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新たな『我ら宇宙の塵』をロンドンで――『Our Cosmic Dust』作・演出・美術、小沢道成インタビュー

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小沢道成 (撮影/下家康弘)

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2023年8月の初演で大きな注目を集め、第31回読売演劇大賞では優秀作品賞、優秀演出家賞、最優秀女優賞の3部門を受賞したEPOCH MAN『我ら宇宙の塵』。パペットとLEDディスプレイによる映像テクノロジーを用いてアナログとデジタルをかけ合わせ、宇宙の中で生きる人々と、彼らが経験した喪失を描き出した。新鮮な驚きと感動がいまなお蘇るこの作品が、6月6日(金) から7月5日(土) まで、『Our Cosmic Dust』としてイギリス・ロンドンのPark Theatreで現地キャストにより上演される(※6月2日(月)〜5日(木) にはプレビュー公演も)。この作品のこと、ロンドン公演のこと、そしてその後に控えるオリジナルキャストでの国内ツアーについて、作・演出・美術を務める小沢道成に聞いた。

2023年の話題作がロンドンでロングラン公演

一体のパペットと5人の役者が織りなす、宇宙と人々の物語『我ら宇宙の塵』。初演の稽古の時点で、小沢らは今作についてある予感を感じていたという。

小沢 キャストみんなで、「これ、もしかしたら評判を呼ぶかもね」と話していました。この作品では、“人は死んだらどこへいくのか”という普遍的かつ哲学的なことを描いている。表現方法も、パペットとLEDディスプレイという対照的な組み合わせのもの。僕自身も作りながら、今まで演劇で観たことのないものが生まれそうだなという予感がありました。

その予感は、本番で手応えに変わる。

小沢 お客さんがぐっと集中しながらも笑ってくださって、しかも最後には笑いながら泣いてくださった。劇場でこんな状態が生まれたのは僕には初めての経験で、これは日本だけではなく、他の場所でも通用するかもしれないと思いました。大切な人がそばにいる喜びも、そんな人を喪う悲しみも、世界共通でしょうから。

この初演を観たプロデューサーから声をかけられ、1ヶ月間にわたるロンドンでのロングラン公演が実現することとなる。『我ら宇宙の塵』がロンドン版の『Our Cosmic Dust』とタイトルを変えるにあたり、小沢は設定にも大きな変化を施した。登場人物をさまざまな国の人にしたのだ。

小沢 せっかく海を超えてやるのだから、キャストを限定したくなくて。主人公母子が出会う人々は人種関係なく演じられる名前にしました。作品の舞台も日本やイギリスと限定せず、“宇宙のどこかのちいさな町で起こったストーリー”という形にしています。

初の海外オーディションで流した涙

小沢を含め、日本初演版からのオリジナルスタッフは映像、音楽、音響、プロデューサーの5人。ロンドン公演も初めてならば、もちろん現地でのオーディションも初。そのやり方ひとつとっても、感銘を受けることが多かったという。

小沢 すごくシンプルなことですけど、キャスティングディレクターのNaomi Downhamが、オーディションの時に机を置かなかったんです。役者さんに椅子に座ってもらって、その目の前に僕らが同じように座る。机がないことで、オーディションをする側/される側という隔たりがなくなり、対等になれた気がしました。来てくれた役者さんたちもすばらしくて!日常会話から始まったかと思いきや、セリフを読んでもらっても変わらないトーンでそのまましゃべる。僕らに話しかけてくれているのか、それとも演技なのかとわからなくなるくらい日常と地続きなんです。

ここで、小沢は思いがけない経験をする。

小沢 セリフが本人の言葉として聞こえる。それがあまりにリアルで、まるでその人の人生を聞かせてもらっているようで、思わず涙が出てきてしまった。『コーラスライン』のドキュメンタリー映画の中で、オーディションで一人の役者がセリフを言った瞬間に演出家さんたちが号泣するシーンがあるんです。映画を観ながら「こんなことあるのかな」と思っていましたけど、ありました。しかも3回も。

すでに現地での稽古はスタートしている。小沢は大きな手応えとともに、難しさも感じているという。

小沢 初めての立ち稽古でもう本番と見紛うようなクオリティの演技を出してくれるので感動します。一方で、キャストからの質問がすごく多いんですよ。ふだんは「なんとなくはわかるけど……ちょっと一回やってみます」というスタンスの方が多い。でも今回はそれが通用せず、まずキャストは役を徹底的に理解したうえで稽古をする。僕との齟齬があれば、ディスカッションする。演出する言葉って日本語であっても迷うことがあるのに、今回はさらに言語の壁がある。難しいですよ。でもいい挑戦です。

ロンドンでの経験を還元する全国ツアー

ロンドン公演を終えた10月には、オリジナルキャストでの再演が待っている。東京のみならず、大阪、北九州、金沢も回る、小沢にとって初となるツアーだ。

小沢 ツアーができるのは本当に嬉しいです。僕は再演でそこまで作り直すタイプではありませんが、ロンドン公演の本番前、稽古の段階でもすでに生まれたものがたくさんある。ですから今回は初演と大きく変わる可能性もあります。

初演では、息子との関係に苦悩する母を演じる池谷のぶえが新鮮だった。父を亡くしてからしゃべらなくなり、やがて父の行方を探して様々な場所を訪ねる息子。池谷演じる母は、その息子を探しながら、さまざまな人と出会っていく。

小沢 ああいう池谷さんが見たかったんです。コメディが上手なすばらしい役者さんだから、明るい方、笑わせてくれる方というイメージがあるじゃないですか。そんな方がシリアスな状況に置かれてしまう、その姿が観たいなと。明るく生きたいはずなのに、それが難しくなってしまう……、自身が理想とする姿と、現実とのギャップ。そこにお客さんは共感してくれるんじゃないかと思ったんです。

2013年からEPOCH MAN名義で脚本・演出を務める作品を重ねてきた小沢。今では俳優のみならず、脚本家、演出家として大きな規模の公演に招聘される機会も増えてきた。

小沢 僕は今までずっと、自分が楽しいものを作っているだけなんです。劇場のサイズや環境に関係なく、ただただ面白いもの、楽しんでいただけるものを作り続けたい。演劇を楽しむ方が増えて、小さい頃の僕のように演劇を志す人が生まれたら、本望です。
そして、作品の中身はもちろん、いろんな方にバリアなく観ていただけるよう手話通訳を導入したり、年齢に関係なく安く観られるような料金設定を考えたりと、チャレンジを続けていきたいと思います。ロンドンの、そして日本各地の劇場でお待ちしています。

取材・文/釣木文恵
撮影/下家康弘

※インタビュー中でご紹介している『我ら宇宙の塵』再演ツアーの情報は、詳細決まりしだい発表してまいります。

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