好きな高畑勲作品は?爆笑問題・太田光と岩井俊二が語る 展覧会セレモニー&内覧会レポ
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「高畑勲展 ー日本のアニメーションを作った男。」オープニングセレモニーの様子。左から太田光、岩井俊二
展覧会「高畑勲展 ー日本のアニメーションを作った男。」のオープニングセレモニーと内覧会が本日6月26日に東京都内で行われ、高畑勲の大ファンを公言するお笑い芸人の太田光(爆笑問題)、スペシャルサポーターを務める映画監督の岩井俊二が登壇。来賓として夫人の高畑かよ子さん、長男である高畑耕介さんが出席した。
「アルプスの少女ハイジ」「赤毛のアン」といったテレビアニメや、スタジオジブリで手がけた「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」「かぐや姫の物語」などで知られる高畑勲。本展では常に新しい表現方法を追求し、日本のアニメーションの礎を築いた高畑の作品と足跡をたどる。生誕90年と太平洋戦争の終結80年に合わせ、明日6月27日から9月15日まで東京・麻布台ヒルズ ギャラリーで開催される。
初公開の展示は
2019年より各地を巡回した「高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの」をベースに、戦後80年の節目に合わせて「火垂るの墓」に着目した新たな資料も展示。庵野秀明が手がけた“重巡洋艦摩耶(まや)”のレイアウト、樋口法子が手がけたハーモニーセルがお披露目されたほか、「アルプスの少女ハイジ」や「平成狸合戦ぽんぽこ」などのセル画・背景画が初公開となっている。
ふわふわフォトスポット
ミュージアムショップでは、図録に加え、「平成狸合戦ぽんぽこ」に登場した正吉のぬいぐるみキーホルダー、「アルプスの少女ハイジ」をイメージしたバスソルトなど本展限定のグッズを多数販売。作品をモチーフにしたブックカバー、ポストカード、手ぬぐい、マグカップなども用意された。ショップの奥には、「パンダコパンダ」に出てくるパパンダのふわふわな体に飛び付けるフォトスポットを設置。来場者は天井のカメラで撮影されたデータをダウンロード可能だ。
高畑耕介さん「味わい深く今も色褪せない輝き」
セレモニーは高畑耕介さんによる挨拶で幕開け。「父の作品は見た目も変化に富んで個性的です。甘さは控えめ、爽快感が得られるとは限らないですけれども、味わい深く今も色褪せない輝きを持っていると思います」と述べながら、善悪が同居する不完全でリアルな人物像や、観る人の想像や実感を掻き立てる描写など、その作品群が持つ魅力を伝えた。
見どころは「赤毛のアン」OPフィルム
アニメーションの制作過程が端的にわかる見どころとして、高畑耕介さんは「赤毛のアン」のオープニングフィルムをピックアップ。大和田りつこ歌唱、三善晃作曲の「きこえるかしら」を背景に、馬車を引くアンが空を飛び、四季折々の風景を駆け抜ける映像だ。会場では高畑勲本人による絵コンテから細やかな演出とカメラワークの指示がうかがい知れるほか、それをもとにした宮崎駿によるラフ原画も展示。最後の「名作劇場 ミニ・シアター」では実際の映像も観ることができる。
太田光と高畑勲の縁
太田と高畑勲の縁は、高畑が「アニメーションが思想や社会を語ることができる可能性を感じた」と大きな影響を受けた「王と鳥」(「やぶにらみの暴君」)の2006年の公開時にさかのぼる。このときにジブリ発行の小冊子「熱風」での対談、公開初日のトークショーが実現。その後も太田は「かぐや姫の物語」制作中には番組の取材でスタジオジブリを訪問し、完璧主義とも言われる高畑勲のこだわりを垣間見たという。
太田は「作品に対してものすごく厳しい人、それは自分に対して厳しいってことだと思うんです。我々が漫才をするときも『これでいいや』となることがあるんですけど、一切それがない。会話は穏やかなんだけど、仕事に向かうと妥協を一切許さない厳しさがある。スタッフの皆さんも『鬼のようだ』と言ってましたから(笑)」とその印象を明かした。
現在、NHK Eテレで放送されている小説「赤毛のアン」を原作としたアニメ「アン・シャーリー」に声優として参加している太田。高畑勲が全話を演出した昔のアニメは、高畑の名前を知る前から観ており、号泣するほど好きだったとか。アニメーションとしての動きに魅了されたそうで、「人間のしぐさ、一挙手一投足。ストーリーやセリフを追ったときに言葉で感じている以上のものを体の動き、表情から感じた」とその魅力を熱弁した。
岩井俊二「映画作りの厳しさを語ってくださった」
続いてスペシャルサポーターの岩井も登壇。高畑勲とは遠縁の親戚で、映像制作を志した大学生の頃に直接訪ねた機会があったそう。時期としては1987年公開の「柳川堀割物語」制作中の頃。すでに自主映画を撮っていたが、商業映画の世界での活躍も志していた岩井に、高畑は「君はプロになっても自分の作りたいものを今まで通りに作っていきたいんじゃないか? そんなことができるなら僕が知りたい」といったことを話したそう。
岩井は「そこから、この世界で好きなものを作ることが、いかに大変かという話を約2時間ぐらい聞きました。僕が怒られたわけじゃないんですけど、ほぼ叱られてるような感じ(笑)」と回想。「映画作りの大変さ、厳しさを先輩が語ってくださった、僕にとっては唯一の経験。座右の銘じゃないですけど、言われた言葉をずっと大事にして、ここまで来たと思ってます」と打ち明けた。
好きな作品は?
好きな高畑作品を聞かれると、太田は「ホーホケキョ となりの山田くん」と回答。「水墨画というか、背景をきっちり描き込んだものではない。すごく自然な、抜けのいいと言うんですかね、そういう絵や色合いが、なんか居心地いい。それでいて、すごくヒューマンドラマ。特にミヤコ蝶々さん(が声を当てたキクチババ)の結婚式のスピーチが素晴らしかった」と話す。
岩井は自身初の長編映画「Love Letter」のラストシーンの絵コンテを描く際、「おもひでぽろぽろ」のエンディングをイメージしていたそう。好きな作品には、高畑勲が東映動画時代に手がけた「太陽の王子 ホルスの大冒険」を挙げた。高校生の頃に初めて観たときは、その完成度の高さに衝撃を受け、折々のタイミングで観返しているという。2004年の監督作「花とアリス」では、作中人物が観る映画としても同作を引用した。
それぞれの高畑勲像
セレモニーの最後、太田は自身にとっての高畑勲の存在を「名前を意識したのは、ずいぶん大人になってからでした。それ以前から『アルプスの少女ハイジ』や『赤毛のアン』を観ていて、名前を知る前から自分の中にいた人、そんなイメージですね」と説明。岩井は「僕が子供の頃からずっといてくれた、作品を作り続けた人。僕らが成長するのに合わせて作ってくれたような。そして最後は『かぐや姫の物語』まで連れて行ってくれた。我々の世代にとって、自分の人生と歩みをともにしてくれた素晴らしい映像作家だと思います」と語った。
高畑勲展 ー日本のアニメーションを作った男。
2025年6月27日(金)~9月15日(月・祝)東京都 麻布台ヒルズ ギャラリー
開館時間:10:00~20:00(最終入館19:30)
料金:一般 2000円 / 専門・大学・高校生 1700円 / 4歳~中学生 1400円
※7月18日までの火曜と日曜は10時から17時まで(最終入館は16時30分)