中村鶴松が3年ぶり2回目の自主公演を開催! 貴重な2演目で贈る
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中村鶴松
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近年、歌舞伎界を盛り上げている要素のひとつに“花形”と呼ばれる若手俳優たちの存在がある。今年30歳となった中村鶴松もそのひとり。一般家庭の出身ながら小学5年生の時に十八世中村勘三郎の部屋子となり、勘三郎から息子の中村勘九郎、中村七之助に続いて「3人目のせがれ」と呼ばれたことでも知られる。
2024年2月には歌舞伎の殿堂・歌舞伎座において『新版歌祭文 野崎村』のお光役で初主演を果たし波に乗る鶴松が、3年ぶりに自主公演『鶴明会(かくめいかい)』に挑む。第二回となる今年は、その勘九郎をはじめ人気役者が客演する豪華版。「どうしてもやりたかった」(鶴松)という『仮名手本忠臣蔵 五六段目』の早野勘平と、中村屋で受け継がれる華やかな舞踊『雨乞狐』の2本立て。7月25日に行われた取材会に足を運んだ。
歌舞伎三大狂言のひとつ『仮名手本忠臣蔵』の五、六段目で主役となる早野勘平は、今年3月に歌舞伎座で上演された際は尾上菊之助(現・八代目菊五郎)や、“兄”たる勘九郎らが演じたほどの大役。鶴松も憧れを抱きつつ、まだまだ遠い役だったというが。
「せっかくの自主公演なのであまり先のことは考えず、今やりたいもの・トップ2を選んだという感じです。それでも勘平についてはなかなかやりたいと言えませんでしたが、きっかけは3月の勘九郎の兄の勘平役。自分自身、怯むかと思いきや、逆にプラス思考になったのは意外でしたね。勘九郎の兄の勘平に一歩でも近づきたい! という気持ちになりましたと身近な存在の大きさを語る。
「こういう名作の役どころというのは、年齢を重ねるほど味が出てくるというのはもちろんあると思うのですが、勘平の年齢って実は29歳なんですね。ほぼ同年齢の僕が演じることで若さゆえのパワーというのは絶対出ると思うので、熱のある勘平というのをお見せできれば。前回の『鶴明会』で感じたのは、自分が熱量を持って、死ぬ気で舞台に上がっていれば、絶対お客さんに伝わるということ。今回もリアルな勘平、追い込まれて自ら腹を切ってしまう勘平の人物像というものを伝えられたらと思っています」と鶴松は意気込んだ。
続いての『雨乞狐』は十八世勘三郎のためにあて書きされた舞踊劇で、これまで勘三郎と当代の勘九郎しか踊っていないという珍しい演目。日照りに悩む民衆のために、源九郎狐を先祖に持つという野狐が雨乞いの舞を始め、最後は雨を降らせて去るというストーリー。鶴松は野狐、雨乞巫女、座頭、小野道風、狐の嫁、さらに提灯という6役を早替りで踊り分ける。
「なぜあまり上演されないんだろうって不思議に思うぐらい、めちゃくちゃ面白い演目です。僕が子どもの頃、(14歳上の)勘九郎の兄がやった時に『かっこいい!』と思ったのを鮮明に覚えているんですよ。6役早替りって歌舞伎ファンでなくても面白いと思いますし、踊りも前半はダイナミックでアクロバティックに、中盤は古典の型が必要な踊りをしっとりと見せ、最後はまた派手になる……という構成も素晴らしいんです」と魅力を語る鶴松。
一方で、身体的にもかなりハードな踊りであることにも触れ、「勘九郎の兄が言うには、踊り終わった後は肉体的にも精神的にも何もする気が起きなくなるくらいだと(笑)。だからこそ、若い今のうちにやっておきたいと思ったんですが、同じくらいボリュームのある早野勘平の後にこの演目だなんて、『本当に馬鹿だな』と勘九郎と七之助の兄からは言われました」と笑う。
映画『国宝』の主人公・喜久雄と同じ“部屋子”の立場で思うこと
『仮名手本忠臣蔵 五六段目』で勘平の女房おかるを勤めるのは、こちらも人気の女方・中村莟玉だ。中村梅玉の部屋子からスタートした莟玉とは、「同じような立場の大変さ、苦しさ、悔しさもお互い分かっている関係。今回の出演も快く受けてくれて嬉しかったですね」と鶴松は話す。
その後はいま大ヒット中の映画『国宝』にも触れ、「(吉沢亮が演じる主人公の)喜久雄と同じ“部屋子”の立場ということで、どこに行ってもこの話をされます(笑)。手が震えてお化粧が出来ないとか、他にも経験したことのあるシーンがあって、10回くらい席を立ちそうになりました」と笑いながらも、「いやもう、『国宝』を観た方は全員、『鶴明会』にもいらしてください!」としっかりアピール。
「ただ、そうやって歌舞伎を観て『やっぱり難しい、1回観たからもういいや』とはならないようにするのが大事だなと思っています。一回きりの“観光地”ではなく、お客様をひとりでも多く味方につけて、毎回足を運んで、チケットを買って観に来てくださる未来のお客様を作っていかないといけない。それはいつも考えていることですね」という鶴松。
早稲田大学卒で、取材会のリリースも自ら作成したという知性派。質問の答えも理論的かつ明快だが、一方で「大学を卒業して歌舞伎役者の道1本でやり始めてしばらくしても、壁にぶつかっていた時期があった」と熱い想いも率直に明かす。それでも「20代後半ぐらいからはいろいろな経験を積んだり、大きなお役をやらせていただけたりしたことで、自分の中の殻みたいなものがひび割れて、少しずつ剥けてきた気がします」という。

「『国宝』を観て、犠牲にするものが多いという部分も共感しました。僕も30歳ぐらいまでには結婚して子どももいるのかなと思っていましたけど、やっぱりこの世界にいると、一番に考えるのは歌舞伎のこと。頭の中はプライベートなあれこれよりも、もっと役者として成長したいということばかりです」と語る鶴松。冷静と情熱を両輪に、一歩一歩進んでゆく彼が挑む『鶴明会』。その姿を、劇場でぜひ目撃してほしい。
取材・文/藤野さくら
<公演情報>
中村鶴松 自主公演 第二回 『鶴明会』
日程:2025年9月18日(木)・19日(金)
9月18日(木) 17:30開演
9月19日(金) 11:00開演/16:30開演
会場:浅草公会堂
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kakumei/
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