「市子」戸田彬弘の「爽子の衝動」劇場公開、父を介護する19歳が追い詰められる
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映画「爽子の衝動」メインビジュアル
「市子」の戸田彬弘(チーズtheater)が監督・脚本・編集を担当した上映時間45分の映画「爽子(そよこ)の衝動」が、10月10日から東京・新宿シネマカリテなど全国にて順次劇場公開される。
「市子」を制作したチーズfilmと、脚本家・野島伸司が総合監修を担当するポーラスター東京アカデミーがタッグを組み、期待の俳優を主役に据えて映画を制作するプロジェクト「B.A.P (Boost Actor Project)」の第1弾となる「爽子の衝動」。四肢まひと失明を抱えた父・保と暮らす19歳の園田爽子は、絵を学ぶという夢を心に秘めたまま、介護と生活費のために日々を費やしていた。生活保護の申請も福祉事務所の水際作戦で通らず社会から孤立していく中、唯一頼りにしていた訪問介護士も交代。ケースワーカーの訪問をきっかけに爽子の生活はさらに不安定になり、彼女は追い詰められていく。そんな中で新しい介護士・桐谷さとが現れ、抑えきれない衝動が爽子を取り返しのつかない行動へ駆り立てるのだった。YouTubeでは予告編が公開中だ。
爽子を演じたのは「恋愛終婚(レンアイオワコン)」の古澤メイ。キーパーソンとなるさと役は、小川黎がオーディションを経て射止めた。保役で「コントラ KONTORA」「マイマザーズアイズ」の間瀬英正、さとの上司役で「敵」「六月の蛇」の黒沢あすか、ケースワーカーの遠藤役で「由宇子の天秤」「水いらずの星」の梅田誠弘が出演している。菊池豪、遠藤隆太、木寺響、木村恒介、中川朱巳もキャストに名を連ねた。
本作について、「空白」「ミッシング」などで知られる映画監督の吉田恵輔は「本当に困窮している人が、分かりやすくSOSを出せる能力があるかは別問題だと改めて気付かされた。自分に何が出来るかは分からないが、考えるきっかけになる素晴らしい作品」とコメント。「正体」「悪い夏」の原作者である小説家・染井為人は「戸田彬弘という映画作家は、フィクションを通して、観る者ひとりひとりに、容赦のない問いを突きつけてくる。その問いは、優しさの形をしているだけに、なおさら深く胸に刺さる」と述べている。
※吉田恵輔の吉はつちよしが正式表記
吉田恵輔(映画監督)コメント
制度が悪いとか、運命だとか、何かのせいで片付けられない事実がある。
遠い場所じゃなく、手の届く距離で起きている。
本当に困窮している人が、分かりやすくSOSを出せる能力があるかは別問題だと改めて気付かされた。
自分に何が出来るかは分からないが、考えるきっかけになる素晴らしい作品。
染井為人(小説家)コメント
切なく、儚く、そして胸の奥を静かに締めつける物語だ。
もし、この現実のどこかに爽子のような少女がいたならあなたは、彼女の孤独にどれほど寄り添えるだろう。
その前に、差し伸べるべき手を、あなたは本当に伸ばせるのだろうか。
戸田彬弘という映画作家は、フィクションを通して、観る者ひとりひとりに、容赦のない問いを突きつけてくる。
その問いは、優しさの形をしているだけに、なおさら深く胸に刺さる。
暉峻創三(映画評論家 / 大阪アジアン映画祭プログラミングディレクター)
重厚かつ大胆なアプローチで人の凄絶な生き様に全力投球で迫った「市子」。
その衝撃的な記憶も冷めやらぬうちに生み出された「爽子の衝動」は、けっして息抜きに作られた小品などではない。
「市子」にも負けず劣らず凄絶な人間の生き様を、ストイックに、野心的に、鋭利に切り取った結果が、図らずも45分という短編のサイズに濃縮されたのだ。
今、社会の闇に埋もれて、人々の普段の生活からは見えにくくなっている人間たちを描かせて、戸田彬弘の右に出る者はいない。
伊藤さとり(映画評論家)コメント
繊細なまでに計算し尽くしたインティマシー・シーンにおける描写、更に観客の思考力を信じ抜いた大胆な脚本。
ハードな内容なだけに目を背けたくなるが、それをしてしまったら自分にとって都合の良い社会の中で生きていく道を選んだ無責任な人間になってしまう。
本作はフィクションでありながら現実の断片を集めて作られた真実の叫びだった。
本来、映画は私達が生きている社会を知る為の表現方法であり、メッセージ性があってしかるべきだ。
それを念頭に置いて本作を観れば、短絡的に善悪を決められるほど社会の構図も人間関係も簡単ではないことに、この結末から気づいてしまうだろう。
これを知ってしまった以上、私達に一体、何が出来るのか。それが一番、重要なことだ。
花瀬琴音(女優)コメント
生まれたときから人生は決まっている─そう錯覚させる不条理な現実。
絶望的な環境の中でも、希望を見つけて懸命に生きる爽子の姿を、私はただ静かに見つめることしかできませんでした。
彼女を取り巻く環境や理不尽な世相を的確に映し出し、強く訴えかける本作のあり方に、映画人として深い誇りと敬意を感じます。
これは映画の中だけの話ではなく、現実に起こり得る物語です。
たった45分間、あなたはこの現実から目をそらさずにいられますか。
©「爽子の衝動」製作委員会