け、チームの勝利にコミットすることが当たり前、という価値観を培ってきた。そんなSOというポジションの醍醐味を髙本はこう話す。
「ボールに触る回数が多いからこそ、自分が触ることで何かができる、という面白さがあります。そして、チームをドライブする役目なので、勝った時はすごくうれしい。逆にチームが負けている時、苦しい時は、何が悪いのかを見極め、自信のある判断をしてチームをいかにドライブさせるか。そこがSOの大変さですね」
高校時代は大阪桐蔭の「冬の花園」初制覇に貢献。その後に進学した常勝・帝京大学でも『大学選手権』連覇の立役者として、まさに勝つ術を知る選手だ。だからこそ、本来は経験と実績が求められるSOというポジションにもかかわらず、東京SGでは2023-24シーズン、ルーキーながら開幕からプレーオフまで全試合で10番を背負ってチームを3位へと牽引。個人としても得意のキックで得点を重ね、得点ランキングでは堂々3位にランクイン。文句なしで新人賞も受賞した。
的確なゲームメイクと左足から繰り出す正確なキックで、チームを前へ前へと押し進めるプレーが信条。キックの正確性と飛距離はリーグでも随一で、今季ディビジョン1の「キックインプレー数」と「キックでのゲインメーター数」は、どちらも埼玉ワイルドナイツのSO山沢京平と1・2位を争い続けた。さらに、昨季の1トライから今季は5トライとフィニッシュ部分の力強さもアップしている。
「サンゴリアスはアタックのチームなので、常にオプションをたくさん持ちながら、その中で一番良いオプションを選択してゲームコントロールする。そのオプションを増やすためにも、自分自身もパスだけじゃなく、しっかりランで勝負しないといけない。ランはすごく意識していますね。世界で活躍している10番の選手は、ゲームコントロールだけでなく、自分でしっかりゲインしてチームを前に持っていく力があると思うので、もっともっとがんばっていきたい部分です」
入団時から取り組んでいるディフェンス強化もしかり。選手個人としては明らかに伸びている。だが、それがチームの勝利に結びつかない。これほどもどかしいことはなかったはずだ。その要因を髙本本人に訊くと、ディテールの部分で同じ絵を描けていなかった、と分析する。
「サンゴリアスのモットーである『アグレッシブ・アタッキング・ラグビー』を遂行するためには、さまざまなディテールを詰める必要があります。今季序盤はとくに、そのディテールでちょっとしたズレがあったのかもしれません。そこを埋めるため、短い時間でも小さなコミュニケーションを欠かさないよう、練習でも試合でも意識しました」
その成果が実ったのは4月5日の第14節・三重ホンダヒート戦。シーズンを通して「22mライン内には入れるのにそこから最後が詰め切れない」と課題を口にしてきたチームは、今季最多の10トライを上げ、60得点と圧勝。この試合まで平均28点のチームは4月以降、平均35点と得点力がアップした。
「アタックはプランも明確になり、どこでどうやってトライを取るのか、しっかりみんなが意思疎通できるようになって、自然と得点する回数も増えたのだと思います。とくに『22mラインに入ってからしっかりスコアしよう』というのは練習でも意識してみんなで口にしてきましたから。最後に取り切る我慢強さもシーズンを通してより高まってきましたね」
髙本幹也は飢えている。ラグビーに、そしてSOでプレーすることに。昨季、ルーキーながら全試合で10番として先発出場した男は、今季第16節からの3試合は22番を背負い、試合途中から攻撃のタクトを振るうことを求められた。
それは、試合終盤に劣勢に立たされた際、リズムを変える術が足りないチームの荒療治でもあった。だが、これまでほとんどの試合でフル出場してきた髙本にとって、10番を任せてもらえないこと、出場時間が減ったことに、やり切れない気持ちも確実にあった。
「10番からリザーブになったことは『悔しい』というのが率直な気持ちです。10番で試合に出るのは当たり前じゃないと改めて実感できましたし、この悔しい気持ちをモチベーションにがんばりたい。それに、22番になってもチームのためにやることは変わらないです。試合メンバー23人でワンチーム。ゲーム後半から試合に出て、どれだけチームに、勝つことにコミットできるか」
10番で出る際は、チームの象徴的選手であり頭脳と言えるSH流大と試合序盤から綿密なコミュニケーションと連携を重ね、攻撃を組み立てることが役目だった。だが、22番として出るようになった今季終盤は、アタッキングマインドの強いSH福田健太とともに後半に登場し、チームのマインドごと「もっと前へ」という姿勢を打ち出そうと努めている。
