ニック・チェクらが「年少日記」語る、呉美保「子は親の所有物ではなく、別の人格だ」
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「年少日記」アザービジュアル
香港映画「年少日記」より、監督のニック・チェクとプロデューサーのデレク・イー(イー・トンシン)のインタビュー映像がYouTubeで公開。6種のアザービジュアルと著名人の鑑賞コメントも到着した。
香港の苛烈な競争社会において子供が受けるプレッシャーや家庭内暴力などの痛切な現実を描く本作。ある日、主人公チェンが教師として勤める高校で名前の書いていない遺書が見つかる。そこには「私はどうでもいい存在だ」という一文が。チェンは遺書を書いた生徒を捜索するうちに、厳格な父のもとで“出来の悪い兄”として疎外感を抱きながら育ったつらい記憶と向き合っていく。「ある殺人、落葉のころに」のロー・ジャンイップがチェンを演じた。
脚本も手がけたニック・チェクは映像の中で「子供や若者を思いやってほしい、というメッセージを込めた」とコメント。デレク・イーは「親の半数近くに子供を教育する資質がなく、間違った価値観を持ち、さらにそれを子供に押し付ける。この作品の特別なところは、批判ではないということ。ある事柄を映画で描くことにより、社会・家庭・子を持つ人に違う考え方や見方を提示している」と伝えた。
監督作「ふつうの子ども」の公開を9月に控える呉美保は「子は親の所有物ではなく、別の人格だ。頭では理解できてもほとんどの親はその距離感に苦しんでいるだろう。開かれた我が子の未来を願うなら、心をえぐられながらも、けして目を背けずに、この映画を観てほしい」とつづっている。ぼる塾の酒寄希望や田辺智加、折田侑駿、瀧本幹也、SYO、宇垣美里、中井圭、ISO、奥浜レイラ、伊藤さとりのコメントは後掲した。
「年少日記」は6月6日に東京・新宿武蔵野館ほか全国で公開。
呉美保(映画監督)コメント
子は親の所有物ではなく、別の人格だ。頭では理解できてもほとんどの親はその距離感に苦しんでいるだろう。開かれた我が子の未来を願うなら、心をえぐられながらも、けして目を背けずに、この映画を観てほしい。
酒寄希望(ぼる塾 / 芸人)コメント
日記は思い出です。文字になった時点で全てが過去になります。過去はもう過ぎ去ってしまったものです。ですが、この作品を見て、過去はいつも今に寄り添っているのだと気づかされました。全てがわかったとき、涙が止まりませんでした。私には優秀な兄がいます。私は優秀ではありません。それでも私は兄が好きです。
田辺智加(ぼる塾 / 芸人)コメント
親子、兄弟の関係が自分が過ごしてきた環境とは全く違いました。親、少年が背負ってきたものを考えると涙が止まりません。僕はどうでもいい存在。というとても気になる台詞がありますが、そう思う人を1人でもなくしたい、そんな人に全力で手を伸ばしてあげられる人になる!と思いました。
折田侑駿(文筆家)コメント
誰かが自ら命を絶ったとき、私たちはいつもその理由を探ろうとする。やがてそれらしい原因を見つけてきては、勝手に物語を作り上げ、とりあえず納得しようとする。けれども理由も原因も、ほんとうのところは分からない。ただひとつ分かっているのは、一般的に「自殺」とされるもののほとんどが、この社会からの「他殺」だということだ。そんな社会に立ち向かっていくにはどうすればいいか。その手がかりが、この映画のラストにはそっと差し出されていると思う。
瀧本幹也(写真家 / 撮影監督)コメント
日記の内容が切なく、何度も胸が締めつけられた。手持ちカメラのワークは物語の緊張感を見事に際立たせており、後半の展開から目が離せなくなった。また、子供の表情が非常にリアルに描かれており、これが監督デビュー作とは思えないほどの完成度に驚かされた。これからの映画界を新たに牽引していくであろう、ニック・チェク監督の今後の作品に注目したい。
SYO(物書き)コメント
現実は過酷だ。持たざるままでは競争を勝ち残れない。だから──。子の幸福を願う親心のはずが本人の今を奪い、将来をも蝕んでいく。観賞中、心が絶え間なく傷んだ。決死の手紙を受け取った気がした。そして誓った。独りにしないと。人と社会を動かす力を宿した一作。
宇垣美里(フリーアナウンサー / 俳優)コメント
過剰なプレッシャーと絶え間ない否定、どこにも味方がいない世界は灰色で、冷たい。触れた先から切れてしまいそうなほどの絶望にじくじくと心が痛む。否定しないでよ、認めてよ。できたら愛して。かつてのあの子が泣き出しそうになるから、あわてて蓋をした。
中井圭(映画解説者)コメント
勝ち負けしかない苛烈な競争社会におけるプレッシャーと、その醜さが収斂する先にいる子どもたちの痛切な苦しみ。こんな時代に我々は他者とどう向き合うべきか。悲劇を他人ごと化させない繊細で巧妙な脚本構成と、劇中反復するドビュッシーの「夢想」。上映が終わっても、心の中で響き続ける。
ISO(ライター)コメント
この社会に自分の席がない。誰にも必要とされない。一度世界がそう見えてしまうと、たちまちほかに何も考えられなくなる。寄る辺を絶たれ希望を失いゆく少年の孤独が、誰とも交わらない目に映る。少年の逃げ場所は大声で叫んでも誰も気にしない秘密基地。もし叫び声を誰かが聞いていたのなら。聞いてくれる人がいると少年が知ることができたなら。大勢の痛みを代弁する彼の姿に、そう思わずにいられなかった。
奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)コメント
幼いうちから人と競って順位が出る社会に身を浸すことは、成長にどれだけの影響を与えるか。「厳しくするのはあなたの幸せのため」愛情を装った、暴力による支配に何度も胸がつまる。これが長編デビューとなったニック・チェク監督の分身のような高校教師の姿は痛々しくも映るが、悲劇の連鎖を絶とうという祈りが本作の強度を高めている。“どうでもいい存在”なんてどこにもいない。
伊藤さとり(映画パーソナリティ / 映画評論家)コメント
子供の気持ちを知らない大人は、どれくらい居るのだろうか。いや、今でも子供の気持ちを知ろうと頑張っても頑張っても本当の気持ちにたどり着くまでには、時間と労力が要る。だからこの映画を観て気付かされ、心から感謝した。私は自分と子供に精一杯、だけどまだまだ足りない。映画では、そこ知れぬ悲しみに向き合うことになるが、だからこそ命を輝かす為に大切なことが、溢れるほど詰まっている。私のような大人達に、特に観てほしい。
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