熊本マリ恒例の「夜会」 フラメンコの情熱のリズムとともに
クラシック
インタビュー

(C)Kazuhiko Hakamada
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すべて見るピアニスト熊本マリが恒例の「夜会」を今秋も開催する。今回は、他に類を見ない「パルマ・パーカッション」との共演。熊本に聞いた。
「夜会」は、熊本がおしゃべりを交えながら進行する、親しみやすい雰囲気のリサイタル。イタリア、フランス、スペインという“ラテン系”作品が並ぶ今回のプログラムの最大の注目が「パルマ・パーカッション」との共演だ。フラメンコで重要な役割を果たす手拍子のリズムのこと。英語の palm(手のひら)と同じ語源の「palma」が由来となっている。
「ピアノとパルマのアンサンブルは、おそらく誰もやっていないと思います。私は20年ほど前にも、今回も共演するフラメンコ舞踊家の山本将光さんと全国を巡りました。彼らのパルマは本当に“楽器”です。音の鳴り方が全然違う。手拍子だけではなくサパテアード(足踏み)も入ります。そして踊りも。
スペイン音楽の大きな魅力のひとつは、やはりリズムです。舞曲の作品も多いですしね。リズムというのは、身体にダイレクトに入って来ると思うんですよ。しかも手拍子と足踏み――すべて人間の身体が楽器となって作るリズムです。その掛け合いを楽しみながら、リズムを間近で感じて、スペイン音楽の面白さがよりはっきりと伝わるはずです」
フラメンコ特有のリズム・パターンを打つパルマ。熊本は、それがクラシック音楽作品とも相性がいいのではと、前例のない共演の形をひらめいたのだという。
「どんな音楽にも合うわけではありません。もちろんスペインの作品での共演になりますが、どの曲のどの部分でパルマと一緒に弾いたら効果的かを、すべて私が熟考してお願いしています。前もってどの曲で、ということはあえてお話ししません。どんなふうに登場するのか、いろいろな演出も考えています。どうぞ当日、サプライズでお楽しみください」
今回の演奏会場は東京文化会館小ホール。今回のレアな共演にベストだと断言する。
「私にとって、どこで弾くかということはとても大切です。空間の響きによって、作品がまったく違う曲に変わるとさえ思っています。だから、弾き始めてからでも、違うなと感じたらプログラムを変えることもあります。お客さんのためにも、合わないままで聴いてもらうのはもったいないですから。
東京文化会館小ホールは、何を弾いてもとにかく響きがいい。パルマにも最適だと思います。私自身も楽しみなんです。しかも客席が扇形で、どの席も近くて見やすいですね。息づかいを感じられる、素晴らしいホールです。来年から改修のためにしばらく休館なので、その前にこれをできてよかった。去年の『夜会』が終わって、すぐに決めました」
先述のとおり、今回はイタリア、フランス、そしてスペイン。“ラテン系”の作品を弾く。
「3つの国は、お料理もファッションも垢抜けていて、素敵ですよね。いつか並べて取り上げたいなと思っていました。
D.スカルラッティはスペインにも住んでいたので、スペインの香りもすると思います。プッチーニの《ワルツ》はピアノ曲ですが、のちのオペラ《ラ・ボエーム》の「ムゼッタのワルツ」の原形になっているんです。同じくプッチーニの《電気ショック》は面白い曲名ですよね。電池の発明100年を記念して作られた曲で、よく『あれ、また弾いて』というリクエストをもらいます。
パリで学んだキューバ系スペイン人のホアキン・ニン=クルメルは、今私がとても広めたいと力を入れている作曲家です。父親も作曲家でお姉さんは作家という芸術系一家。とても明るくて、可愛らしい作風です。
コンサート後半がスペイン。インファンテの《エル・ビトの変奏曲》は有名なスペイン民謡を素材にした変奏曲ですが、宝塚歌劇団の演目にもメロディが出てくるそうですよ。華やかな曲です。みなさんがよくご存知の《アランフェス変奏曲》の第2楽章を、作曲者ロドリーゴ自身の編曲によるピアノ版で弾きます。すごくきれいな曲。お客様がみなさん喜んでくださいます」
この他にも盛りだくさんのプログラム。全体は、パルマがどうやってピアノとコラボするのかと併せて、ぜひ当日、会場で直接確認してほしい」
「ピアノとパルマという組み合わせは、ほとんどの方にとって初めての体験だと思います。でも、いい時間を味わっていただけるのは間違いないです。その時間に、ぜひときめいてください」
取材・文:宮本明
熊本マリの夜会 〜スペインの熱い夜 情熱のリズム〜

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560452
10月2日(木) 18:30開演
東京文化会館小ホール
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