「10番としてプレッシャーも多い中で試合に入っていた時と比べると、試合を外から見る時間が多いので相手の特徴がしっかり見ることができる。『何が上手くできていて、何が上手くいっていないか』もよくわかります。健太さんとも前半からしっかり状況を確認し合い、自分たちが出た際は『いいパフォーマンスが出せているのかな』という点は自分でも評価しています」
もちろん、リザーブならではの難しさも学びつつ、改めてSOとしての引き出しを増やしているところだ。
「さまざまな選択肢がある中で、ベンチにいると正しい判断をしやすいですけど、グラウンドの中に立って、プレッシャーがあって時間のない状況でとなると、正しい判断をすることはやはり難しいなと感じます。ゲームコントロールは毎試合同じシチュエーションは起こり得ないからこそ、試合を通して勉強させていただいていますね」
プレーオフで髙本が10番に戻るのか、それとも後半からのリズムチェンジャーになるのか。どちらの選択肢もあり得るが、それはシーズン終盤までなかったサンゴリアスの新たな武器であることは間違いない。
迎える『NTTリーグワン2024-25』プレーオフ初戦、5月18日(日)の準々決勝で対峙するのは、3位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。今季の直接対決は1敗1分。昨季は1勝1敗でイーブンに終わるなど、ここ数年は一進一退の戦いを演じる好敵手だ。
1か月前、4月13日の第15節の対戦では10-30のスコアで完敗。この時は10番として先発出場した髙本自身が「あの試合はいいゲームコントロールができなかった」と振り返る悔しい一戦であり、この試合以降、22番をつけることになった因縁のカードでもある。SOとしての存在意義を示すため、これ以上にモチベーションの上がる相手はいないだろう。
もうひとつ、髙本にとってモチベーションの上がる要素は、プレーオフ初戦の舞台が東大阪市花園ラグビー場であること。大阪で生まれ育った高本にとって、地元の思い出深いグラウンドでもある。
「花園で試合をする時は、自分の家族や友人はもちろん、通っていたラグビースクールの子どもたちが見にきてくれます。その声援は後押しになるし、後輩たちにいい姿を見せたい。『あの先輩みたいになりたい』と憧れられる選手でいたい、というのはひとつのモチベーションになります」
SOとして見据えるプレーオフの戦い。改めて、今のチームに必要なことは?
「短い期間で新たな課題を克服できるか、というと正直それは難しい。やっぱり自分たち『サンゴリアスらしいラグビー』にフォーカスしてプレーオフは戦っていきたい。その『らしさ』を出しきるためには、ブレイクダウンでの“規律”ですね。規律が乱れると、どんどん相手にペースを与えてしまう。23人全員が規律正しく、というのがプレーオフでは大事になってくると思います」
今季の戦いぶりも踏まえ、プレーオフでのサンゴリアスの下馬評は正直、高くない。その劣勢を跳ね返すには、ベストな状態の髙本が不可欠だ。とくに、自陣から一気に得点チャンスを生み出すビッグプレー、自陣から蹴り出して22mラインより奥にバウンドさせて出す伝家の宝刀「50:22」が決まれば、スタジアムの空気も一変させる可能性を秘めている。
「50:22の時は、蹴る前に何かが見えるというか、蹴った後のバウンドもなんとなくわかる感じがするんです。そういう時は50:22が成功している気がします」
6位からの下剋上を目指す東京サントリーサンゴリアスにとって、SO髙本幹也の打開力は必要不可欠。歓喜に飢えるサンゴリアスファンは、今こそ髙本が本領を発揮する瞬間を待ち望んでいる。
取材・文:オグマナオト
取材日:5月8日
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ対東京サンゴリアス NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25 プレーオフトーナメント 準々決勝2のチケット情報
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11027037
NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25 プレーオフトーナメントの特設ページ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558701
フォトギャラリー(3件)
すべて見る