【NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント特別企画】「府中にまた優勝トロフィーを持ち帰りたい」リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)
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リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京) 撮影:スエイシナオヨシ
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ゆったりとした闘志、との表現がふさわしいだろうか。
『リーグワン』史上初の連覇に挑む東芝ブレイブルーパス東京のNO8リーチ マイケル主将は、年間王者を決める『NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25』プレーオフトーナメント準決勝を前にしても、落ち着きと余裕を感じさせる。4度の『ラグビーワールドカップ』をはじめとするビッグマッチを国内外で戦い、昨シーズンのプレーオフを制して14年ぶりの日本一に輝いた経験が、36歳の心にゆとりをもたらしているのだろう。
BL東京は『NTTリーグワン2024-25』レギュラーシーズンを15勝1分2敗で駆け抜け、首位で2年連続のプレーオフ進出を決めた。チームにはSOリッチー・モウンガとFLシャノン・フリゼルの2023年『ラグビーW杯』ニュージーランド代表コンビがいて、HO原田衛、LOワーナー・ディアンズ、WTBジョネ・ナイカブラ、FB松永拓朗の日本代表がいる。『リーグワン』有数と言っても差し支えないタレントを束ねるのが、日本ラグビー界のアイコンでもあるリーチなのだ。
5月24日(土)に行なわれるプレーオフ準決勝の対戦相手は、コベルコ神戸スティーラーズに決まった。レギュラーシーズン5位の神戸Sが、同4位の静岡ブルーレヴズを退けたのだった。
「どっちが来てもいいような準備はしていた」
4位の静岡BRには、レギュラーシーズンで2敗していた。「プレーオフでリベンジを」というモチベーションはあったはずである。5月8日の囲み取材でも「静岡と対戦したいか」と聞かれたが、リーチははっきりとは答えていない。
対戦相手が決まり、その理由を改めて明かす。
「プレーオフはトーナメントだから何でも起こるし、負けたら終わり。その時の調子がどうなのか、というのもある。一番大事なのは、自分たちが何をやらなきゃいけないのか。その一点にフォーカスしています」
神戸Sにはレギュラーシーズンで2勝している。『リーグワン』移行後は、一度も負けていない。直近の対戦では、73-26で大勝している。
それでも、歴戦の勇士は表情を緩めない。
落ち着いた口調で語る。
「過去の対戦成績は、そこまで考えないですね。プレーオフでは相手がやってくることも違うだろうし、プレーのインテンシティも、選手にかかるプレッシャーも変わってくる。メンタル、身体、チームの戦術のすべてを100%の状態で臨まなきゃいけないのは、どの相手でも同じ。どうやって自分たちの強みを出して、どうやって相手の強みを消すか。自分たちの強みを出しながら、対神戸の勝ち方をしっかり突き詰める。そこに集中します」
神戸Sを想定したゲームプランとは?
「間違いなくフィジカルの部分はポイントになります。神戸Sの試合を見ていると、ラック周りの精度、スティールにすごく力を入れているので、そこにどう対応するか。自分たちがドミネートできる状態を、工夫して作れるかどうかが大事です」
レギュラーシーズンのBL東京は、PGからの得点がわずかに3本だった。確実に3点を狙える位置でペナルティを獲得しても、キックを選択せずにスクラムやラインアウトからトライを狙いにいった。 「スタジアムで試合を観に来てくれる人たちに、ブレイブルーパスの面白いアタックを見せたい。いいラグビーを見せたい」という思いを出発点として、チームの強みを最大値まで引き出してきたのである。
「このチームはたくさんの武器を持っています。(セタ・)タマニバル、シャノン、リッチー、松永、森(勇登)、ナイカブラ、(ロブ・)トンプソン、ワーナー……決定的な仕事ができる選手が、ホントにたくさんいる。自分たちの武器をどんどん使って、アタックを継続していく考えを示したいと思っていました」
プレーオフではどうするのか。
リーチは「その時、その時で」と言う。
「レギュラーシーズンと同じように、トライを取りにいくのは前提としてあります。強気でトライを取りにいくのは大事だし、ペナルティキックで点数を取っていくのも大事。そこはスコアとか、試合展開を考えて、ケース・バイ・ケースで対応していきます」
どのエリアからもトライを狙っていくにせよ、PGでスコアを刻むにせよ、彼らのDNAが揺らぐことはない。チーム内で「KBA」と言われるKeep The Ball Alive──ボールを生かし続ける、つないでいく、というマインドだ。
その有効な手段となっているのが、オフロードパスである。タックルを受けながらボールをつなぎ、攻撃を継続しつつ相手ディフェンスをこじ開けていく。
「自分たちの強みとして、一人ひとりの選手が突破力を持っていて、ひとりの突破で終わることなくオフロードも使ってつないで、ゲインしてどんどんディフェンスにプレッシャーをかけていく。それは年間を通してやってきたので、プレーオフでも継続したいと思います」
