『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の生みの親ジョン・キャメロン・ミッチェル 「エモーショナルな自叙伝」と語る物語に込めた想い
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インタビュー

ジョン・キャメロン・ミッチェル (撮影/石阪大輔)
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すべて見るオフブロードウェイに始まり、映画、そしてリバイバル作品としてブロードウェイに進出し、熱烈に愛され、日本でも幾度も上演されて多くのファンを魅了してきた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。その生みの親であり、映画版では監督、脚本、主演を務めたジョン・キャメロン・ミッチェル自らが生歌と生バンドで同作の名曲の数々を歌い上げ、作品の誕生秘話やビハインドストーリーを語るスペシャルショー「JOHN CAMERON MITCHELL Midnight Radio -The History of Hedwig-」が7月19日(土)に開幕する。
山本耕史に中村中、浦井健治、さらに韓国人俳優のペ・ナラなど本作になじみの深いスペシャルゲストも迎え、「The Origin of Love」、「Angry Inch」などの名曲をお届けするこちらの公演。開幕が迫る中、来日したジョン・キャメロン・ミッチェルが本作への思いを語ってくれた。
オフブロードウェイの「ジェーン・ストリート・シアター」で最初に『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が上演されたのは1998年。それから30年弱の月日が流れたが、改めてジョンにとってこの『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』という作品は、どのような存在なのか?
ジョン 大きな質問だね(笑)。僕にとって、この作品は“Emotional Biography=エモーショナルな自叙伝”といえるものだと思います。主人公のヘドウィグは自分をベースにしてつくり上げたキャラクターであって、僕とすごく似ている部分もあります。子どもの頃は親の仕事の都合であちこちを転々としていたので、移民のような感じで、どこかに「根づいていた」という感覚がないんです。青春時代を過ごす上で、それは賢さ、たくましさをもたらすと同時に、自分を破壊しかねない環境でもあったと思います。常に“アウトサイダー”であるという自覚がありました。

でも賢く、強くなるということは、自分を守ってくれることでもあり、劇中でトミーのセリフにあるように「女性以上、男性以上の“新しい”存在になる」という感覚がありました。初演からこれだけの時間を経て、例えばNetflixの「リバーデイル」や「セックス・エデュケーション」のように、この作品が他の作品に良いテーマを与えるような存在となって、クラシック、名作とも言われる作品となったことに感慨深いところもあります。
僕とは関係なく、作品自体が独立して、いろんなところに旅立って、様々な影響を与えているのを見るのはすごく嬉しいですし、まるで自分の子どもがあちこちで生まれているような感覚です。いま、香港でも新しい舞台を作ろうという動きがあり、さらに上海でもやらないかという声をかけてもらっています。嬉しいんですけど、そもそも社会主義から逃げるという物語なのに中国でできるの? と驚いています(笑)。

今回、ミュージカルではなく、生バンドによる演奏とジョン自身の歌、さらには作品にまつわるトークで、この伝説のミュージカルの軌跡を振り返るスペシャルショーという形式となるが「伝えたいメッセージは変わらない」と語る。
ジョン 自分の信じているもの、僕という人間を形成している哲学や音楽、ユーモアといった要素をメタファーとして込めつつ、マッシュアップしたのがこの『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」という作品です。
ミュージカルであれ、ショーであれ、伝えたいのは“Wholeness(=完全性)”というコンセプトです。僕は、人間はみなアンドロギュヌス(=両性具有/中世)的な要素を持っていると思っていて、“陰”と“陽”というものが合わさって、ひとりの人間を形成しているということを訴えているのが『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』という作品なんです。

よく人間社会を羊の群れのようなものだと言われますが、強いリーダーがいて、そこに追随するというのは楽ですし、多くの人はそうしています。でも、周りとは違うと感じている人間は、そこに付いて行くことに難しさを感じるのです。ちょうど是枝裕和監督の『怪物』という映画のことを思い出しましたが、まさにあの映画の少年たちは、世間一般の「男の子とはこういうもの」という常識にフィットすることができず、だからこそ周囲の大人は彼らに困惑しますが、実は彼らから大人が学ぶべきことは非常に多いです。少年たちは、もともと人間の自然な状態、本来そうであっていい自由な状態なのだと思っています。
今回のスペシャルショーでは、過去の日本公演でヘドウィグを演じた山本耕史、浦井健治、イツァーク役を演じた中村中、そして韓国の新鋭俳優でNETFLIXのドラマ「D.P. -脱⾛兵追跡官-」の劇中で「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の楽曲を歌い話題を呼んだペ・ナラがスペシャルゲストとして参加する。
ジョン 友人、そして信頼している仲間のみなさんと再会し、ステージで共演できることはすごく嬉しいです。耕史さん、中さんはこれまで何度もご一緒しており友人と呼べる存在です。浦井さんとはお会いしたことがなく、今回、初めてご一緒しますが、新しい風を吹き込んでくれるのを楽しみにしています。ナラさんは、このメンバーの中で唯一、ステージで『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を演じたことがないのですが、ドラマで楽曲を歌ってくださったという縁で参加していただくことになりました。その時の歌声を聴かせてもらって非常に美しい歌声に驚きました。共演させていただけるのが楽しみです!

取材・文/黒豆直樹
撮影/石阪大輔
※記事初出時、本文中に誤表記がありました。訂正してお詫び申し上げます。
<公演情報>
JOHN CAMERON MITCHELL Midnight Radio -The History of Hedwig-
ジョン・キャメロン・ミッチェル ミッドナイト・レディオ ‒ザ・ヒストリー・オブ・ヘドウィグ-

【東京公演】
日程:2025年7月19日(土)~21日(月・祝)
7月19日(土) 13:00 スペシャルゲスト:中村 中
7月19日(土) 18:00 スペシャルゲスト:浦井健治
7月20日(日) 15:00 スペシャルゲスト:ぺ・ナラ
7月21日(月・祝) 13:00 スペシャルゲスト:ぺ・ナラ
会場:東急シアターオーブ
【大阪公演】
日程:2025年7月23日(水) 13:00/18:00 スペシャルゲスト:山本耕史
会場:NHK 大阪ホール
[作・演出] ジョン・キャメロン・ミッチェル
[作詞・作曲] スティーヴン・トラスク
[字幕・訳詞] 北丸雄二
[出演]
ジョン・キャメロン・ミッチェル
CHORUS:Chica
THE ANGRY INCH(バンドメンバー):DURAN(GUITAR) / Makara Dolsuklert / (GUITAR) / シンサカイノ(BASS) / 松下マサナオ(DRUMS) / ハタヤテツヤ(KEYBOARD)
[セットリスト]
The Origin of Love(オリジン・オブ・ラブ)
Wicked Little Town (ウィキッド・リトル・タウン)
Sugar Daddy(シュガー・ダディ)
Milford Lake(ミルフォード・レイク)
Exquisite Corpse(エクスクィジット・コープス)
The Long Grift(ザ・ロング・グリフト)
Wig In a Box(ウィグ・イン・ア・ボックス)
Midnight Radio(ミッドナイト・レディオ)
Tear Me Down (テア・ミー・ダウン)
Angry Inch (アングリー・インチ)
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/jcm-hedwig/
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