「いしかわ舞台芸術祭2025」ディレクター 荒川ヒロキ ――なぜ「死神遣いの事件帖」が石川に? 地方で生の演劇を観てもらうことの大切さ
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インタビュー

荒川ヒロキ
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金沢市を中心に、石川県の各地で9月5日より3か月以上にわたって開催される「いしかわ舞台芸術祭2025」。俳優の梅津瑞樹がアンバサダーを務め、梅津が出演する「死神遣いの事件帖 終(ファイナル)」、劇団四季のミュージカル「赤毛のアン」、観客参加型の謎解き「バック・トゥ・ザ・バックステージオンファイア」 ~失われた市民の声(レジスタンス)~など魅力的なプログラムが上演・開催される。この演劇祭のディレクターを務めているのが石川県出身で、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」、ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」などの演出映像を手掛けてきた荒川ヒロキである。
――荒川さんが「いしかわ舞台芸術祭」のディレクターを務めることになった経緯についてお聞かせください。
荒川 もともと大学進学のために関東に行って、そこで演劇にハマって演劇の仕事をするようになったんですけど、家庭の事情もあって石川に帰ることになったんです。十数年前から石川と東京を行ったり来たりしながら、映像演出の仕事を続けていますが、石川の演劇にも関わっていこうということで「かなざわ演劇人協会」に参加して、約10年前から会長をやらせていただいています。約2年ほど前に、県のほうで「芸術祭をやりたい」という話が立ち上がり、「かなざわ演劇人協会」に相談いただいたのが最初のきっかけでした。
――そのお話が来たとき、地方で演劇祭を立ち上げるということの意義についてどのようなことを考えましたか?
荒川 地方の演劇の状況をみると、どんどん人が減っていて、なんとかしなくてはという思いがありました。石川県は県知事がプロレスラーご出身の馳浩さん。馳さんもエンタメがお好きで自分も人前に出る側の人間であり、この演劇祭を「若い人に向けてやりたい」ということでした。私も、2.5次元という若い方を中心に人気のある演劇に関わってきたので、これはチャンスだなという思いがありました。これをうまくやれれば、石川だけでなく日本の演劇界も変えられるんじゃないか? と思い引き受けてみようと思いました。
――ディレクターとして、この「いしかわ舞台芸術祭」をどのような演劇祭にしたいとお考えですか? 方向性やコンセプトをお聞かせください。
荒川 スタッフも決して多くない中で、自分で事業計画書を書くところからやってきたんですが、まず演劇というもののイメージを作り直す――“リブランディング”をする必要があると感じました。もちろん、現状の演劇も面白いんですが、かといって、いまの若い人たちがそこに憧れて演劇の世界に足を踏み入れるかと言ったらなかなか難しい。世間も演劇というものに対して非常にクローズドな印象を持っていると思っていて、そこを変えていかなくちゃいけないと思いました。 僕は「フジロック」のビジネスモデルって素晴らしいと思っていて「目指せ! フジロック」ということを常々言っています。加えて、演劇祭や演劇の興行は助成金で成り立っている部分が多いんですが、僕自身は演劇をエンタメとして諦めていないので、公的資金に守られるものではなく、チケット収入で成り立つものにしたくて、「演劇の自立」というのを目指しています。
――具体的なプログラムに関して、どのようなことを考えて組まれたんでしょうか?
荒川 決して若い人だけをターゲットにしているわけではないんですが、劇場に熱気があれば多くの人がそこに集まってくると思っています。今年で言うと「ダウ90000」(招致公演「ロマンス」)がそうですが、「知る人ぞ知る」とか「これから来る」という存在――なんかよくわからないけど、劇場に人がたくさん集まってきて、そこに石川の人たちもやってきて盛り上がっていくという流れを想起しながら、これまで培ってきた人脈もフルに活用して、面白いものが呼べたらと思っています。昨年のプログラムは、やや2.5次元の作品に寄っていましたが、今年は、例えば「EPOCH MAN」(招致公演「我ら宇宙の塵」)など、また違ったタイプの演劇も呼んでおり、良いバランスでやっていけたらと考えています。


――謎解き「バック・トゥ・ザ・バックステージオンファイア」 ~失われた市民の声(レジスタンス)~については、単に「見せる」だけでなく、観客参加型の新たなタイプのプログラムとなっています。
荒川 もともとはライブストリーミング演劇として「バックステージオンファイア」「エスケープフロムライブラリー」(※両作品ともかなざわ演劇人協会のYouTubeアカウントにて無料配信中)という作品があり、梅津瑞樹さんのファンを中心に熱く支持されている作品です。演劇の面白さを共有するという意味で、ぜひ劇場の作り手側のことも知ってもらいたいという思いがありましたので、劇場のバックステージツアーを企画しましたが、単に劇場を見ていただくだけではもったいない。作品の世界観に沿って体験型にすることでより楽しんでいただけるのでは、という思いもありました。特に今回は、石川の演劇人にイマーシヴ(没入型)っぽい形で作品の世界観の人を演じてもらいながらアテンドしてもらいます。

