【展示レポート】『五大浮世絵師展 ―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳―』 個性が際立つ五人の代表作を見比べて楽しむ
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手前:葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2年(1831)頃 版元:西村屋与八
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すべて見る江戸時代の浮世絵師のなかでも、とりわけ人気があり卓越した技術を持つ5名に注目した展覧会『五大浮世絵師展 ―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳―』が、上野の森美術館で7月6日(日)まで開催されている。5名の絵師たちの代表作を中心に、個性が際立つ約140点が展示される。
同展で取り上げる“五大浮世絵師”とは、美人画で知られる喜多川歌麿、大首絵を確立した東洲斎写楽、卓越した技術であらゆるものを描きこんだ葛飾北斎、名所絵という新しいジャンルを作り出した歌川広重、そしてダイナミックな構図と独特の視点で知られる歌川国芳の5名。一人1章、5章立てで構成されている。

美人画の歌麿、役者絵の写楽
第一章は喜多川歌麿。美人画で知られる歌麿は、人気の遊女や町娘などの理想的な美人から、酒を一気にあおる悪女まで、さまざまな女性を多様なシチュエーションで魅力的に描き出していた。

《五人美人愛敬競 兵庫屋花妻》は、当時評判だった5名の美女を描いた摺物のうちの一枚。画面左上には絵や文字で言葉を連想させる「判じ絵」が描かれており、兵庫まげ、矢、花、逆さまになった松(ツマ)から、女性が「兵庫屋花妻」を描いたものであることがわかる。当時の江戸は寛政の改革による出版統制が敷かれており、作者や登場人物の名前は工夫をこらして表現されていた。


続く第二章は東洲斎写楽。わずか10ヶ月という短期間の活動で、写楽は数多くの役者絵を発表した。彼の特徴は役者の演技の一瞬を、極めて写実的に描くこと。《二世嵐龍蔵の金貸石部金吉》では、指先の力の入り具合や、力強く結んだ口元など、役者がほんの一瞬見せる表情を巧みに描いている。写楽の画風は革新的であったが、役者を理想化せずに描写していたため、当時は批判も多かったとされる。


世界を驚かせた北斎、名所絵の広重と武者絵の国芳
第三章は日本のみならず、国際的にも知名度の高い葛飾北斎。冨嶽三十六景《神奈川沖浪裏》などの代表作のほか、勝川春章に入門し、勝川春朗として活動していた若い頃の錦絵や、明治に入るまで新作が出版され続けていた『北斎漫画』など、バラエティ豊かな作品が並ぶ。



続く第四章は歌川広重。風景だけでなく、その地の人々の暮らしや風俗も描きこんだ「東海道五拾三次」は、当時の江戸が旅行ブームに湧いていたこともあり、大ベストセラーとなった。「蒲原 夜之雪」は、人物にのみ色彩が施され、風景はすべてモノトーンで統一することで、静かに雪がふる静寂の夜の世界を表現している。

また、晩年に発表した「名所江戸百景」で広重は、当時はあまり描かれていなかった縦の構図に果敢に挑戦。縦長の画面において広がりを出すために、手前に木や鯉のぼりなどを配置し、遠近感を強調するなどの工夫を凝らしている。


そして最終章は、幕末の絵師、歌川国芳だ。彼が描く荒々しく大胆な構図の武者絵は、現代もなお人気が高い。

また、国芳は独特のユーモアも持ち合わせている。《名誉 右に無敵左り甚五郎》は、江戸時代初期に日光東照宮の『眠り猫』など優れた仕事を遺した、宮大工で彫刻師の左甚五郎を描いた作品。
左甚五郎の周りには様々な仏像や彫刻が並んでおり、それらは実在の役者に似せた姿をしている。天保の改革により役者絵が禁じられた環境で、国芳はさまざまな手段で規制の網をかいくぐろうとしていたのだ。ちなみに、絵の中心にいる左甚五郎は国芳本人だと考えられている。

流行を機敏に察知し、自らの表現に取り込んでいった5名の浮世絵師たち。彼らの作品を通して、浮世絵や江戸時代の文化に親しむことができる非常に楽しい展覧会だ。同展で“推し”の絵師を作り、浮世絵の世界をより深く楽しんでみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影:浦島茂世
<開催概要>
『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』
2025年5月27日(火)~ 7月6日(日)、上野の森美術館にて開催
公式サイト:
https://www.5ukiyoeshi.jp/
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/5ukiyoeshi/
■『五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』展示風景の動画はこちら
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