「ある家族」の変化から見えてくるもの。劇団普通『秘密』、3年ぶりの再演

石黒麻衣が作・演出を務める劇団普通の『秘密』が、5月30日(金)〜6月8日(日)、東京・三鷹市芸術文化センター 星のホールにて上演される。

2022年に初演が行われた『秘密』は、今回3年ぶりの再演。「佐藤佐吉演劇祭2022」参加作品であった初演は、最優秀主演俳優賞、最優秀脚本賞、優秀作品賞に輝いた。母親が入院したことをきっかけに、田舎で暮らす老いた両親の家へと駆けつけ、しばらく父とふたりで暮らすことになる娘。彼らと、離れて暮らす兄夫婦や近所の人々との関わりが全編茨城弁で描かれる。

家族という一番近い関係。けれど、家族だからこそ言葉を選んでしまうことがある。家族だから聞けないことがある。そのなんとも言えない心の動き、気まずさや緊張感が丁寧に描かれる。茨城弁が家族のやりとりのリアリティを増す。ふと観たドキュメンタリーに惹き込まれるかのように、この家族のほんの些細な、でも彼らにとっては大切なやりとりにぐっと心掴まれていく。

初演の際、石黒は今作について「『病室』と対をなす作品」と語っていた。『病室』とは、劇団普通の全編茨城弁芝居のきっかけとなった作品であり、昨年末に3度目の上演が行われた劇団の代表作でもある。劇団普通にとって、大切な作品であることは確かだろう。

今回の再演にあたり、改めて「コロナ禍でのある家族に起きたささやかな出来事を記録するように子細に描いた」とコメント。人との距離が見直されたコロナ禍を経て、現在は一見、以前のような日常が戻ってきたように思えるが、石黒は「以前とは少し違った日常を取り戻してきている今、ぜひご覧いただきたい」と続ける。また、「家族を巡る価値観の大きな変化の過渡期にある今」「ある家族の姿をただひたすらに見つめた作品」とも。変化に対面したある家族を見つめながら、気づかぬうちに変わっていく日常の中にある自分をも見つめ直す作品になりそうだ

文：釣木文恵

■開幕に向けて、石黒麻衣（作・演出）コメント全文

本作品は、コロナ禍でのある家族に起きたささやかな出来事を記録するように子細に描いたものです。コロナ禍を経て以前とは少し違った日常を取り戻してきている今、ぜひご覧いただきたい作品であると同時に、家族を巡る価値観の大きな変化の過渡期にある今、そのどこかで確かに息づいているある家族の姿をただひたすらに見つめた作品でもあります。この時代であるからこそ多くの方々にご覧いただきたい作品だと思っております。どうか劇場に足をお運びくださいませ。

＜公演情報＞
劇団普通『秘密』

作・演出：石黒麻衣
出演：用松亮、安川まり、坂倉なつこ（青年団）、泉拓磨、吉田庸（青年団）、渡辺裕也、川口雅子、青柳美希、石黒麻衣

日程：2025年5月30日(金)～6月8日(日)
会場：東京・三鷹市芸術文化センター 星のホール

【アフタートーク開催】
（各回、劇団普通主宰・石黒麻衣とのトーク）
5月31日(土) 18:30の回 ゲスト：岩松了（劇作家） 山内ケンジ（劇作家・映画監督）
6月1日(日) 14:00の回 ゲスト：松井周（劇作家・演出家・俳優）
6月4日(水) 14:00の回 ゲスト：徳永京子（演劇ジャーナリスト）
6月7日(土) 18:30の回 ゲスト：森元隆樹（演劇ジャーナリスト／プロデューサー）

チケット情報：
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2504822

公式サイト：
http://gekidan-futsu.com/