Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
ぴあ 総合TOP > 【NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント特別企画】「一番大事なのは相手を倒す覚悟であり、攻めの姿勢」稲垣啓太(埼玉ワイルドナイツ)

【NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント特別企画】「一番大事なのは相手を倒す覚悟であり、攻めの姿勢」稲垣啓太(埼玉ワイルドナイツ)

スポーツ

ニュース

チケットぴあ

稲垣啓太(埼玉ワイルドナイツ) 撮影:スエイシナオヨシ

続きを読む

フォトギャラリー(3件)

すべて見る

5月25日(日)に行なわれる『NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25』プレーオフトーナメント準決勝で、埼玉ワイルドナイツはクボタスピアーズ船橋・東京ベイと対峙する。レギュラーシーズン2位の埼玉WKのスターティングメンバーには、直近の試合で負傷交代していたPR稲垣啓太が名を連ねた。『リーグワン』以前の『ジャパンラグビートップリーグ』当時からチームの主軸として活躍し、2015・2019・2023年の『ラグビーワールドカップ』に出場してきた経験豊富な34歳である。

「レギュラーシーズンだからとか、プレーオフだからとかいうことで、試合前の気持ちが変わることはありません。どんな試合でも自分にできる準備をしているので、心の持ちようは変わらないですね。チーム全体としてはいつもより少し緊張感がある印象ですけれど、それはいい意味の緊張感だと思います」

プレーオフ出場が一時心配されていた。5月10日のレギュラーシーズン最終節に途中出場したものの、わずか2分で交代したのだった。

「いまこうしているということは、何も問題はなしということです」

プレーオフに賭ける思いは強い。稲垣も、チームも。
『リーグワン』初年度に優勝を飾ったものの、過去2シーズンは決勝で敗れているのだ。いずれもレギュラーシーズンを1位で通過しながら、王者の称号を得られなかったのである。日本ラグビー界の盟主はどのチームよりも悔しさを噛み締め、最強のチャレンジャーとして今回のプレーオフに挑むのだ。

「昨シーズンの悔しさは、選手の誰もが忘れていないと思いますよ。僕自身は試合に出ていないですからね。シーズン途中で離脱して、あの舞台に立つことができなかった。そういった意味では、試合に出た選手以上の悔しさを感じたかもしれません。悔しさと同時に不甲斐なさも。シーズン途中でチームを離れたのは、キャリアで初めてのことだったので。だからといって、そこで立ち止まるわけにはいかない。また次のシーズン、その悔しさを必ず取り戻すために準備するしかない。やり続けることの重要性を、改めて実感した瞬間でもありました」

長期の離脱を強いられ、プレーオフの舞台にも立てなかった昨シーズンは、悔しさ、苦しさ、歯痒さ、不甲斐なさといったものに、まとめて襲われたような感覚だったのかもしれない。視線が下がりがちになってもおかしくないが、稲垣は顔を上げていく。しっかりと前を向くことで、価値ある気づきを得た。

「シーズン途中でチームを離れても、自分にできること、チームにとって力になれることを見つけて、やり続ける。自分が持ち得る知識を後輩たちに託す、伝えていく、そんなシーズンでもありました。それまでは自分から何かを伝える、教える、残すといった具体的なアクションは起こさなかった。残さないと、伝えていかないと、と思いつつも、それは僕個人の思いであって、一方的なものでは伝わっていかないですよね。求められていないのに何かをするのはちょっと違うなと思っていたのですが、去年のシーズン、今シーズンと聞きに来てくれる選手が多かったんです。チームの良き文化を若い世代に継承していきたいですし、僕自身も若い選手たちに教えてもらうことが多くて。この年齢でも勉強させてもらっています」

チームへの帰属意識に改めて目覚め、そのアクションによって選手同士の精神的な結びつきが強まったのだろう。今シーズンも試合から離れる時期はあったが、稲垣も埼玉WKも成長の歩みは止めなかったのである。

5月25日(日)の準決勝で激突するS東京ベイとは、レギュラーシーズンで2度対戦した。昨年12月末の第2節は26-24で勝利し、5月10日の第17節では29-29で引き分けた。

「僕はね、直近のあの試合は負けだと思っています。勝負に引き分けはないと思っているし、最後のやられかたを見れば、あれは僕たちの負けです」

後半36分にトライをあげ、29-24とリードした。ところが、ラスト数10秒で同点トライを献上してしまうのである。その後のコンバージョンキックを決められていたら、スコアを引っ繰り返されていた。接戦をしぶとく勝利へつなげる埼玉WKからすれば、「らしくない」ゲームだったのは間違いない。

「プレーオフでスピアーズともう一度対戦できる機会がきた。僕だけでなく選手それぞれに、思うところがあるでしょう。あの試合で学んだものは大きかったですし、あの結果でなければ気づけなかったことも、もちろんあります」