――“謎解き”の要素を入れることで、演劇ファンだけでなく謎解きが好きな人たちも足を運ぶことになるかと思います。
荒川 謎解きの難易度と演劇的要素のバランスの調整が難しいところではあるんですが(苦笑)、“やや難しめ”の問題設定で、キャストがヒントを出すという形にしようと考えていて、ガチの謎解きファンの方に来ていただいても楽しんでいただけるようにしたいと思っています。無料配信中の「バックステージオンファイア」「エスケープフロムライブラリー」を見てから来ていただくと、作品に絡んだ謎も出てくるので、より楽しんでいただけると思います。
――アンバサダーを務める梅津さんが出演する舞台「死神遣いの事件帖 終(ファイナル)」も、ファンにとっては非常に楽しみなコンテンツです。
荒川 これは東映のムビ×ステのシリーズですが、この作品には私が以前から演出映像のスタッフとして入っていまして、加えてプロデューサーの中村恒太さんも金沢出身なんです。それもあって、この芸術祭のお話が来たとき、真っ先に中村さんに相談しまして、地方公演をどこでやるかまだ決まっていなかったので、お願いしました。
――キャストの鈴木拡樹さん、安井謙太郎さん(7ORDER)は記者会見にも出席されるとのことで、演劇は好きだけど、地方在住で、生で演劇を見るのが難しいというファンにとっては非常に大きな機会ですね。
荒川 東京と大阪でほとんどの演劇がつくられているという現実があります。でも、当然ですが、地方にもファンの方々はいらっしゃいます。そういう方たちが生の舞台を見るとなると、チケット代、交通費、宿泊費で10万円近いコストになることもある。「バックステージオンファイア」「エスケープフロムライブラリー」を配信という形でやったのも、演劇の地域格差をどうにか埋められないかという思いがあったからです。今回、中村さんにいろいろ無理をお願いして、なんとか地方の方たちにも生の観劇の機会を届けられたらという思いで実現に至りました。
――金沢は観光都市であり、全国各地から観光目的で訪れる方も多いかと思います。一方、この演劇祭が目的で東京や全国各地から金沢を訪れる人も多いでしょうし、県内や近隣から足を運ぶ方もいると思います。ディレクターとしては、どういった観客層を想定されていますか?
荒川 もともと、県と話していたのは「石川県の人たちに向けて開催する」というものだったんですが、実際にやってみると、県外からの人がすごく多かったんです。「フジロック」もそうですが、苗場に全国各地から人がやってきます。その熱気を感じて、地元の人たちも興味を持ち、盛り上がっていくという流れのために、まず“熱気をつくる”ことを優先しようとしています。梅津さんや「死神遣いの事件帖」、「ダウ90000」といった力を借りて、「なんか劇場に人が集まってるよ」という状態を作り出し、それを見た石川の人たちが関わってくれるようになったらと思っています。経済効果という意味でも、東京や大阪の人たちが石川に来て、宿泊していくという流れをつくっていけたらと思っています。
――お話を聞いていると、映像作家としてキャリアを重ねてきた荒川さんがディレクターをやっているという部分が、この演劇祭の様々な特色として活かされているのを感じます。
荒川 普通、こういう演劇祭のディレクターって演出家や劇作家がやるものですよね。演出映像の仕事をやっている人間がディレクターを務めて、しかもそのディレクターが直々にメール対応までやっている演劇祭ってなかなかないと思うし、変な演劇祭だなと思うんですけど……(苦笑)。
でも演出映像の仕事をやってきたからこそ、そのつながりで様々な作品を呼べたり、予算や興行に関することにも携われた部分があると思います。9月に開く公開記者会見も当初はメディアだけを呼ぶはずでしたが、一般の方を募集して“サポーター記者”として写真と一緒に拡散していただくことにしました。
そういう企画を含めて、僕がやりたいのは、観客の人たちと一緒につくるということなんです。作り手側も観る側も「演劇が好き」という点は同じですから、その思いを共有したいし、その盛り上がりを日本中に広げていけたらと思っています。これまで映像スタッフとして、客席の一番後ろのオペレーターの席から、客席のファンがどういう思いでステージを見つめているかを見てきたからこそ、観客の思いに応えるような演劇祭にできたらと思っています。
取材・文/黒豆直樹
荒川ヒロキ プロフィール
石川県生まれ。劇団主宰を経て独学で映像制作を始める。
ライブスペクタクル「NARUTO」、ミュージカル「黒執事」などの数多くの舞台作品で演出映像を手掛ける。
「いしかわ舞台芸術祭2025」
日程:2025年9月5日(金)〜12月20日(土)
★プログラムにより日程、会場は異なります。
最新の詳しい情報は、「いしかわ舞台芸術祭2025」オフィシャルサイトまで
<公演情報>
謎解き「バック・トゥ・ザ・バックステージオンファイア」
〜失われた市民の声(レジスタンス)〜
2025年9月13日(土)・14日(日)
9月13日(土) 12:00/14:00/17:00/19:00
9月14日(日)12:00/14:00/17:00
各回35名定員

一般発売中
チケット販売ページ:
https://w.pia.jp/t/back-to-the-backstageonfire/
Pコード:657-736
いしかわ舞台芸術祭公式HP:
https://ishikawabutai.jp/
謎解き「バック・トゥ・ザ・バックステージオンファイア」 〜失われた市民の声(レジスタンス)〜プログラムページ
https://ishikawabutai.jp/program/QhBJQCOV
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