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映像配信も決定。ミュージカル「Under The Mushroom Shade」レポート。“好き”を貫く想いが、人生を動かす

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撮影:西岡浩記・三浦麻旅子

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6月21日から29日まで東京・サンモールスタジオで上演されたミュージカル『Under The Mushroom Shade』。出演は加藤梨里香、木内健人、吉沢梨絵の3人。演奏はピアノのみという、シンプルな構成の小劇場ミュージカルだ。VOICARIONシリーズ「スプーンの盾」などをプロデュースする白石朋子が、脚本・作詞・演出に初挑戦した意欲作で、作曲を小杉紗代、編曲・音楽監督・演奏を江草啓太が担当。話題を呼んだ本作が、9月16日(火)より映像配信されることが決定! 今回は、初日前日に行われたゲネプロの模様をレポートする。

『Under The Mushroom Shade』は、『ピーターラビット』の作者であるビアトリクス・ポターの生涯をもとにした新作オリジナルミュージカル。物語の舞台は、19世紀末のロンドン。幼いころから、植物や動物、なかでも“きのこ”に魅せられ、繊細なスケッチを描いていたヘレン(加藤)だったが、その独特な感性ゆえ“変わり者”と見られ、縁談も断られてばかり。そんな娘の幸せを誰よりも強く願い続ける母(吉沢)の想いも理解しているものの、ヘレンは自分の“好き”を止められずにいた。そんな折、家業である出版社の児童書部門を任された三男坊のロン(木内)は、ヘレンの作品に心を奪われ、彼女に絵本の出版を提案する――。

撮影:西岡浩記・三浦麻旅子

劇場に足を踏み入れると、天井からのペンダントライトの柔らかな光に虫の音。ヘレンの愛したきのこの森といった幻想的な雰囲気が広がり、一気に作品の世界観に引き込まれる。ステージには、応接間のようなソファセットとデスクのみ。大がかりなセット転換もないなかで、キャスト3人が生き生きとキャラクターを芽吹かせていく。ヘレンの父や見合い相手など、実際には登場しないキャラクターたちも、3人のやり取りからその存在が自然と立ち上がってくる。

加藤が演じる主人公のヘレンは、大好きなきのこについて話すときにテンション高く早口になるのが、推しを語るオタクのようで何よりも愛らしい。自分の“好き”を高らかに歌い上げる一方で、深く自分を愛してくれている母が望む“普通”を生きられない。そんな葛藤も表情豊かな歌声で表現する。

そんなヘレンのよき理解者となるロンを演じる木内は、兄に劣等感を持つ病弱な三男坊がヘレンと出会い、変わっていく様を丁寧に紡いでいく。木内らしい伸びやかな歌声は、まっすぐで誠実なロンにぴったりだ。「自分以外は完璧」だと思っていたヘレンとロンが、2人でならありのままの自分でいられる。そんな想いを込めて「あなたがいれば完璧」と歌い合うリプライズが何よりも心に残った。

ヘレンの母を演じた吉沢の凛としたたたずまいも胸を打つ。誰よりも幸せになってほしいからこそ、きのこに熱中するヘレンを心配するのだが、そんなヘレンの「きのこ♡」に対する母の「きのこ!?」のニュアンスも面白いところ。愛ゆえの干渉だとお互いに分かってはいるけど、うまくかみ合わない。そんな母と娘の関係性には共感できる人も多いのではないだろうかと感じた。終盤、ロンと3人で紡ぐ愛にあふれた柔らかなハーモニーも、コンパクトな劇場だからこそ、その想いがダイレクトに響く。

撮影:西岡浩記・三浦麻旅子

木漏れ日のような照明と、ピアノの柔らかな音色も舞台に静かなぬくもりを添える。細かな演出の一つひとつが、物語を丁寧に支えていたのも印象的だ。心の奥底にそっとあたたかな光をともすような、そんな優しさに満ちた物語。母とロン、2人の深い愛情に包まれながら自分の“好き”を貫いたヘレン。“好き”を誰かと共有しあう幸せの瞬間は、もしかしたら日常のなかにあふれているのかもしれない。じんわりと余韻が残るミュージカルだった。

また、本作ではクラウドファンディングを実施。この日のゲネプロには、そのリターンで招待された観客の姿も見られた。クラウドファンディングへの挑戦もまた、作品のなかで描かれたテーマの一つ「自分らしく生きていくこと」を体現しているようにも感じられた。そして、そんな舞台にかける想いや応援の形が、あたたかく広がっているのもこの作品らしい。カーテンコールでは、「本番のようなゲネプロでした」(加藤)、「こんなにたくさんの人がいるなんて!」(木内)、「皆さんからパワーをいただきました」(吉沢)と笑顔を交わした3人だった。

映像配信は、9月16日(火)から30日(火)までの期間限定。さらに同期間中には、DVD・Blu-rayの予約販売も予定されているとのこと。詳細は、本作の公式HPでチェックを。観劇のチャンスを逃してしまった方にも、ぜひこの心温まる物語に触れてほしい。

『Under The Mushroom Shade』
https://underthemushroomshade.studio.site/

取材・文:吉田光枝

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