そこまで言うと、稲垣は少し間を取った。適切な言葉を探しながら、自らの思いをのせていく。
「負けたけど得るものはあった、という言い回しがありますが、僕はあまり好きではありません。負けから得るものは何もないと思っている。多少なりともあるとしても、勝利を上回るものではない。勝ちから得る学びに勝るものはない、というのが自分の考えです」

チームのために。チームメイトのために。
自分を支えてくれる人たちのために。
応援してくれる人たちのために──。
稲垣はどこまでも勝利にこだわる。妥協を排し、惰性を嫌い、打算を決して受け入れず、誰かを妬むことも嫉むこともなく、真っ直ぐにストイックに、ラグビーと向き合ってきた。「負けから得るものはない」という考えも、飽くなき向上心とひたむきさに基づくのだろう。

「楽しむ」ことについても、自分なりの解釈を持つ。
「楽しむが先にくるというのは、僕はありません。小さい頃は野球をやっていて、それからラグビーを始めたんですけれど、学生の頃に感じたラグビーの楽しさは、いまはないです。楽しいと感じる瞬間がないわけではなくて、結果が出ればもちろんうれしい。ただ、そこへ至る過程はやはり苦しいもので、最初から『楽しんでやろうぜ』というのは、僕は腑に落ちないんです。結果を出して喜びや楽しさを体感するためには、ストレスは避けて通れません」

プレーオフは負けたら終わりの一発勝負だ。ワンプレーの重みが増す。ひとつのミスが致命傷にもなる。

数多のビッグマッチに立ってきた稲垣は、「ミスの怖さ」を経験として理解する。「ミスを恐れるようなメンタリティになっても、不思議ではないのでしょうが」と指摘する。

「ミスを恐れないためには、グラウンドに立つ前に自分で準備をするしかない。いざグラウンドに立ったら、自分が準備してきたものしか出せない。自分が試合で達成するべきことができなかったら、準備が足りなかったということになってしまうんです」

そのうえで、「ミスは表裏一体なんです」と言う。
「ペナルティを獲得するのも、たとえばボールを絡めにいって、ジャッカル(スティール)に成功しました。相手のノート・リリース・ザ・ボールを誘いました。そうやって成功すれば、もちろん僕らにプラスな判定が下されますけれど、レフリーの解釈によっては相手にプラスになる場合もあるんですよね。これについてはペナルティを獲得できるのか、できないのかというバランスを、自分で取っていかないといけない。あくまでも攻めの姿勢に立って、バランスを考えていくんです」

様々な種類のプレッシャーが全方位から押し寄せ、一つひとつのプレーに重圧がかかるなかで、「攻めの姿勢」を貫けるのか。それこそは、プレーオフを勝ち抜くための要諦なのだろう。オールブラックスことニュージーランド代表で主将に任命され、埼玉WKのかつてのチームメイトであり、現在アドバイザーを務めるレジェンドの言葉が、稲垣の胸でいまも息づく。

「根性論を持ち出したらいまどきは『どうなの?』みたいになるのでしょうが、ラグビーは100%メンタルが先にくるんですよ。モールディフェンスで相手を止めるには、何が一番重要なのか。あのサム・ホワイトロックが言ったじゃないですか。オールブラックスで150キャップ以上獲得した選手が、『一番大事なのは、コンクリートの壁に顔面からぶち込める勇気だ』と。彼のような偉大なレジェンドがそう言うということは、どう考えてもメンタリティが先にこないといけない。ラグビーは球技だけれど、そういうスポーツなんです。格闘技に近いところもありますし、ましてや無差別級ですよね。だからこそ、フィジカルにおいてのバトルは避けられない。そこで一番大事なのは、相手を倒す覚悟でありメンタリティであり、攻めの姿勢を忘れない。忘れないながらも、クレバーなメンタルを保ち続ける。そこのバランスとその時々の判断力を意識しながら、80分間プレーできるかどうか。全部が全部いい時間じゃないし、全部が全部悪い時間でもないので、判断力は大事になります」

5月25日(日)の『NTTリーグワン2024-25』プレーオフトーナメント準決勝では、フィジカルバトルに何度も挑みつつ、冷静にゲームを読む稲垣の姿があるはずだ。S東京ベイを退けて6月1日(日)のファイナルへ到達すれば、その存在感はさらに際立っていくのだろう。

「このチームには喋れる選手がたくさんいますし、僕自身は余計なことは喋りません。もちろん、1番の僕の視点でしか見えないことはある。頭を突っ込んでいることが多いので、僕の視点は決して広くないけれど、そこのエリアで何が起きているのかは、突っ込んでいるぶん詳しく分かる。反則が起きた直後などの20秒なり30秒で、それを共有していく。試合中はもう、シンプルで明確で、なおかつ強いメッセージを残せるか、ですね」

プレーオフ決勝の翌日に、稲垣は35歳の誕生日を迎える。
1年に1度の記念日を、彼は果たしてどんな思いで迎えるのだろう──。

取材・文:戸塚啓
撮影:スエイシナオヨシ
取材日:5月23日

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25 プレーオフトーナメントの特設ページ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558701

フォトギャラリー(3件)

すべて見る