オフロードパスの本数では、トンプソンがリーグ1位、タマニバルが2位、モウンガが3位と、BL東京勢が上位を独占している。個々の選手がタックルをされてもパスをつなげられるフィジカルの強さを備えており、チームとして大きく前進をしたり相手の守備を混乱させたりできているのだ。
「ブレイブルーパスはもともと立ってつなぐチームで、それがブレイブルーパスらしさであり、自分たちのDNAです。どんなディフェンスをされても、オフロード1本で試合は決まる。良くないオフロードも判断できるようになってきたし、選手一人ひとりのクセも分かってきた。勇気を持ってやり続けたいと思います」
『NTTリーグワン2024-25』プレーオフに準決勝から出場するBL東京は、レギュラーシーズン最終節の5月10日から休養週を挟んでの試合となる。それに対して神戸Sは、第16節から休養週なしでの5連戦目だ。フィジカルコンディションではBL東京に分があると言えそうだが、神戸には上位の静岡BRを倒してきた勢いがある。
それでは、プレーオフの経験はどうか。BL東京が2シーズン連続3度目の出場に対して、神戸Sは初めての出場である。リーチ率いるBL東京に、アドバンテージがある。
「昨シーズンのプレーオフを経験して、優勝しているのはすごく大きい。それから、今シーズンはチームとしてほぼ同じメンバーで戦ってきたから、いい場面もキツい場面もすべてチームとして経験している。レギュラーシーズンですべて勝ってここまできたわけじゃなくて、負けも経験している。自分たちがなぜ負けたのかをしっかり理解したうえで、試合に臨めるのは意味があると思いますね」
自身のパフォーマンスに目を移せば、その足跡は力強くて頼もしい。レギュラーシーズンが昨シーズンより2試合増えて18試合となったが、開幕節から最終節まで「8」を着けた。フル出場は実に16試合を数える。「すべての試合でベストメンバーを送り込む」というのがチームの基本姿勢だが、チーム最多の出場時間を記録したのはそれだけコンディションが良かったからだろう。
「自分の役割だけにフォーカスしています。あとは、若手にプッシュされています」と話すが、若手や中堅選手は圧倒的な練習量に大いなる刺激を受けている。リーチ マイケルという存在がチームの底上げを促し、スタンダードを上げているのだ。
フリゼルもその姿勢を高く評価する。
「毎日の練習では、まるで20歳のようにプレーしています。ハングリー精神を持って、周りの選手と競い合おうという気持ちで臨んでいる。タックルのスタッツも一番上ですし、年齢が彼のプレーに影響することもない。ビールもたくさん飲みますしね(笑)」
リーチ自身は「この年齢で特別なことをやろうとは思っていないし、やりたくてもできない」と笑う。「特別なことはリッチー、シャノン、ワーナーに任せています」と続け、「タックル、ボールキャリー、ラインアウト、スクラム、モールと、自分の仕事を淡々と、精度よくやりたいなと」と結ぶ。
スタッツで目を引くのはタックル数だ。タックル成功数269回はリーグトップで、ベストタックラー賞を初受賞している。
受賞決定以前の取材対応時点で、タックル数はリーグトップを快走していた。それでも、「僕にとってはまだまだ足りない。数は多いけど、一番意識したいのはドミネートタックルなんですね」と話している。
相手を仰向けに倒すドミネートタックルを決めることで、ターンオーバーやスティールのチャンスが生まれる。それによって、相手の勢いを止め、自分たちの勢いが増す。リーチのタックルが、試合の流れを変えるのだ。1本のタックルに勝利への意欲を込めて、チームを鼓舞するのだ。
「勝ちたいという意欲を、身体で表現することが一番でしょう。もう何としても勝ちたいんだ、という意欲があれば、連覇できると思います」
記憶に刻まれた景色がある。
「(埼玉)パナソニック(ワイルドナイツ)との去年のプレーオフ決勝には、5万6000人を超える観客が集まってくれて、そのなかでブレイブルーパスが14年ぶりに日本一になった。試合内容もどちらが勝ってもおかしくないもので、レフェリーもすごく良くて、素晴らしい決勝戦でした。あの試合を国立で観た人は、たぶんすごく楽しかったと思うんですよ。そのあとに同じ国立競技場で日本代表とイングランドの試合があったけど、『リーグワン』決勝の方が観客が多かった。そのギャップをすごく感じました(笑)」
チーム内で「ONE Lupus」と呼ぶBL東京のファンに対する思いは強い。練習拠点を置く府中のみなさんのサポートにも、感謝の気持ちを抱く。
「ブレイブルーパスのファンはベスト。日本のどこで試合をしても、いつも一緒にいてくれる。そこまで深くサポートするのは簡単じゃない。応援の力はものすごく感じます。だから……」
リーチは少し、間を置いた。瞼に焼き付いた光景を、思い返すように。
「最後に国立競技場を満員にして、また優勝したいと思います。あの光景は、ホントに忘れられないので。府中にまた優勝トロフィーを持ち帰りたい」
今年もあの場所で、歓喜の雄叫びをあげるために。5月24日(土)の秩父宮ラグビー場から、リーチとBL東京の野心溢れるチャレンジが始まる。
取材・文:戸塚啓
撮影:スエイシナオヨシ
取材日:5月19日
NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25 プレーオフトーナメントの特設ページ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558701
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