高校生の日常に“敵”が潜む、性的搾取が題材の「平坦な戦場で」予告編 市井昌秀ら推薦
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「平坦な戦場で」場面写真
高校生の男女が思わぬ形で性的搾取と遭遇するさまを描いた映画「平坦な戦場で」の予告編が、YouTubeで公開された。あわせて、映画監督の市井昌秀ら5名の著名人より推薦コメントが到着した。
「平坦な戦場で」は、恋人として平穏な日常を送っていた早崎のぶえ、村木智也の物語。ある夜、村木は路上で泣いていた女性による「抱いてほしい」との頼みを受け入れ、その経験がトラウマとなり学校を休むように。のぶえは村木のいない日常に孤独を募らせていく。櫻井成美がのぶえ、野村陽介が村木を演じ、これが長編デビュー作となる遠上恵未が監督・脚本・編集を担った。
予告編には映画批評家・児玉美月によるコメントが映し出され、平坦に見えつつも差別・偏見など“敵”が潜むのぶえと村木の日常が確認できる。市井は「繰り返される平坦な日常は、ただのコピペや反復ではない。たった一つの亀裂でいとも簡単に崩れ、2人の高校生男女はより外の孤独な者たちと出会い、さらなる戦場へと導かれる」とつづり、映画監督の菊地健雄は「可笑しさはせつなく、哀しさはやるせない。遠上恵未監督は、そんな人間という存在のどうしようもない可笑しさや哀しさに対して、真正面から誠実に繊細に対峙している」と語った。ライター・木村奈緒、映画評論家・映画監督の樋口尚文によるメッセージは後述の通り。
「平坦な戦場で」は、7月5日より東京の池袋シネマ・ロサ、7月26日より大阪・シアターセブンで公開され、愛知・シネマスコーレでも上映される予定。キャストには玉りんど、佐倉萌、竹下かおり、安藤チカラ、つかさ、山田荘一朗、上野山圭治、金子翔、大野やすひろ、大河原恵も名を連ねた。
※「平坦な戦場で」はR15+指定作品
児玉美月(映画批評家)コメント
この社会では性的搾取や虐待の被害に遭う属性は圧倒的に女性のほうが多いが、この映画ではそれが智也という男子高校生として設定された。
「平坦な戦場で」はそうしてジェンダーを反転させ、別の角度、新たな視点からこの社会をまなざそうとしてみせる。
その意思はメインプロットに留まらず、物語の至るところに鏤められている。
スクリーンに映し出された平坦な光景に見えるそこではいったい何が変質し、何が水面下で蠢いているのか。観客はそれこそを注視しなくてはならない。わたしたちが闘わなくてはいけない「敵」は、そこら中に影を潜め、そしていつも凡庸な顔をしているものなのだから。
市井昌秀(映画監督)コメント
万札をマグネットで冷蔵庫に貼り付ける父親に虫酸が走り、空気を読まないと生き抜けない友達関係にうんざりする。
繰り返される平坦な日常は、ただのコピペや反復ではない。
たった一つの亀裂でいとも簡単に崩れ、2人の高校生男女はより外の孤独な者たちと出会い、さらなる戦場へと導かれる。
私の心は散々かき乱されるが、孤独を知る者こそわかち合える微かな希望の表出に、ぼっと火が灯った。
安易な希望を描かない遠上監督の眼差しと姿勢に共感を覚え、この作品を通じて知らない者同士が繋がれたら素敵だなと想像しました。
菊地健雄(映画監督)コメント
可笑しさはせつなく、哀しさはやるせない。遠上恵未監督は、そんな人間という存在のどうしようもない可笑しさや哀しさに対して、真正面から誠実に繊細に対峙している。淡々と繰り返される日常がふとしたはずみで変容したあとの、人の善意も悪意もとどかない向こう側は、どこまでもせつなくやるせない。でも、僕らが平坦な戦場で生き延びるために必要な人間関係はようやくそこから始まるのだ、と教えてもらった。
そして、この作品には、僕も知っている玉りんどさん、大河原恵さんが出演しているのだけれども、自分にはついぞ引き出せなかった彼女たちの魅力が画面に充満していた。そのことで密かに嫉妬を覚えたのは、ここだけの話である。
木村奈緒(ライター)コメント
生きているかぎり、日常は常に戦場なのかもしれない。
しかし遠上恵未は、どのような環境下であろうとも、自分であろうとすることをあきらめず、目の前の違和感を、存在を、痛みをなかったことにしない。
その一点でもって、私は今後も遠上恵未の作品を観続けるだろう。
樋口尚文(映画評論家 / 映画監督)コメント
この作品は、やさしく繊細な高校生カップルの動静から、この社会の息詰まる「平坦」さの呪縛をあぶり出す傑作だ。そのブレッソン的なショットの積み重ねは、静謐ななかにも尖鋭に、いかんともしがたい日常の閉塞感を描き出す。
そして乾いたセックスの売買をめぐる青春の悲喜劇を通して、遠上恵未監督はヒステリックなフェミニズム称揚やセクハラ批判の次元をしなやかに跳躍し、われわれを縛る不自由なこわばりを解くヒントを見せてくれるだろう。
©︎2023/遠上恵未